東京電力が福島第1原発2号機で発生した溶融核燃料(デブリ)を試験的に回収した。
 デブリは、原発事故によって核燃料が溶け落ち、原子炉内にあった構造物と混じり合って固まったもので、極めて強い放射線を出す。

 今回取り出したのは、5ミリ程度の小石状で重さは0・7グラム。東電は研究施設で成分や構造を分析し、今後の取り出し方法の検討に生かす。
 デブリの回収は、2011年3月の原発事故後初めてだ。
 ただ1~3号機にあるデブリは推計880トン。今回の回収は、先が見えない道のりのスタート地点に立ったに過ぎない。
 事故後、当時の民主党政権がまとめた廃炉工程表は10年以内のデブリ取り出し開始を掲げた。
 目標は自公政権も引き継いだが、前段となる原子炉格納容器の内部調査は難航した。デブリを取り出すための機器の開発も遅れ、3度の延期を繰り返してきた経緯がある。
 今回の回収作業も、当初は8月に始める予定だったが、取り出し装置の不備が分かり中断。その後、装置が故障するトラブルもあり、2度の中断を余儀なくされた。
 取り出し装置の不備は、東電や元請け企業が現場を下請け任せにし、自ら確認していなかったことが原因だった。
 廃炉作業の根幹に関わる初歩的なミスで、東電の姿勢が問われる。

■    ■
 東電は、廃炉に向けたデブリの取り出しについて(1)2号機で24年度末までに範囲を広げ微量を採取(2)20年代後半に規模を拡大(3)30年代初頭に大規模な作業ができる3号機で本格開始-するとし、事故から30~40年の41~51年には廃炉を完了するとしている。
 しかし、既にデブリの取り出し開始は3年遅れている。
 試験的に取り出したデブリの分析から何が得られるのかも現時点では未知数だ。肝心な回収の工法すら定まっていない中で、880トンものデブリを本当に全て取り出すことができるのか。
 取り出した後はどのように保管し、最終的にどう処分するのかも決まっていない。
 政府や東電は現状を直視し、今後の現実的な廃炉の道筋を示すべきだ。
■    ■
 国内の原発は事故後、安全確認のためいったん全ての運転が停止された。
 徐々に再稼働され、先月は被災地で初めて宮城県の女川原発が再稼働した。
 だが6日目には、トラブルを起こして再び停止を余儀なくされた。
 福島の事故の教訓は生かされているのか。
 岸田文雄政権は22年、事故後に歴代政権が維持してきた「原発の依存度低減」を転換し、最大限の活用を表明した。
 このまま原発に頼り続けていいのか。
廃炉の現実に向き合い、エネルギー政策を根本から見直すことも求められる。
編集部おすすめ