男女、そして訪日外国人も詰めかけ、大人気の日本のテーマパーク。昨今では推し活ブームもあり、特に人気キャラクターが揃うパークの大人需要は高まっている。
そのためか、SNSでは保護者からの「子どもがパレードを観られなかった」「子ども向けイベントが少ない」などの声も散見されようになった。そんななか、新たな子ども向けワークショップ型アトラクションが大反響となっているのが、サンリオピューロランド。オープン35周年にして初の試みを始動させた意図を聞いた。

■連日盛況の子ども向けワークショップ、次世代ファンの育成にも

 サンリオのキャラクターの世界観を体感できる屋内型テーマパーク・サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)に、今年3月に新登場したアトラクション「CHALLENGE PURO(チャレンジピューロ)」。これが、連日盛況だという。

 「チャレンジピューロ」は、ピューロランド内にあるハローキティの“お仕事アトリエ”で、<キャラクターを作る><衣装デザインを描く><パフェを仕上げる>の3つの体験プログラムを提供するワークショップ型アトラクション。対象年齢は3~15歳に設定されている。ピューロランドには多くの大人層も詰めかけるが、年齢設定をしたのはなぜだろうか。

 「3~15歳は創造力や表現力が育まれる大切な時期。その世代のお子さまに自由な発想で自己表現をする喜びと、成長の場を提供する目的から対象年齢を設定しました。また、『キャラクターと出会い、自らの手で何かを生み出した』という特別な思い出を“サンリオの世界にふれる原体験”として、次世代ファンを育成する狙いもあります」(株式会社サンリオエンターテイメント アトラクション開発担当者)

 たしかに、近年は子どもが自分の手で取り組むワークショップや、体験しながら学ぶイベントが増加傾向。“モノよりコト”というキーワードが認知されて久しいが、保護者の間でも「子どもに多様な経験をしてほしい」「そこから学んでほしい」と、体験価値はおおいに評価されているのだろう。
主催する側にとっても、次世代ファンの育成、サービスや商品との出会いの場を作れることはとても意味のあることだ。

 一方、ピューロランドでは過去に期間限定のワークショップ等は行ってきたが、「常設のアトラクションは初の試み」とのこと。

 「今は多くのワークショップや職業体験が開催されているので、いろいろと見て回りました。その中で、『ピューロランドにしかできないことは何だろう?』と考えて。やはり、サンリオキャラクターと世界観があるからこそ、実現できることがあるのではないかと思い、企画を練っていきました」(アトラクション開発担当者)

 こうして生まれた「チャレンジピューロ」は、オープンから3ヵ月で体験人数は延べ7,000名以上。1度に体験できる人数が限られることを考えると、予想を超える反響となっている。

 「保護者の方はお子さまが体験中の様子を見守っていただいているのですが、『子どもがものづくりに取り組む姿に感動した』『こんなに集中した表情は初めて見た』といった声をいただいています。お子さまに挑戦と体験を、保護者の方にはお子さまの成長を目にする喜びを提供することで、ファミリーの大切な思い出づくりを支えたいという願いも本アトラクションには込められています」(アトラクション開発担当者)

■推し活も大人ファンも大歓迎、「夢中になることの素晴らしさに年齢や属性は関係ない」

 このような目的から、子ども対象のアトラクションとして開発された「チャレンジピューロ」だが、5月には1週間限定で大人(16歳~)も体験可能な企画が実施された。

 「大人のファンのみなさんからの要望にお応えする形で試験的に実施したのですが、チケットが即完売するなど予想以上の反響がありました。体験した方からは『童心に返って楽しめた』と大好評をいただいており、今後も何らかの形で、大人の方にも体験していただける機会をご用意したいと考えています」(アトラクション開発担当者)

 昨今は推し活ブームもあり、一般に<子ども向け>とされてきたコンテンツやキャラクターを大人が楽しむことも当たり前になった。イベントやアミューズメント施設にも大人客が増えており、SNSでは「(本来のターゲットである)子どもが楽しみづらい」といった保護者の声も散見されるが、ピューロランドでもこうした課題感はあるのだろうか。

 「大前提として、何かに夢中になることの素晴らしさに年齢や属性は関係ないと考えています。
大人の方も、キャラクターを身近に感じてくださっているのはとてもうれしいことだと感じています」(株式会社サンリオエンターテイメント 広報担当者)

 ただ、どうしても“物理的”な問題は出てきてしまう。

 「たとえばショーやパレードを観たくても、身長や待機できるお時間の兼ね合いでお子さまには音しか聞こえずに諦めてしまった…という話も聞きました。そこでショーによってはキッズエリアを設け、子どもも大人もお楽しみいただけるような取り組みをしてきました」(広報担当者)

 少子化の折、多くの企業が、人口の多い大人層への訴求にフォーカスしがちなのは致し方ないのかもしれない。しかし、サンリオのように長年にわたって愛されるコンテンツは、常に未来のファンを意識する必要がある。

 「昨年10月にはベビーセンターをリニューアルし、小さなお子さま連れの方がより安心してお楽しみいただける環境となりました。また、妊娠中の方が快適に過ごせるよう、母子手帳を提示していただくと受けられる様々なマタニティサービスも用意しています」(広報担当者)

 子ども連れや妊娠中は何かと行動が制限されたり、周りからの目を気にしたりして、思うように楽しめないと嘆く声もある。ピューロランドのように寄り添ったサービスがあり、なおかつ子ども自身も楽しめる「チャレンジピューロ」のような取り組みは、ファミリー層には願ったり叶ったり。実際、3月以降は国内外から多くのファミリー層が来場し楽しんでいるそうだ。

■大切にした「成功も失敗もない体験」、子どもの自信や自己肯定感を育む

 とはいえ、年齢設定を設けたからこそ、それに伴うアトラクション開発の苦労もあったという。「チャレンジピューロ」は、オリジナルキャラクターパフェを作る「パティシエ体験」、世界に一つだけのハローキティのコスチュームを作る「衣装デザイナー体験」、自分だけのオリジナルキャラクターを描く「キャラクターデザイナー体験」を提供。開発にあたっては、幅広い年代の子どもたちの協力を得てテストプレイを重ねてきた。

 「3~15歳という幅のある年齢に対して、すべてのお子さまが楽しめる体験レベルや所要時間などの設定は、開発する上でもっとも苦労した点です。
例えば<衣装デザイナー体験>では、自分で絵を描いたり、色を塗ったりしてコスチュームを作るのですが、3歳くらいのお子さまは簡単な線を描いただけで大満足。一方で15歳にもなると、細部にまでこだわりたくなるので、それぞれかかる時間も変わってくることがテストでわかりました」(アトラクション開発担当者)

 その上で、開発にあたってもっとも大切にしたのが「成功も失敗もない体験」だという。

 「子どもの自由な発想とクリエイティブを尊重するため、保護者の方もスタッフも極力干渉しない運営を心がけています。自分で考え、手を動かして完成させるプロセスを通して『私にもできた』という自信につなげたいですし、どんな色や形に仕上がっても『自分らしくて素敵』と実感していただきたい。学校教育には答えがあるけれど、それだけじゃないんだということをお伝えしたいですね。出来上がった後の演出として、例えば<衣装デザイナー体験>では、作った衣装を着たキティのぬいぐるみからお子さまへ、衣装への感想やお礼を伝えるのですが、こうした中でお子さまとキャラクターの絆を深めて笑顔になり、自己肯定感を育んでいただきたいと思っています」(アトラクション開発担当者)

 オリジナルパフェはその場で実食できるほか、「衣装デザイナー体験」と「キャラクターデザイン体験」の完成品は記念に持ち帰ることができる。

 「別の場所で、自分で作った衣装を着たハローキティのぬいぐるみを、大切に持ち歩いているお子さまを見かけたことがあります。メッセージがきちんと届いていることに、とてもうれしくなりましたね。ちなみに、チャレンジピューロはスタッフからも人気。親御さんとお子さまとのコミュニケーションを目の当たりにして、『ジ~ンとした、実際にアトラクションの業務に入りたい!』という声も上がっています(笑)」(広報担当者・アトラクション開発担当者)

 サンリオピューロランドは、今年12月に35周年を迎える。オープン当時は子どもだった人も親世代となり、親子2世代、祖父母~孫の3世代ファンもますます増えた。あらゆる世代に対して、同じコンテンツを等しく楽しんでもらうのは難しい。
しかしその工夫や配慮を諦めないことが、息の長いコンテンツには欠かせないようだ。

(文:児玉澄子)
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