創設80年を迎える国連の中でも最も重要な役割を担う安全保障理事会(15カ国で構成)が、深刻な機能不全に陥っている。
 常任理事国5カ国のうち1国でも反対すると、議案は否決される。

 戦争当事国であるロシアや、イスラエルの政治的軍事的な後ろ盾になっているアメリカが、拒否権を行使すれば安保理は機能不全に陥る。
 その結果、何が起きているのか。
 国連は1945年10月、第2次世界大戦が終結したその年に「次世代を戦争の惨害から救う」ことを目的に創設された。
 国連憲章は、武力の行使や武力による威嚇を原則禁止している。
 さらに48年12月にはジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)と世界人権宣言が相次いで採択された。
 そして49年8月には、武力紛争時における人道的保護を目的とした四つのジュネーブ条約も採択された。
 国連憲章とジェノサイド条約、世界人権宣言、ジュネーブ条約。戦後、成立したこれらの国際的な取り決めは、戦争違法化と人権重視の流れを決定づけ、国際規範として機能してきた。
 ところが、常任理事国の拒否権行使によって安保理が機能不全状態に陥った結果、諸取り決めに違反する事例も頻発するようになった。
 最も痛ましく悲惨なのは、イスラエルの集中攻撃にさらされているパレスチナ自治区ガザである。
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 国連人権理事会の調査委員会は、イスラエルのネタニヤフ首相らが「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を扇動したと結論づけた。
 国連の組織だけでなく、ジェノサイドを研究する専門家組織や人権団体も同様の見解を表明している。

 国連総会(193カ国)は、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの2国家共存を支持する「ニューヨーク宣言」を142カ国の賛成で採択した。
 英国やフランス、カナダ、オーストラリアなどがパレスチナの国家承認を相次いで表明し、イスラエルの国際社会での孤立が鮮明になった。
 だがネタニヤフ首相は、各国の国家承認表明に対し国連総会の一般討論で「恥ずべき決定」だと猛反発した。対抗措置としてヨルダン川西岸へのユダヤ人入植活動を「続けていく」と警告している。
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 占領地への入植は国際法に違反しているにもかかわらず、それを守る意思はないようだ。
 ガザ攻撃を「テロとの戦い」「自衛の権利」と見なすネタニヤフ首相は、その立場を何よりも優先し、国際法に背を向けるケースが目立つ。
 どの国も「自衛の権利」を持っているが、イスラエルの過剰攻撃は「人間の尊厳」に対する攻撃と見なすほかなく、到底許容できるものではない。
 「法の支配」よりも「力の支配」が重視され、法規範が軽視される現状は、極めて危険である。
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