2018年7月~20年2月ごろ、2棟の建設工事で、実際には業務をしていない1級建築士に大学からアドバイザー報酬として計21回、計約1億1700万円を支払わせ、損害を与えた疑いが持たれている。
元理事長は1級建築士の報酬のうち、約3700万円を紙袋に入れた現金で還流させ、私的に流用したとみられる。銀行口座を使わず、発覚を免れる狙いだった可能性があり、悪質だ。
卒業生らの刑事告発を受け、警視庁は昨年3月に元理事長の側近で同大の同窓会組織「至誠会」の元職員に、勤務実態がないのに至誠会から不正に給与が支払われていたとして、大学や元理事長の自宅などを家宅捜索した。大学の施設工事の支出など、不透明な資金の動きを捜査していた。
その後に設置した大学の第三者委員会は同8月の報告書で「理事長に権限が集中する1強体制に問題がある」「適格性に疑問」などと指摘した。
医学部卒業生の親族向け推薦入試で至誠会が受験生側から寄付を受けたり、教員の採用や昇進と至誠会への寄付を関連付けたりしたことを挙げ、金銭に対する「強い執着」があると元理事長を批判していた。
報告書を受けた臨時理事会で元理事長は「辞めるつもりはあるが、今ではない」と発言したものの、理事10人全員一致で解任された。批判を真摯(しんし)に受け止めた様子は見られない。
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同大は100年以上の歴史を持つ。卒業生で、創立家一族の元理事長は14年に副理事長、19年に理事長に就任し、人事と経理を一元管理する経営統括部を新設した。「ヒト・モノ・カネの実権を握った」ほか、同窓会組織の会長を兼務し、影響力を増大させた。
私立大の理事長の不祥事は目立つ。
一般の企業などと比べ、大学の組織は外部からの目が届きにくく、密室化しやすい。
権限が集中し、異論を認めない閉鎖的な環境で、専横的、独裁的となり、ガバナンス(組織統治)不全に陥っていた可能性がある。
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私立大には国や自治体から助成金が支給されるなど公共性が高い。
4月施行の改正私立学校法は、評議員会に理事の解任請求権を与え、理事と評議員の兼任を禁じる。また理事の背任行為や贈収賄などに罰則を新たに設けた。
ただ、評議員会を「理事会の諮問機関」という位置付けにとどめている。権限を分散し、ガバナンスを強化するといった狙い通りに改正法が機能するかどうか、未知数だ。
学生や社会の信頼を回復するには、透明性を高める仕組みづくりを急がなければならない。