■“歌うま”を目指す若者たち、一方で中高年もライバー化?
日本はカラオケ天国だ。娯楽が多様化した現在もリアル店舗の利用は10~20代の若者層が最も多く、人気のレジャーとして揺るぎなく定着していることが伺える。中高年にカラオケ技術を競う番組が支持される一方で、若い世代にはすっかり「歌ってみた動画」が市民権を得た。TikTokやYouTubeでは「#歌うま」のハッシュタグが定番化し、注目や賞賛を浴びる配信者も多い。
バズった動画や人気の配信者に影響を受けて、「自分もやってみたい」と感じる若者も増えているようだ。JOYSOUNDを展開する通信カラオケ大手のエクシングによると、近年はあらゆる角度から歌唱力を評価し、配信前の事前練習に便利なアプリ「分析採点JOYSOUND」の利用が飛躍的に伸びており、中でも「音程やテンポなどの基礎だけでなく、ビブラートや抑揚といったテクニック面のほか、“本当に人に伝わる上手さ”の指標にこだわる方が増えている」と証言。若者にとって今やカラオケは単なる娯楽を超えて、"歌うま"を目指すガチ練の場となり、SNSでの発信も身近な目標となっているらしい。
「この動向は若者に限りません。背景には、気軽に利用できるライブ配信アプリが増えたことが挙げられます」(エクシング担当者)
配信者の中でもライブ配信アプリなどで動画をリアルタイムで配信し、視聴者とコミュニケーションを取りながら収入を得る「ライバー」の存在が目立つようになった。スマホ1台あれば始められることからライバーの数は急増しており、トップライバーともなると莫大な収入を叩き出す人も。
■視聴者からの誹謗中傷、さらに悪徳事務所も…ライバーをめぐる落とし穴
ライバーを目指す人が増加したせいもあり、専門のマネジメント事務所も増えている。実は同社でも、歌ライバーに特化した事務所を2023年に設立。現在数百名を超える ライバーが所属しており、毎月多くの問い合わせがあるという。フリーで活動するライバーも多いが、事務所に所属するメリットはどこにあるのか。
「大勢のライバーが活動している今、ただライブ配信をしているだけでは視聴者は集まりません。効果的に配信に誘導するコツや、入ってきた視聴者に留まってもらうノウハウを求めて事務所に所属される方は多いですし、当社でもファン獲得のためのバックアップを行なっています。特にライブ配信初心者の方、『安全にライブ配信をしたい』といった慎重な方が多いですね」(JOYSOUND LIVER PROMOTION担当者)
スマホ1台さえあれば、誰でもライバーにはなれる。しかし「誰でもライバーを継続し続けられるわけではない」と担当者は言明する。
「視聴者には様々な方がいますし、時には厳しい意見を浴びることもあるでしょう。それが、批判なのかアドバイスなのかをきちんと見極めつつ、活動を継続していくのですが、心が疲れてしまう方がいます。そのような時に当社では、明確な誹謗中傷に対して、法務や弁護士が厳正な対処を致します」(同)
急激に拡大した業界だけに、マネジメント事務所にはベンチャーが多く、サポート体制が確立したところばかりではない。
「たしかに、『名の知られているここなら大丈夫だろう』と、信頼感や安心・安全が求められることが多いです。そのせいか、所属者の平均年齢層は30代と他の事務所と比較してやや高め。50~60代で活躍されている方もいます」(同)
■カラオケ店からのライブ配信や“替え歌”はNG? 陥りがちな権利問題
また、危険は外部からもたらされるだけではなく、ライバー自身が問題を起こしてしまう場合もある。とくに歌ライバーやカラオケ配信で陥りがちなのが、音源の権利処理問題だ。自宅で1人で歌っていても、配信に載せれば使用する楽曲の著作権や利用許諾が関わってくる。初心者にはこれがなかなか煩雑で、思わぬ権利侵害をしてしまうケースは後を立たない。
「一番手軽でリスクが少ないのが、カラオケ機能の付いている配信アプリを利用すること。そこに収録されている楽曲を歌って配信するのは、まったく問題ありません。ただしリアル店舗のカラオケ音源で歌い、許可なくライブ配信や動画投稿をするのはNGです。またYouTubeに上がっているカラオケ音源(オフボーカルなど)には、配信に使えるもの/使えないものが混在しているので注意が必要です」(エクシング担当者)
なお、TikTokなどでしばしば替え歌がバズることがあるが、厳密にはNGだ。宣伝になるとして権利者側がスルーすることはあるものの、訴訟になったケースもある。
「ただ、昨今は全体的に権利リテラシーが高まっています。やはり収益化停止などのリスクは避けたいでしょうし、"歌枠"で活躍されているライバーさんほど意識が高いですね」(同)
つまり日常的に歌の配信をしているライバーほど、正規に利用できるカラオケ音源を探す苦労をしているというわけだ。さらにライバーに限らず、動画配信プラットフォームで活躍しているSTREAMERに向けた、配信で使える楽曲のみが搭載され、権利処理の手間がかからない、PC環境向けサービス(「カラオケJOYSOUND for STREAMER」)は大いに歓迎された。配信画面に歌詞表示や音程バーが載る仕様や、クロマキー処理などの機能も搭載され、Vtuberの利用ニーズが高くなっている。
「人気の配信者や、はリスナーとのコミュニケーションが上手です。特に歌枠の配信では『これ歌って』といったリクエストも多く、それに即座に応えられることは重要。やはり高音質であることが喜ばれますし、リスナーとのコミュニケーションを盛り上げるという意味でも、採点機能を用いたパフォーマンス演出を使っていただく機会は多いですね」(同)
■趣味や副業での利用も増加、裾野が広がる今だからこその注意点
このように、歌ライバーに限らず、サポート体制や便利に使えるサービスは徐々に充実してきており、ますますライバー人口は増えていきそうだ。ちなみに上記のサービスは20~30代の本業ライバーから火が付いたそうだが、趣味や副業の利用者も増えているとか。裾野は確実に広がっていると見ていいだろう。
だが、そうして初心者や慣れていない中高年の参入が増えるタイミングこそ、なにかと気を付けなければいけない時期でもある。
「ライバー業界はまだまだ黎明期であり、リスクがまったくないとも言い切れません。お1人で始めるよりは、やはり事務所に所属するのが安心だと思いますが、契約の際には支払いや配信ノルマなど、細かい条件をしっかり確認することをお勧めします。
さらに同社は、ライブ配信のサポートだけでなくグループ会社から所属ライバーがメジャーデビュー。リアルライブも開催されているという。
「今後も、ライバーが音楽で生きていけるようにサポートしていきたいと思います」と意気込む担当者。今後ライバー界隈が、どう動いていくのか楽しみだ。