1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、現在単行本55巻を数え、累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。

仲間たちと一緒にスキーをしに出掛ける宗達。新幹線に乗って目的地に向かう道中、「岩間さん、スキー場でのウマい酒の飲み方ってどんなのですか?」と聞かれたときの答えがさすがだ。昼ご飯の前にゲレンデのてっぺんからふもとまで一気にすべりおりてきてロッジの食堂で飲む生ビールや、晩御飯を食べながら飲むホットウイスキーの美味しさも捨てがたいが「もっとオシャレな飲み方があるんだな」という。それで語り出したのがこの名言である。雪の中に白ワインの瓶を埋めておくなんて、なんとも宗達らしい、ちょっと憎ったらしいほどにひねりの効いた楽しみ方だ。
「山頂で飲むキンキンに冷えたワインは最高だぜーっ」と得意げな宗達に対し、一同は「さすがは岩間さん」と感心し、そのまま真似してみることに。しかし、実際にやってみると、タイミング悪く、視界もきかないほどの吹雪となり、冷えた白ワインを飲んでも体が冷えるだけ。「これのどこが最高なんですか…」とみんなが散々文句を言っているその頃、なぜか宗達はスキーをせず、暖かい食堂で雪景色を肴に悠々と酒を飲んでいるのであった。
特に初期の『酒のほそ道』には、おいそれとマネのできないハードコアな飲み方がたくさん登場するのだが、これもそのひとつだろう。38度2分の熱を出して会社を休むことにした宗達。セキも鼻水も出て、どうやら完全に風邪をひいてしまったらしい。しっかり眠って体を休める前に、栄養をとっておかねばと「玉子酒」を作って飲むことにした。あんまり美味しいものにはならなかったが、「こりゃクスリだなクスリ」と、ひと思いに飲み込む。
それで寝ればいいものを、テレビで見た「ホットワイン」の作り方を思い出す。今度は玉子酒より美味しくなり、「栄養つけにゃ」とチーズも食べる。と、ここから徐々に方向性が怪しくなってきて、おろししょうがのしぼり汁を温かい紹興酒にあわせたオリジナルの「紹興薬酒」を作って飲み、風邪に効くというのでネギを網で焼いて食べ、さらには「ホット・サケ」、つまりはただの熱燗を飲み始める。
「やっぱりコイツがいちばんいいや」とほろ酔いの宗達。とうとう粒ウニと塩辛を用意してテレビを見ながらコタツの小宴。「早く寝ろ早くーっ」と作者もマンガの外からつっこむほどの自由気ままっぷりである。
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次回「小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は7月26日(金)配信予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=スズキナオ