この問題に対する対立の構造が鮮明になった。
「自民・無所属」の野党会派は、文教厚生委員会に「自衛隊員であることを理由とする職業差別を許さない決議案」を提案した。
野党案は、コンサートの施設利用や全島エイサーまつりへの参加に「抗議の声が上がった」と指摘し、「私人としての生活の場を不当に制限することは、明らかな職業差別」と強調している。
与党4会派はこの決議案に一斉に反発。その上で総務企画委員会に「県民の自衛隊活動への抗議等に対する、防衛大臣による発言の撤回を求める意見書・決議案」を提出した。
中谷元・防衛相は9月19日の定例記者会見で、沖縄では「自衛隊活動に対する過度な抗議行動、妨害行為が続いている」と指摘。「大変遺憾」「行き過ぎ」などと批判した。
そもそも職業差別とは何なのか。今回の事例は職業差別に該当するのか。
沖縄県は2023年、「差別のない社会づくり条例」を施行し、不当な差別的言動や差別的取り扱いをなくす施策を進めている。
今回の野党提案は、てっきりこの条例に基づくものだと思っていたが、そうではなかった。当初の文案では条例に言及していたが、後で削除したという。
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エイサー出演の取りやめを求めることが条例のどの項目に抵触するか、整理が難航したからだという。
差別には部落差別、民族差別、性差別、障がい者差別など、さまざまな形態がある。職業を「貴(き)賤(せん)」で区別する職業差別は昔から日本社会に根を張っていた。
しかしさまざまな事例と比較しても、今回のケースを「職業差別」だと見るのは無理がある。
エイサーまつりのプログラムには、各地の青年会の名前がずらりと並んでいる。地域に根差したイベントであることは明らかだ。ところが今回初めて「陸上自衛隊第15旅団エイサー隊」の名が記載され、固定演舞のトップバッターとして出演することになった。
それを知った市民団体が「政治的なプロパガンダ」として取りやめを要請したことに、「職業差別」を持ち出して批判するのは行き過ぎである。職業差別概念の拡大解釈だ。
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出演取りやめの要請をしたのは、憲法で認められた「表現の自由」の範囲内の行動と言うべきである。
表現の自由は、その重要な要素として「権力批判の自由」を含んでいる。
東村高江の米軍ヘリパッド建設の際、批判派を「黙らせる」ために国が住民を訴えたことがあった。いわゆるスラップ訴訟である。
沖縄戦体験と戦後の米軍統治、復帰後も続く事件事故、そして日米の軍事一体化。一連の非暴力抗議行動が、こうした歴史的背景の下で行われていることにも注意を向ける必要がある。