検証報告から浮かび上がるのは、重要な情報の詳細が現場から幹部に報告されず、幹部もまた要求しなかったことだ。そのため捜査の「暴走」に歯止めがかからなかった。

 機械メーカー「大川原化工機」の冤(えん)罪(ざい)事件で、警視庁が検証結果を公表した。当時の公安部長ら退職者を含む19人の処分も発表した。
 2020年、軍事転用可能な装置を無許可で輸出したとして、公安部が外為法違反容疑で社長ら3人を逮捕した事件だ。検察も起訴したが、公判直前、内容に疑義が生じたとして取り消した。
 その後、社長らが違法捜査を訴え国家賠償訴訟を提起。今年6月、警視庁側の敗訴が確定した。
 起訴取り消しから4年余り。ようやく姿勢を改めたものの、遅きに失したと言える。
 公安部が捜査を開始したのは17年。ただ、経済産業省は規制対象に当たるとする解釈に疑義を呈していた。関係者への聴取でも規制対象ではない可能性が浮上していた。
 しかし、こうした情報は十分に共有されなかった。

 検証報告では大きな問題点として「捜査指揮系統の機能不全」を挙げた。
 「検挙すれば社会的反響も大きい」と現場は逮捕に猛進していたとする。
 幹部は必要に応じて捜査方針を再考させるべきだったとし「組織として慎重に検討していれば、関係者の逮捕に至ることはなかった可能性は否定できない」と結論付けた。
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 訴訟では取り調べの違法性についても言及された。
 報告では「相手方の弁解の合理性も検討して供述調書を作成するなど基本を徹底すべきだった」とした一方、違法性については触れなかった。
 立件に不利なデータを捜査員が捜査書類から除外した疑いも指摘されたことにも触れておらず不十分だ。
 社長ら2人は保釈が認められるまで約11カ月にわたって勾留された。勾留中にがんが判明した元顧問は被告のままで亡くなった。
 事件については最高検も「実態の正確な把握が不十分だった」とする検証結果報告書を公表した。保釈の在り方について「亡くなったことは深く反省しなければならない」とする。
 否認する被告の保釈を裁判官が認めない「人質司法」の問題もある。教訓を生かした仕組み作りが必要だ。

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 警察庁は今回、取り調べの録音・録画を外為法違反事件も対象とするよう全国の警察に指示した。
 事件で関係者への任意聴取が1年以上291回に及んだことを考えれば、参考人聴取の可視化も必要だ。
 訴訟では、捜査員ら3人が事件の捜査に関して「捏造(ねつぞう)」などと証言。現場が声を上げにくい公安部の在り方への批判も上がった。
 身内の検証チームによる報告は踏み込みが足りない部分も多い。十分とは言えないものの、その趣旨を組織改革へ生かすことこそが求められる。
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