高市早苗首相の「存立危機事態」発言を巡り、日中両政府の応酬が過熱している。
 小泉進次郎防衛相が与那国島へのミサイル部隊配備計画に関し「地域の緊張を高めるという指摘は当たらない」との認識を示したのに対し、中国外務省の毛寧報道局長が翌日、即座に「軍事的対立を挑発している」と批判した。

 防衛省は与那国島に航空機や弾道ミサイルの迎撃を可能とする03式中距離地対空誘導弾(中SAM)部隊の配備を計画している。
 これまでも報じられてきたものの、中国側が反応するのは異例のことだ。高市氏の発言が念頭にあるのは間違いない。
 この中国の反論に、小泉氏は25日、配備予定のミサイルは防御が目的で、他国を攻撃するものではないと反発した。中国側が「攻撃兵器」と指摘したことには、「違うものは違うと発信していかなければならない」とも述べた。
 しかし、与那国島は台湾からわずか約110キロしか離れていない。8月の町長選で当選した上地常夫町長は、これ以上の配備強化に懸念を示している。
 一方、中国側も南シナ海で海洋進出を強めている。まさに「安全保障のジレンマ」である。このまま非難の応酬が続けば衝突の危険性さえ招きかねない。
 日中双方は、これ以上非難の応酬をエスカレートさせてはならない。冷静に向き合うべきだ。

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 対立は当事国を超え、国連にまで飛び火している。18日の国連総会の会合で中国の傅聡国連大使が高市氏の答弁を巡り「日本は国連安全保障理事会常任理事国入りを求める資格は全くない」と発言。日本側が反論し、非難の応酬となった。
 中国はさらに、高市氏の発言撤回を訴える書簡をグテレス国連事務総長に送り、日本への強い不満と反対を表明した。これに対し、山崎和之国連大使も反論する書簡を送付している。
 悪化する日中関係について、国連のドゥジャリク事務総長報道官が「対話を通じた緊張の緩和が重要だ」と呼びかける事態にまでなっている。
 24日の米中首脳電話会談で、中国側は台湾問題を巡り、習近平国家主席が中国の原則的立場を説明し、トランプ氏は「中国にとっての重要性を理解している」と応じたと説明している。米国は従来の「曖昧戦略」を維持する構えだ。
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 高市氏が対中外交で難しい対応を迫られている背景には、政府・与党の中国側とのパイプの弱さもある。
 かつて自民党には中曽根康弘元首相や野中広務元幹事長ら中国のリーダーと信頼関係を築いた重鎮がいた。
 だが現在、こうしたパイプ役は不在だ。中国との橋渡し役だった公明も連立から離脱した。

 パイプ役を欠いたままでは対話の糸口さえつかむことが困難になろう。
 互いに感情に任せて相手を刺激し続ければ、地域の安全も揺るがしかねない。日中共に自制を求めたい。
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