多くの人々に愛されたスーパースターが旅立った。
　プロ野球の長嶋茂雄さんが、肺炎のため東京都内の病院で死去した。
８９歳だった。
　１９５８年に巨人入りし、７４年の引退までに首位打者６度、本塁打王２度、打点王５度、リーグ最優秀選手５度の華々しい成績を残した。
　記録だけではない。豪快な打撃、三塁手としての華麗な守備でファンを魅了した。王貞治さんとの「ＯＮ」コンビで６５年から９年連続日本一を達成するなど球団の黄金時代を築いた。
　「ミスタープロ野球」と呼ばれた長嶋さんの歩みは戦後の高度経済成長期と重なる。
　子どもたちが好きな物として「巨人、大鵬、卵焼き」が流行語になったのもこの時期。スポーツを楽しめる平和な社会の中心に、長嶋選手の活躍があった。
　その人気は「アンチ巨人」はいても「アンチ長嶋」はいないと言われるほど。現役引退時の名ぜりふ「わが巨人軍は永久に不滅です」も時を超えて語り継がれている。
　監督としては通算１５シーズンも巨人を率いて２度日本一に。首位と１１・５ゲーム差を逆転し優勝した９６年には、長嶋監督の「メークドラマ」が流行語になった。

　ユニホームを脱いだ後もテレビ解説やＣＭ出演で支持を集め続けた「スポーツ文化人」の先駆けの一人でもある。
■　　　　■
　テレビの野球中継といえば「巨人戦」の時代。長嶋選手は県内の野球ファンも魅了した。
　初来県は６８年のプロ野球オープン戦沖縄シリーズ。広島の投手で県出身の安仁屋宗八選手との対決では、満場のファンが「安仁屋頑張れ」「チバレー長嶋」と両選手に惜しみない声援を送った。
　くしくもこの日は屋良朝苗氏が初の公選行政主席に就任した日に当たる。那覇市長選の投開票も行われるなど、沖縄にとっても歴史的な節目だった。
　長嶋選手の活躍に新しい時代の幕開けを感じた人も多かったのではないか。県内では野球少年だけでなく、大人たちにとっても夢と希望を与えてくれるヒーローだった。
　現役引退後には県内企業や団体の呼びかけに応えて何度も来県したという。
　沖縄のファンや子どもたちへの温かなまなざしもうかがえる。
■　　　　■
　２００４年、野球の日本代表監督としてアテネ五輪を控えていた時に脳梗塞で倒れ、右半身にまひが残った。

　「努力は人に見せない」と語り、選手時代は陰の鍛錬を見せなかったが、苦しいリハビリテーションに打ち込む姿を隠さず公開。そうした姿勢には多くの人が勇気づけられた。
　生涯スターであり続けた長嶋さん。プロスポーツ選手のあるべき姿を体現した一人ともいえよう。
　人に夢を、社会に希望を与えるスポーツを。今を生きる選手たちに受け継いでほしい。
編集部おすすめ