委員会の事務を担う国連人権高等弁務官事務所に支払う日本の拠出金の対象から、委員会を外すよう伝えたという。
さらに男女共同参画分野の取り組みを理解してもらうために予定していた委員の訪日プログラムの取りやめも決めた。
同事務所には、年間2千万~3千万円を拠出している。「気に食わない勧告だから金を使わせない」というようなやり方は冷静さを欠いている。国際社会からは大人げない対応に映るだろう。
女性差別撤廃委は昨年10月、日本の女性政策について最終見解を公表した。
そのうちの一つが皇室典範改正の勧告で、女性差別撤廃条約の理念と「相いれない」と指摘したのだ。
これに対し政府は「皇位継承の在り方は国家の基本に関わる事項で、委員会で取り上げるのは適当ではない」と反論した。
委員会の役割は女性差別撤廃条約の履行状況の監視だ。条約は1979年に国連総会で採択され、日本は85年に批准した。
その影響力は大きく、過去には結婚年齢の男女格差撤廃や、女性の再婚禁止期間廃止など法改正にもつながっている。
政府が抗議の意を伝えることはあってもいいが、拠出金は別次元で考えなければならない問題である。
対抗措置ではなく、説明と対話を進めるべきだ。
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今は封印されているが、女性天皇を認めようとの議論は過去にあった。
2005年、小泉政権は「女性・女系天皇」を容認し、性別に関係なく長子が継承するとした有識者会議の報告を受け、皇室典範改正を目指した。
共同通信が昨春実施した世論調査では、女性天皇を認めることに計90%が賛同し、女系天皇も計84%が賛成とした。
政府は「皇位につく資格は基本的人権に含まれず、女性に対する差別に該当しない」と主張する。
国民の意識と隔たりがあるのではないか。
皇室典範の規定について委員会は「日本の立場に留意する」との考えも示している。
社会意識の変化を踏まえ勧告に向き合い、皇位継承を巡る抜本的な議論につなげるべきだ。
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今回の報復的な措置は、対応に不満を示し世界保健機関(WHO)から脱退を表明するなど、国連機関を軽視するトランプ米大統領のやり方をほうふつさせる。
拠出金停止が、選択的夫婦別姓導入など、その他の勧告へ影響を及ぼさないか心配だ。
委員会へ制裁を科すことが、日本がジェンダー平等に後ろ向きだという誤ったメッセージにもなりかねない。
普遍的な人権理念に基づき、対抗措置の撤回を求める。