サイバーセキュリティー事業を手がけるセキュアイノベーションの栗田智明社長=那覇市の同社
那覇市に本社を置く「セキュアイノベーション」は今年で設立10年を迎える。地方都市では珍しいサイバーセキュリティーに特化したIT企業だ。
年々、右肩上がりで増えているサイバー犯罪。クレジットカードなどの個人情報の詐取、顧客データを人質にした身代金要求など、犯行の手口も目的も複雑化している。
栗田社長がセキュア社を立ち上げたのは2015年。深刻な被害が増えていたが、サイバーセキュリティーに関するサービスは少なかった。「この市場は伸びる。先手を打てば沖縄でも成功できる」と見込み、企業のサイトやネットワークに異常がないか遠隔監視するサービスを始めた。
沖縄はIT企業の集積地でもある。1998年に沖縄県が情報通信業をリーディング産業と位置付け、発展に注力してきた。IT企業は2019年に900社を突破。雇用者数は4万人を超え、総売上額は年間4千億円台で推移する。
一方、従業員1人当たりの給与は全国46位。「人件費の安さ」に引かれた県外企業の進出が多かったことが一因とされている。給与水準を高めるため、付加価値の向上が最大の課題だ。栗田社長は「専門性の高いサイバーセキュリティーの分野でエンジニアが育てば、付加価値向上につながる」と沖縄で事業展開する意義を説く。
そんな思いとは裏腹に、セキュア社設立当初は販売不振に苦しんだ。
若手社員とミーティングする栗田智明社長=那覇市の同社
サイバー犯罪は増加傾向にあったが、セキュリティーに対する社会的関心はまだ追いついていなかった。栗田社長は、セキュリティーへの意識が高い大企業の多い都市部に狙いを定め、営業活動を展開。東京や大阪への出張を繰り返した。
システム開発などのセキュリティー以外の仕事を請け負い、資金を回す日々が続いた。
さらに、人材育成への投資も経営の重しとなった。サイバーセキュリティーは専門性が高い分、人材育成に費用もかかる。栗田社長は「あの頃はとても苦かった」と明かす。1人当たり80万円もかかる研修費を支払うこともざら。出張しても契約が取れなかった夜は眠れなかったという。
風向きが変わったのは2018年だった。
採用を呼びかけるセキュアイノベーションのテレビCM。事業拡大のため、採用活動に力を入れている(提供)
前年から、顧客データを人質に取って身代金を要求する「ランサムウエア」の被害が世界的に多発。日本国内でも目立つようになっていた。
ランサムウエアは無差別にシステムを大量攻撃する。システムに弱点があれば、大企業や中小などの事業規模にかかわらず、被害を受ける。2018年10月には奈良県の病院のシステムがランサムウエアに感染。医療機関まで被害に遭うことが分かり、サイバーセキュリティーへの関心が一気に高まった。
セキュア社も中小企業を中心にセキュリティーの受注が増えていく。栗田社長は「人材育成に先行投資していたおかげで、受注が増えても対応できた」と振り返る。
現在では、設立当初の社員が後輩を指導できるようになり、「人材育成の好循環が生まれている」。
サイバー犯罪は次々と新たな手口が生まれるため、技術の習得に終わりはない。今でも社員の県外企業派遣や研修実施などに時間と予算を惜しまず投資している。
それが実り、2020年4月には、サイバー攻撃を早期に発見し、異常を知らせるセキュリティーソフト「EISS(アイズ)」を独自開発した。栗田社長は「セキュリティー製品メーカーは国内でも少ない。地方では非常に珍しいケース」と胸を張る。
100人を超える従業員の7割は沖縄出身だ。栗田社長は「大都市で働かなくても、技術を磨ける環境を整備できた。地元愛の強いウチナーンチュの社員たちの意欲向上にもつながっている」とする。IT業界でも人材確保は大きな課題だが、リゾート地の沖縄で働ける職場環境は魅力的なようで、県外からも応募が集まる。従業員の9割が沖縄に住んでいる。
セキュア社は2年以内の株式上場を目指している。栗田社長は「サイバーセキュリティーでは信頼性が何よりも重要。上場によって信頼性を高めたい。今後も沖縄の企業として成長し、県経済に貢献していきたい」と意気込む。サイバーセキュリティー事業を手がけるセキュアイノベーションの栗田智明社長=那覇市の同社">
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那覇市に本社を置く「セキュアイノベーション」は今年で設立10年を迎える。地方都市では珍しいサイバーセキュリティーに特化したIT企業だ。
セキュリティーの重要性が高まる中、売り上げは急拡大。設立時は栗田智明社長1人だった社員は100人を超えた。200人態勢を見据え、採用活動にも力を入れる。一方、受注先は8割が県外で、東京や大阪がほとんど。それでも本社を大都市に移す予定はないという。沖縄にこだわる理由を探った。(デジタル編集部・照屋剛志)
年々、右肩上がりで増えているサイバー犯罪。クレジットカードなどの個人情報の詐取、顧客データを人質にした身代金要求など、犯行の手口も目的も複雑化している。
栗田社長がセキュア社を立ち上げたのは2015年。深刻な被害が増えていたが、サイバーセキュリティーに関するサービスは少なかった。「この市場は伸びる。先手を打てば沖縄でも成功できる」と見込み、企業のサイトやネットワークに異常がないか遠隔監視するサービスを始めた。
沖縄はIT企業の集積地でもある。1998年に沖縄県が情報通信業をリーディング産業と位置付け、発展に注力してきた。IT企業は2019年に900社を突破。雇用者数は4万人を超え、総売上額は年間4千億円台で推移する。
一方、従業員1人当たりの給与は全国46位。「人件費の安さ」に引かれた県外企業の進出が多かったことが一因とされている。給与水準を高めるため、付加価値の向上が最大の課題だ。栗田社長は「専門性の高いサイバーセキュリティーの分野でエンジニアが育てば、付加価値向上につながる」と沖縄で事業展開する意義を説く。
そんな思いとは裏腹に、セキュア社設立当初は販売不振に苦しんだ。
若手社員とミーティングする栗田智明社長=那覇市の同社
サイバー犯罪は増加傾向にあったが、セキュリティーに対する社会的関心はまだ追いついていなかった。栗田社長は、セキュリティーへの意識が高い大企業の多い都市部に狙いを定め、営業活動を展開。東京や大阪への出張を繰り返した。
遠く離れた沖縄の、しかも設立したばかりの会社に目を向ける企業は少なかった。ようやく契約目前までたどり着いても、競合する大手のサービスがいいと断られたこともある。
システム開発などのセキュリティー以外の仕事を請け負い、資金を回す日々が続いた。
さらに、人材育成への投資も経営の重しとなった。サイバーセキュリティーは専門性が高い分、人材育成に費用もかかる。栗田社長は「あの頃はとても苦かった」と明かす。1人当たり80万円もかかる研修費を支払うこともざら。出張しても契約が取れなかった夜は眠れなかったという。
風向きが変わったのは2018年だった。
採用を呼びかけるセキュアイノベーションのテレビCM。事業拡大のため、採用活動に力を入れている(提供)
前年から、顧客データを人質に取って身代金を要求する「ランサムウエア」の被害が世界的に多発。日本国内でも目立つようになっていた。
ランサムウエアは無差別にシステムを大量攻撃する。システムに弱点があれば、大企業や中小などの事業規模にかかわらず、被害を受ける。2018年10月には奈良県の病院のシステムがランサムウエアに感染。医療機関まで被害に遭うことが分かり、サイバーセキュリティーへの関心が一気に高まった。
セキュア社も中小企業を中心にセキュリティーの受注が増えていく。栗田社長は「人材育成に先行投資していたおかげで、受注が増えても対応できた」と振り返る。
現在では、設立当初の社員が後輩を指導できるようになり、「人材育成の好循環が生まれている」。
サイバー犯罪は次々と新たな手口が生まれるため、技術の習得に終わりはない。今でも社員の県外企業派遣や研修実施などに時間と予算を惜しまず投資している。
それが実り、2020年4月には、サイバー攻撃を早期に発見し、異常を知らせるセキュリティーソフト「EISS(アイズ)」を独自開発した。栗田社長は「セキュリティー製品メーカーは国内でも少ない。地方では非常に珍しいケース」と胸を張る。
アイズは2024年に特許を取得した。
100人を超える従業員の7割は沖縄出身だ。栗田社長は「大都市で働かなくても、技術を磨ける環境を整備できた。地元愛の強いウチナーンチュの社員たちの意欲向上にもつながっている」とする。IT業界でも人材確保は大きな課題だが、リゾート地の沖縄で働ける職場環境は魅力的なようで、県外からも応募が集まる。従業員の9割が沖縄に住んでいる。
セキュア社は2年以内の株式上場を目指している。栗田社長は「サイバーセキュリティーでは信頼性が何よりも重要。上場によって信頼性を高めたい。今後も沖縄の企業として成長し、県経済に貢献していきたい」と意気込む。サイバーセキュリティー事業を手がけるセキュアイノベーションの栗田智明社長=那覇市の同社">


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