グランプリを受賞した米須悠真さん(昭和薬科大学附属高校1年)の楽曲制作画面=10月5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

 今、沖縄の中高生の間で、主にコンピューターを使って音楽制作をする「DTM」の底上げや深化が進みつつある。中高生がDTM作曲の腕前を競うコンテスト「沖縄環境保全研究所 Presents 第2回中高生DTM作曲コンテスト沖縄」(DTMオキナワ主催)の決勝大会が10月5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂で開催され、全応募35人・組、78曲の中から選出された10曲を作曲者の解説と共に披露。
すぐにでもCM楽曲やゲームBGMに使われそうなクオリティの高い作品が並び、会場を驚かせた。これまで、クラシック音楽の発表会や、バンドの自作曲を演奏するライブといった音楽表現の場はあったが、パソコンなどで作られた音楽をリアルの場で披露する機会はまだ珍しく、同コンテストがDTMに取り組む中高生の一つの目標としての役割を果たしている。
 
DTMとは

本格的なDTM環境イメージ(写真ACより)

 DTMは、「デスクトップ・ミュージック」の頭文字を取った和製英語。世界的には英語で「コンピューター・ミュージック」と呼ばれている。専用アプリを使って、音符を並べるように演奏情報を入力(いわゆる「打ち込み」)したり、マイクやエレキギターなどの音を直接録音したりして音楽を作っていくもので、作曲や編曲のみならず、音を聴きやすく整える音響的な操作(ミキシング・マスタリング)なども行うことができる。現在の音楽制作の方法としては最も一般的だと言える。
 上記のような現在のDTMの在り方は2000年ごろから一般層にも徐々に普及し始め、技術次第ではプロとアマの垣根を一気に飛び越える作品が生まれてくるようになった。現在ではスマホやタブレットでも同様のアプリが登場したことで、より音楽制作への挑戦が身近な環境にあると言える。
グランプリの米須さんが語るDTMの魅力とは

グランプリを受賞した米須悠真さん=10月5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

 前述のコンテストでは、昭和薬科大学附属高校1年の米須悠真さんの楽曲「アレストコール」がグランプリに輝いた。繰り返されるストリングス系楽器のフレーズが印象的で、思わず踊り出したくなるような軽快な楽曲だ。
 DTMでの作曲歴は約1年という米須さん。作曲をしていることは特に周りには言っていなかったというが「認められて嬉しいです」と照れたように話す。
軽音楽部に所属し、ギターも演奏している米須さんは、DTMの魅力を「バンドとはまた違って、たった一人でもいろんな楽器の音で自由に表現して完結できるところです」と語る。
 その他のエントリー楽曲の完成度はいずれも高く、沖縄の中高生のDTM層の厚さを強く感じさせる。入賞したクリエイターには、副賞としてラジオ局のジングルや企業CMの作曲権が与えられた。しっかりとした仕事として依頼することで、作曲家としての未来を育てていく。

賞状を手にしながら審査員と共に壇上に上がる入賞者=10月5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

音楽制作の必須スキル ワークショップも
 「沖縄を作曲家だらけの“作曲家立県”にしたい」と話すのは、同コンテストを主催するDTMオキナワの主宰でありベーシストでもある安田陽さん。「DTMは現代の音楽制作には必須スキルであるのにも関わらず、それに取り組む若い人たちを応援する環境が県内ではまだ十分とは言えない」という思いから、このコンテストの立ち上げに至った。
 当日はコンテストに先立って、DTMのいろはから教える一般向けのワークショップも開催された。講師は安田さんが務め、親子連れも含む約60人が参加。iPhoneやiPadに標準で入っている音楽制作アプリ「GarageBand」を使って、沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」のメロディや和音を入力し、音楽制作への扉を開けていった。

一般向けのワークショップで解説するDTMオキナワの安田陽さん=10月5日、那覇市の沖縄県立博物館・美術館講堂

コンテスト開催でつながれたDTM愛好者

DTMオキナワの(左から)下地イサムさん、安田陽さん=10月7日、那覇市内

 DTMオキナワは2023年、安田さんとミュージシャンの下地イサムさんが主体となって発足した。同年に同コンテストの第1回目としての位置づけとなる「スマホで音楽制作コンテスト」を開催すると、16人から44曲の応募があり、沖縄県内でも実はDTMをやっている中高生が一定数いるということが分かった。同時期の夏休み期間中に実施したワークショップにも約30人が参加し、DTMを学びたいというニーズが高いことも同時にはっきりしたという。
音楽を自己完結すらさせることができるDTMは一匹狼的な活動も可能で、実際のところどれぐらいの愛好者がいるのか分かりにくい世界でもあった。
 安田さんは「(DTMが好きで)集まってくれた子どもたちと横でつながって、新しい音楽を生み出していくチームを作りたいと思っています」と話すように、第一回コンテストに応募したメンバーらと那覇市内の事務所で月に1回集まって情報交換をしている。
 安田さんらがこれまで培ってきた知識や経験、人とのつながりをしっかり橋渡ししてサポートする一方で、若い感性から学びにつなげられる機会とも感じている。「彼らが普段聴いている音楽や情報源は、自分たちと全く違うので刺激になります。対等な仲間としてやっていけている実感があります」 

若い世代にDTMのサポートをする意義を語るDTMオキナワの安田陽さん=10月7日、那覇市内

DTMオキナワが描く“作曲家立県”沖縄
 10代や20代といった若い世代だけではなく、DTMはどんなミュージシャンの可能性をも広げてくれている。音楽家としてのキャリアが長い、56歳の下地さんがDTMを始めたのは、たった約3年半前、コロナ禍の時だった。
 「コロナ禍でステージの仕事が無くなって、危機感しかありませんでした。その代わり、時間だけはあったので『自分で録音するすべを学ぼう』と始めました」。 とにかくのめり込んだ。編曲の魅力にも同時に気付き、2022年12月には全編DTMで自ら制作したアルバム「KARAI」をリリースした。
 今回のコンテストで審査委員長も務めた下地さんは、会場で作品を聴いた後の参加者とのやりとりの中で「天才だ…」と漏らし、自身のSNSでも「凄い1日だった。沖縄の若い才能に驚きの連続!」と投稿するなど感心しきりだった。


自らも虜になったDTMを通して「若者の力になりたい」と話す下地イサムさん=10月7日、那覇市内

 「沖縄は音楽で有名ですが、圧倒的に多いのは(シンガーやプレイヤーなどの)パフォーマーの人たち。音楽制作を仕事にしたいと思う子の多くは県外に出て行ってしまうかもしれませんが、沖縄に残ってやりたいという子がいたら力になりたい」と下地さん。本格的にDTMをしようとすれば、機材に一定のお金がかかることも確かだ。若い後輩ミュージシャンのために充実したDTM環境を整えて、早めに触れてもらいたいという思いも強い。
 1回目は県の助成金を受けて始動したこの取り組みが、2回目の今回から協賛企業を募って自走できたことに謝意を示しつつ、安田さんは「DTMは本当に可能性の塊です。突き詰めると十分仕事としても成立しますし、例えば沖縄にいながら海外からの仕事を受けることだってできます」と、音楽で国境を越えるような“作曲家立県”の実現に向けて走り続けている。
「第2回中高生DTM作曲コンテスト沖縄」受賞曲
【グランプリ】米須悠真(昭和薬科大学附属高1年)「アレストコール」
【準グランプリ】増田大地(八重山商工高2年)「低温動物」
【沖縄環境保全研究所(KHK)賞】赤嶺輝(普天間高1年)「キャプチャ」/山川琉斗(開邦高3年)「夕時雨」
【審査員特別賞】東恩納凪叶(古堅中3年)「Xeno 6」/友利美結海(首里高2年)「プラネット」
【オーディエンス賞】上原一汰(浦添工業高3年)「DayTimeDream」
【入賞】大城尚弥(沖縄尚学高3年)「らくようスケープ」「スイング」/大島照生(沖縄工業高3年)「ノンフレグランス」/友利美結海(首里高2年)「ブレス」
※決勝進出10作に加えて、審査員特別賞に入った東恩納凪叶さんの作品の計11曲が受賞しています。
 
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