不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。
● 「自筆証書遺言」「公正証書遺言」どう違う? ●
財産の分け方について被相続人の希望を伝えていても、遺言書で指示をしていない状態でいざ相続が発生すると相続人がそれぞれの権利を主張し、家族間で揉めてしまうことがあります。(文・ともり まゆみ)
連載(1) 沖縄の相続で多いのは現金?不動産? 対策しないと「争続」に
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連載(9) 売却益にかかる税金「ゼロ」にできたかも…空き家相続の長女、確認しておきたかったこと二つ
概要・経緯
相談者は被相続人の次男。被相続人である父は自宅とアパート、現金預金数百万円を所有していた。長男には自宅を、長女には現金預金を、次男にはアパートを相続する予定だということを公言し、子らもそれぞれ納得していたので、遺言書などは不要だと思い準備しなかった。
どうなった?
相続が発生し、次男は生前父が話していた通りに遺産を相続する内容で遺産分割協議書を作成。しかし資産価値の高いアパートを次男が相続することに不満を感じた長男と長女が署名・押印を拒否し法定相続割合での分割を要求。アパートを共有名義にすることはできず、売却し現金化せざるを得なくなった。
どうすべきだった?
・専門家にもめない相続について相談する
・もめる相続の大半は遺言書がなかったことが原因だと知る
・大切な家族だからこそ遺言書を作成し、もめ事の種を取り除く
遺言書なければ法定相続割合に
被相続人である父が元気なうちは、その財産をどう分けるかについて相続人が口を出しにくいもの。相続人である子らは「父の言う通りに従う」と言うしかありません。
しかし、いざ相続が発生し、父の言っていたとおりに遺産分割協議書を作成すると、その分け方に不満をもつ相続人が署名・押印を拒否することは珍しくありません。兄弟姉妹とはいえ、それぞれが独立した世帯をもつ大人であり、家族構成や生活水準も違います。遺産相続でみすみす損をしたくはありません。
このように口頭で伝えていただけで遺言書のない相続は、法定相続割合に応じた分け方になることが、相続の基本的な知識として流布されており、その通りに分けてほしいと願うのは当然の流れとも言えます。
また、一度遺産分割でもめてしまうと、兄弟姉妹という近しい関係だからこそ感情的になってしまい、法事などで顔を合わせてもお互いが知らんぷりという状況になってしまった! なんていう話もあります。
そんな悲しい相続にならないためにも、やはり遺言書の作成を強くお勧めします。
遺言書作成を家族の目標に
遺言書には実際利用されている方法で「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類があります。
「自筆証書遺言」はご自身の直筆で書き上げる遺言書であり、書式や内容に不備がなければ法的に有効となります。紛失等を防ぐため、2020年7月から法務局で保管するサービスが開始されました=下記の「用語説明」に詳細。
「公正証書遺言」は、ご自身が相続する財産とその分け方を公証人に伝え、遺言書を作成してもらいます。法的に有効な公正証書として保管してもらえるので、紛失等の心配はありません。 遺言書があれば、その内容通りに財産が相続される(法定相続人の遺留分を侵害していないことが前提)ので、相続人同士でもめる可能性は圧倒的に低くなります。家族でぜひ相続について話し、遺言書作成を共通の目標にしてみてはいかがでしょうか。
用語説明 「自筆証書遺言書保管制度」
2020年に始まった法務局による制度。これにより、自宅等で保管していた遺言書の紛失や改ざんの可能性がなくなり、開封のための家庭裁判所の検認手続きが不要となった。
[執筆者プロフィル]
友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
ともりまゆみ事務所
https://tomomayu.com/
電話=098・988・8247

