警視庁公安部が捜査した事件で外為法違反罪に問われ、初公判直前に起訴が取り消された横浜市の機械メーカー「大川原化工機」の社長らが、冤罪(えんざい)を生んだ捜査機関の責任を追及する訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、警察と検察側に賠償を命じた。
 一審に続き、逮捕、起訴を違法と認めた。
捜査の違法性については、新たに提出された証拠に基づき、地裁判決より踏み込んだ内容になった。
 起訴取り消しから既に4年近くがたつ。警察と検察は、まず非を認め、関係者に謝罪し、その上で捜査の経緯をたどり、手法を検証し、再発防止につなげる必要がある。
 上告すべきではない。
 問題となったのは、霧状の液体を熱風に当て、瞬時に粉末化する同社の噴霧乾燥装置。「軍事転用可能な機器」を中国などへ無許可輸出したと疑われ、社長ら3人が逮捕、起訴された。
 経済産業省令では外為法の規制対象を「内部の滅菌または殺菌ができる装置」と定める。訴訟では、国際基準の薬品による殺菌とは別に、公安部が「高温による殺菌も含む」とした独自解釈が争点となった。
 地裁が否定した解釈の違法性について、高裁は強制捜査前に経産省から問題点を指摘されながら「再考することもなく逮捕に踏み切った」と新たに認定した。
 合理的根拠が欠如する中での長期にわたる捜査を違法と判断した。
 「立件ありき」で消極意見を受け入れない捜査機関の姿勢が浮かび上がる。
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 高裁判決が、罪刑法定主義に触れている点も見逃せない。

 どのような行為が、どのような刑罰を科されるか法律で事前に定めているのが刑事司法の原則である。
 捜査機関が法令を独自に解釈する手法は、「相当ではない」と判断した。
 警察や検察には原則に立ち返り、捜査、起訴の在り方の見直しを求めたい。
 取り調べについても「重要な弁解を封じ、犯罪事実を認めるかのような供述内容に誘導した」「偽計的な方法で見立てに沿った内容に署名指印させた」などと違法性を指摘された。もはや「捏造(ねつぞう)」である。
 度重なる保釈請求を認めなかった裁判所の対応も問われるべきだ。勾留は約11カ月に及び、1人は「被告」のまま亡くなった。
 無罪を主張すれば身柄拘束が長引く「人質司法」の一掃を求めたい。
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 ずさんな捜査の背景に何があったのか。公安部はその手掛かりとなる捜査員アンケートを実施しながら、約1年後に結果を廃棄したことが分かっている。
 一、二審を通じ、証言台で元公安捜査員が捜査の問題を次々と告発した。
 アンケートにも組織にとって「不都合な事実」が記されていたのではないか。

 当時の安倍政権が経済安全保障を重視する中、「引き返す勇気を持てなかった」といった見方もある。
 裁判所の問題を含め、第三者による中立公正な調査、検証が不可欠だ。
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