不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを解説していきます。
● 行方がわからない相続人がいる場合の相続 ●
遺言書のない相続の場合、法定相続人全員の署名捺印が必要です。行方も生死もわからない法定相続人がいる場合、どのように相続を進めればいいでしょうか。(文・ともり まゆみ)
概要と経緯
相談者は長男。弟の次男は20年前から連絡が途絶えてしまい、生死もわからない状態。そんな中で父が亡くなり、他の相続人と話し合った結果、実家の土地・建物は長男が相続することとなった。
【イメージ図】
どうなったか?
相続の手続きを始めたところ、遺産分割には法定相続人である次男の署名・押印が必要だと判明。次男の居場所も生死も分からない中、手続きができないまま10年がたち、その間に母と長女が亡くなった。長女の代襲相続(亡くなった本人の代わりに、その配偶者や子が法定相続人になること)により相続人が増えたため、長男への名義変更はさらに困難になってしまった。
今回のポイント
・遺言書のない相続では、法定相続人全員による遺産分割協議が必要
・7年以上、居場所も生死も分からない場合は失踪宣告が利用できる
・失踪宣告により行方不明の相続人抜きで遺産分割協議が進められる
・遺言書があれば行方不明の相続人がいてもスムーズに遺産分割ができる
不明者除き遺産分割協議が可能に
不動産に限らず相続財産の分け方を決めるには、法定相続人全員による遺産分割協議が必要です。ひとりでも欠けた状況での遺産分割協議は無効となります。また、相続した不動産を登記する際にも、法定相続人全員の署名・押印がされた遺産分割協議書と印鑑証明の提出が必要となります。
今回のご相談の場合、相続発生時に法定相続人である次男が10年以上にわたって行方不明であることから、遺産分割協議を行うことができませんでした。
家庭裁判所によって失踪宣告がされると、行方不明者は法律上「死亡した」とみなされます。そのため、行方不明者を除いた法定相続人で遺産分割協議を行えるようになるのです。
7年未満なら財産管理人を選任
行方不明になって7年未満の場合、家庭裁判所で不在者財産管理人選任の申し立てをして、選任された管理人が行方不明者の代理人となり遺産分割協議を行えます。しかし、管理人は基本的に行方不明者の財産の保全を目的とするため、行方不明者に不利な遺産分割協議は家庭裁判所が許可しない可能性があるので注意が必要です。
スムーズな相続手続きをするために最も有効なのは、やはり遺言書を準備することです。遺言書があれば行方不明者がいても遺産分割協議なしで財産を相続させることができます。遺言書の作成が難しいようであれば、行方不明の年数に応じて失踪宣告または不在者財産管理人選任の手続きを行いましょう。
時間がたてばたつほど、法定相続人の数も増え、手続きの手間も増えていきます。法定相続人の中に長年行方が分からない人などがいる場合は、制度の利用を検討しながら、相続の手続きをすすめていきましょう。
用語説明 「失踪宣告」
7年以上、居場所や生死が不明な人について、利害関係者が家庭裁判所へ申し立てを行うことで、失踪人を「法律上死亡した」とみなす制度。失踪宣告がされると相続などの財産手続きを本人抜きで進めることができる。
[執筆者プロフィル]
ともりまゆみ/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
ともりまゆみ事務所
https://tomomayu.com/
電話=098・988・8247
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