性同一性障害当事者が戸籍上の性別変更を求めた2件の家事審判で、札幌家裁は変更後の性別と似た性器にする外観要件を「違憲で無効」と判断した。
最高裁によると、同様の決定は他に少なくとも3件ある。性的少数者の権利を尊重する司法判断の流れが定着してきた。
2004年施行の性同一性障害特例法では、性別変更を申請する場合(1)18歳以上(2)現在未婚(3)未成年の子がいない(4)生殖機能がない(5)変更後の性別の性器に似た外観を備える-の要件を全て満たす必要があった。
そのうち、生殖機能と外観に関する要件をクリアするには当事者が手術を受ける必要があり、心身の負担は大きかった。
最高裁は23年、精巣や卵巣、子宮を切除し生殖機能をなくすことを求めるのは「違憲で無効」と断じた。さらに外観要件については広島高裁が24年に「違憲の疑いがある」とした。
今回、札幌家裁は、憲法13条が保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」に違反すると判断。手術またはホルモン療法か性別変更断念か、の過酷な二者択一を迫るものだと指摘し、ホルモン療法も不要だと踏み込んだ。
外観要件が明確に「違憲」とされたことは、手術を避けホルモン治療を強いられてきた当事者、体調や病気などで治療も受けられず悩み苦しんだ当事者にとって大きな前進である。
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全国では、戸籍上の性別を変更した人が1万人を超えている。
22年発効の世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」では、精神疾患の分野だった性同一性障害が「性別不合」に改められた。「性同一性障害学会」もトランスジェンダーは障がいではないとして、名称を「日本性別不合学会」と改めた。
多様な性を認める動きが広がる一方で、インターネット上では「トランス女性が女湯で犯罪を起こす」「社会に混乱が生じる」などと不安をあおる言説もある。
今回、札幌家裁は「当事者は公衆浴場の利用を控えていると考えられ、混乱が生じることはまれ」「公衆浴場は身体的特徴で男湯・女湯を使うかが決まっており、審判によって何ら変わらない」と一蹴した。
その言葉に、多くの人が救われたに違いない。
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最高裁の違憲判決から2年がたつのに、政治の動きは鈍い。
県内では先日、参政党の那覇市議が、市内のトランスジェンダーの児童生徒の人数や増減を市議会で質問。性自認について「伝染する」と差別発言をして問題となった。
性的少数者の人権をどう守り、尊厳ある暮らしをどう提供していくのか。政治の役割が試されている。
そのためにも法改正は不可欠であり、早急に動きだす必要がある。
立法府に託された責任は重い。