■「推し活の聖地」が万博へ出店、狙いはアニメイトならではの“体験”
コミックからキャラクターグッズ、ゲームなど、アニメのモノなら何でも揃う専門店として“推し活”に情熱を注ぐ、世界中のアニメファンから注目を集めている「アニメイト」。日本全国に125店舗、海外でも14店舗を展開している同社が大阪・関西万博への出店を決めたのは、「国際的なイベントで、ぜひ多くの人にアニメイトという店舗を体験してもらいたい」という思いだった。
アニメイトの外川明宏氏は、「日本・海外関係なく、アニメイト未経験のお客様にアニメイトの魅力をお伝えしたいと考えた」と出店の意義を語る。そんな店舗内には、缶バッジやアクリルスタンドなど、話題のアニメや世界的に人気なゲーム作品のグッズがズラリ。奥にはPOP-UPスペースも設置され、店舗とはいえ、パビリオンと同じ「ここならではの体験」ができる空間となっている。
特筆すべきはPOP-UPスペースのテーマが2~3週間に1度のペースで変わることだ。これも万博側の規定によるもの。出店者は万博開催の6カ月間、最低12もの異なるテーマを設定することが必要になるわけだが、外川氏は「多くのコンテンツを持っている自分達ならそれができると考えた」と胸を張る。
数多くのアニメ作品のうち、ピックアップするのは「世界で愛される作品」。そこにはこんな思いも託している。
「万博は国際的なイベントですから、我々の店舗がアニメファンが集まって意見交換できるような国際的な場になれたらいいなと考えました。
万博が開幕して1ヵ月半、気になる来客からの反響はというと……。
「連日多くのお客様にお越しいただいていますが、『まさか万博にアニメイトが出店しているとは』と驚かれる方がひじょうに多いです。でも、その後『日本が世界に誇れるのはアニメで、その専門店といえばアニメイトなのだから出店していて当たり前だよね』とおっしゃっていただけることも多く、大変嬉しく思っています」と広報担当の鈴木英理花氏。
さらに鈴木氏は、万博店の店長が実感したこんなエピソードも明かしてくれた。
「海外パビリオンに勤務されている外国人従業員の方がたくさん来店してくださるそうなのですが、皆さん、日本語がとてもお上手で、どうやって日本語を習得したのかと尋ねると、たいていの方が『日本のアニメを観て勉強しました』とおっしゃるそうなんです。店長は、そういう話は耳にしたことはあったけれど直に聞いたのは初めてで、今、まさに毎日、店舗でそれを実感していると語っていました」(鈴木氏)
■「なぜうちの国にはないのか」、海外でも出店を待ち望む人も多い
もうひとつ、店長が日々実感しているのが、日本のアニメ・漫画文化が“推し活”という形でも世界的に広がっていることだという。
「まだアニメイトが出店していない国の方でもアニメイトの存在を知っていて足を運んでくださる方は多く、日本のアニメ作品やキャラクターが今や“推し”という形で国境を越えてコミュニケーションツールになっていることを日々、店舗に立っていて肌で感じているそうです」(鈴木氏)
その言葉を受けて、前出の外川氏も自身のこんな体験を語る。
アニメイトはKADOKAWA、講談社、集英社、小学館と共同で合弁会社を設立し、2016年にタイのバンコクに東南アジア最大規模のアニメ専門店・アニメイトバンコクを出店。その際、「シンガポールやマレーシアなど周辺の地域の国々から、『なぜうちの国にはないのか』という声が多数あがった」というのだ。
とくに東南アジアは日本のアニメや漫画のファンが多いので、アニメイトの存在を知っている方が多く、推しのアニメ作品のグッズを揃えるために身近にアニメイトが欲しいと思っている人が多数いるよう。
世界的な拡がりを牽引した作品では、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』のヒットが大きく、また、『名探偵コナン』や『エヴァンゲリオン』も長く人気を支えている作品だという。
このような需要の拡大を受け、現在、海外で14店舗を展開しているアニメイト。
出店するたびに『来てくれて本当にありがとう』という声や、『手に入らないと思っていた商品が手に入れられてすごく嬉しい』という声を多数いただくそう。
■「ライバルではなく仲間」、世界のアニメ文化と共に育つアニメイトの未来戦略
かように日本のアニメ・漫画を通じて“推し活”に熱中する人が世界中に拡がる中、海外の人たちと日本の人たちで楽しみ方に何か違いはあるのだろうか。
聞いたところ、例えば日本では、グッズを大量に付けた痛バッグがトレンドにあるが、海外の方は、流行やまわりの人のことは関係なく、フォーマットにもとらわれず、自分が好きなことや自分がこうしたら面白いということを自由に楽しんでいる印象だという。その分、推し活の方法もバラエティに富んでいるようだ。
さらに世界におけるアニメ・漫画の“推し活”市場には、ある変化も生まれているという。
今は、作品が共通言語となって、国境を越えてファン同士のコミュニケーションがはかれているだけでなく、広くファンが正規の商品を手に取れるようになっているのため、ファン同士、国境を越えて商品を交換するなどの交流も起きているそう。
そんな中、アニメイトは今後、「世界でまだ出店していない国へも展開を広げていき、ファンに求められているものをいち早く用意するとともに、世界中のファン同士が交流できる場になりたい」とアニメ・漫画文化の発展と交流に意欲を見せる。
さらに、アニメイトが今後見据える先は、日本のアニメだけではない。
現在、日本のアニメをモチーフにしてゲームやドラマが作られるなど、各国で独自の文化にアレンジした作品も増えている。アニメイトではそれらの商品をその国で販売することはもちろん、輸入もしており、需要が増えているという。
特に近年、中国・韓国・タイなどでコンテンツが育ち、熟成してきているというが、日本にとって強力な競争相手が出現かと思いきや、外川氏は「ライバルではなく、仲間だと思っている」とキッパリ。
「僕らのビジネスはファンあってのものなので、全体で盛り上げて、市場を拡大し、アニメ・漫画文化をますます発展させていければと考えています」とのこと。
そのためには、これまで以上に「販売だけでなく体験を大事にしたい」という。前出の鈴木氏も言う。
「今、大型店のリニューアルを進め、イベントスペースでは、展示やモニターを使って、没入感に浸ることができる体験型の企画を実現しています。また、キャラクターを印刷したドリンクの『グラッテ』やアイシングクッキーを提供したり、キャラクターをデザインしたアパレルブランド『Space A la mode』を立ち上げるなど新しいサービスにも注力し、ワクワクの体験を増やしています。いずれは衣食住すべてで、推し活を体験できるようなお店を作っていけたらいいなとも考えています」(鈴木氏)
アニメや漫画のキャラクターや作品について、熱く語り合うことが昔からファンの間で当たり前に行われてきた日本。今やその文化は大きなうねりとなって、世界中を席巻している。アニメイトが今後、世界の市場でどんな存在感を示してくれるのか、その取り組みに注目したい。
取材・文/河上いつ子