公明党の連立政権からの離脱決定を受け、石破茂首相の後任を選ぶ臨時国会での首相指名選挙の行方が混沌(こんとん)としてきた。自民党の高市早苗総裁は多数派形成を目指すが、立憲民主党は野党が結集すれば政権交代もあり得るとして呼びかけを活発化。
公明の今後の立ち位置や、日本維新の会や国民民主党など一部野党の動向が鍵を握る。政治空白がさらに長引けば、外交や経済対策に影響するのは必至だ。

公明党の斉藤代表との会談を終え、記者団の取材に応じる自民党の高市総裁=10日午後、東京・永田町の党本部

 高市氏は10日、首相指名に向け 「臨時国会の召集日まで一生懸命、できる限りのことをしたい」と記者団に強調した。自民は衆院会派で196議席。公明の離脱により過半数の233に37届かない。ただ首相指名選挙は1回目の投票で過半数に到達する議員がいない場合、上位2人の決選投票となる。今回は決選投票に進む公算が大きい。
 決選投票では相手となる議員よりも多数を取れば良く、公明や維新、国民が相手方に乗らず、棄権するだけで道は開ける。公明の斉藤鉄夫代表はBSフジ番組で、決選投票になった際の対応を問われ「野党に入れることはないのではないか」と述べた。
 政権奪取を狙う立民も同様だ。維新、国民を足せば衆院で計210議席となり、自民を上回る。立民の安住淳幹事長は、他の党派を自陣に引き込めば勝算があるとみて「十分政権交代の可能性は出てきた」と語った。

 ただ維新の吉村洋文代表は読売テレビ番組で、首相指名選挙の投票先に関し「原則は当然、藤田文武共同代表だ」と説明。「立民と国民が本当にまとまるなら、本気で話は聞く」と述べるにとどめた。
 仮に高市氏が首相就任にこぎ着けたとしても、衆院で過半数を確保していなければ、野党の賛成多数による内閣不信任決議案可決などで退陣に追い込まれるリスクを抱える。早期の衆院解散で局面を打開しようにも、党勢回復が果たせないまま踏み切るのは難しいとの見方が根強い。
 高市氏は首相就任後、物価高対策を盛り込んだ2025年度補正予算案の早期成立を図る構え。臨時国会の召集時期は当初の想定より遅れている。年内成立は不透明だ。
 外交への影響も危ぶまれる。今月下旬以降、アジアで開かれる国際会議やトランプ米大統領の来日が控えている。臨時国会の日程がずれ込めば、新首相が十分な準備がないまま重要な外交日程に臨む事態も考えられる。
ことば解説 「連立政権」とは
 複数の政党が協力して運営する政権。衆院で過半数の議席を得た党がない場合や、より安定化を目指す場合に連立が組まれる。
1993年に自民党などを除く8党派による細川連立政権が発足。連立の時代が始まった。98年発足の小渕内閣は当初、自民単独政権だったが、参院で過半数を確保するため99年1月に自由党、同年10月に公明党が加わった。2003年の衆院選後、保守新党が自民に合流し自公2党の連立に移行。政権を奪還した12年以降も自公連立が続いてきた。
物価高対策の行方も不透明に
 公明党が自民党との連立離脱を決め、国民生活に直結する物価高対策の行方は一層不透明となった。主要争点となった7月の参院選投開票から既に3カ月近く経過。臨時国会の召集も遅れ、野党は「異例に長い政治空白だ」と非難する。高市早苗総裁は「早期に物価高対策に取り組む」として重視する姿勢をアピールするが、実現のめどは立っていない。
 高市氏は9日のNHK番組で、臨時国会で首相に就任すれば、直ちに経済対策の策定を指示すると表明。物価高対策の財源を裏付ける2025年度補正予算案編成に早期に着手する考えを示した。ガソリン税の暫定税率廃止法案も臨時国会で成立させると語った。

 自民は参院選大敗後、石破茂首相(党総裁)が続投意向を示し「石破降ろし」と対立する党内政局が続いた。9月7日に首相が退陣表明し、臨時総裁選で10月4日に高市氏が総裁に選出された。
 自民は臨時国会の首相指名選挙での高市氏選出に向け、公明の協力を織り込んでいた。だが公明が高市氏に投票しないと決め、選出が見通せない状況となった。
 高市氏が首相に就いたとしても、国会運営には野党の協力が不可欠。補正予算案の成立時期は不透明だ。
 自民総裁選が終わっても自公の「コップの中の争い」が続き、野党は「これ以上、国民を待たせられない」(国民民主党の玉木雄一郎代表)と批判を強めている。
政治資金の規制強化 高まる圧力
 公明党が自民党との連立政権からの離脱を決め、自民に対して企業・団体献金の規制強化を求める圧力は一層高まりそうだ。献金の受け皿制限を主張する公明案に、献金禁止を目指してきた立憲民主党は歩み寄りを見せる。自民は拒否しているが、派閥裏金事件を含め「政治とカネ」問題で孤立を深めそうだ。
 公明は自民に対し、連立維持の条件として献金規制強化と裏金事件の真相解明を要求。公明の斉藤鉄夫代表は10日、自民の高市早苗総裁との会談で折り合わず、連立離脱を決断した。

 公明の規制強化案は、献金の受け皿を政党本部と都道府県単位の組織に制限する内容。先の通常国会で、国民民主党と共にまとめた。自民は国会議員や地方議員が代表を務める党支部も献金の受け皿となっている。支部の数は7千を超え、制限への反対が強い。
 自民は通常国会で、献金の存続を前提に透明性の強化を主張。これに対し、立民は日本維新の会、参政、社民両党などと献金禁止の法案を共同提出した。
 与党が大敗した7月の参院選後、立民の野田佳彦代表は国会審議で石破茂首相に「落としどころを一緒に協議しないか」と呼びかけ、禁止から規制強化に射程を切り替えた。10日も連立離脱を決めた公明との間で「一緒に受け皿制限の法案を作ることが可能かどうか、協議したい」と記者団に意欲を示した。
 公明の西田実仁幹事長も10日のBS―TBS番組で、自民が譲歩しない場合には立民、維新、国民、公明の4党で規制強化を実現させる可能性があると語った。
 首相は10日、企業・団体献金の在り方について「国民にきちんと理解いただけるような解を生み出していくことは自民党の責任だ」と官邸で記者団に述べた。
26年前にさかのぼる連立政権の歴史
 自民、公明両党による連立政権の歴史は26年前にさかのぼる。この間公明は、支持母体として背後に控える創価学会が懸念を示すような政策の数々も、与党の一翼として自民と手を携え成立させてきた。
「平和の党」の看板に疑問の声が上がることもあった。

1999年10月、連立政権発足を前に握手する(左から)小沢自由党党首、小渕首相、神崎公明党代表=首相官邸

 公明は連立入りする前の1999年通常国会で、日米防衛協力のための新指針(ガイドライン関連法)や通信傍受法を中心とする組織犯罪対策三法、国旗国歌法などに相次ぎ賛成。その流れで10月には自民、自由両党の連立政権に公明が加わる形で3党による小渕再改造内閣が発足した。
 2012年の政権復帰以降は、曲折を経ながらも連立政権を組み続けた。
 自公両党は、00年4月の自由党の政権離脱後、第3党の離合はありながら連立関係を維持し続けた。09年にともに野党に転落した後も結束して民主党政権に対抗し、12年に政権を奪還した。
 安倍政権下の14年、集団的自衛権行使容認を巡り、両党は衝突。公明は慎重姿勢を示し、一時は連立離脱をちらつかせたものの、安倍晋三首相(当時)の強い意向を受け、最終的には「一定の条件をつけブレーキ役としての歯止めをかけた」との理屈で容認にかじを切った。
 安全保障政策では、22年に岸田内閣が反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を盛り込んだ安全保障関連3文書を策定。公明はブレーキ役を自任しながら、安保政策の大転換をたびたび容認し、踏まれても自民から離れない「げたの雪」との批判がつきまとった。

 
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