ネット上の誤情報やデマが原因で国際交流事業が撤回に追い込まれるとは。日本主導でアフリカの経済成長を促す協力の一環になるはずだっただけに、残念でならない。

 国際協力機構(JICA)が、アフリカとの交流推進を目的とした「ホームタウン」事業の撤回を決めた。
 先月、「アフリカ開発会議」の開催に合わせて発表された。日本国内の4市をそれぞれアフリカ4カ国のホームタウンとして認定し、交流を図ることが目的の事業だ。
 これに対し「移民を促進する」という誤情報がネットで広がった。
 発表の翌日、対象国の一つであるナイジェリア政府が「日本が特別ビザを創設する」との誤った声明を出したことも混乱に拍車をかけ、4市には「移民が増えると治安が悪化する」などの抗議電話やメールが殺到したのである。
 事業の在り方を巡り、JICAと対象国との意思疎通に課題があったことは否めない。
 ただ、ナイジェリア政府が声明を修正した後も4市への抗議はやむどころか増加した。背景には誤情報に基づくデマがネットで拡散し続けたことがある。
 JICAや日本政府が誤情報の火消しに走ったのは発表から4日後で、初動対応が後手に回ったとのそしりは免れない。
 撤回の理由についてJICAは「国内で誤解と混乱を招き、自治体に過大な負担が生じる結果となってしまった」と説明する。
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 事業はアフリカとの関係構築を進めるものだ。撤回すれば関係国の信頼を損ねかねない。

 JICAの国際交流は、日本への信頼を獲得するための長期的な投資という側面もある。後退するようなことがあれば、外交上の損失も大きい。
 今回の撤回は、こうした国際交流事業への誤った抗議に正当性を与えることにもなりかねない。
 SNSではアフリカの人々に対して「他の外国人の10倍やばい」など悪質な表現も散見された。
 日本で暮らすアフリカの人々への差別や憎悪が助長されないかとの懸念も深まる。
 政府は一連の騒動を検証し、二度とこのようなことが起きないよう対策を講じなければならない。
 その上で、草の根の国際交流を再スタートしてほしい。
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 政治の動向も気にかかる。
 参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進したことを受け、外国人の規制強化を前面にした主張が散見されるようになった。
 自民党総裁選でも5候補はいずれも外国人政策の厳格化を打ち出している。中には事実関係があいまいなまま外国人を迷惑視するような発言もある。
 支持につながるからといって排外主義的な主張に迎合していないか。
人気取りの発言ではなく、共生社会を築くための堅実な施策こそを求めたい。
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