映画『木の上の軍隊』(公開中)で、沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンを演じた山田裕貴。沖縄・伊江島でのリアルな撮影体験や、堤真一との濃密な二人芝居を通じて、戦争と人間の本質に真っ向から向き合った。
■「ついに来た」──“戦争”というテーマへの直感的な覚悟
「こういう役が、いつか自分に来る気がしていたんです」
出演オファーを受けた当時の心境を、山田はそう振り返る。
本作は、太平洋戦争末期の沖縄・伊江島を舞台に、米軍の攻撃から逃れた2人の日本兵がガジュマルの木の上に身を潜め、敗戦を知らぬまま約2年間を生き延びたという実話に着想を得た物語。故・井上ひさし氏の舞台をもとに、沖縄出身の平一紘監督が映画として再構築した。
平監督は、モデルとなった当事者の遺族や戦争体験者に丁寧な取材を重ね、沖縄の視点からリアリティを追求。その脚本を読んだ山田は、「いわゆる“戦争もの”には収まらない。単なる“反戦映画”ではない」と強く感じたという。
「僕は東京に出てきたとき、俳優になることに命をかける覚悟でした。『ダメなら別の道がある』と言ってくれる人もいましたが、僕にはその考えがどうしても受け入れられなかった。ずっと一人で戦ってきた感覚があったからこそ、この作品にどこか運命を感じたんです。『ついに来たな』と。今の時代に合っていない自分にしか表現できないものがあるんじゃないか。堤さんとの共演も願ってもないことで、迷わず『やります』と答えました」
■「想像しかできない時代を、どう生きるか」
ガジュマルの樹上に身を潜める上官・山下と新兵・安慶名を演じるにあたり、堤と山田は丸刈りで撮影に臨んだ。
中でも山田が重視したのは、“内面の役作り”だった。
「戦争というのは、“体感した人にしかわからない世界”だと思っています。SNSもない時代を生きた人たちの感情は、僕らには想像するしかない。でもだからこそ、日頃から“この人はいまどんな気持ちなんだろう”と想像することを大切にしています。その積み重ねが、戦時下の人間を演じる手がかりになると信じていました」
■役を生きる山田裕貴「まだ作品は終わっていない」
本作をより多くの人に届けるため、取材やイベントで自身の思いを語り続けてきた山田。だがそのたびに、「“ああすればよかった”って、いろいろ思い出してしまうんです」と口にする。
「たとえば、敵軍の缶詰を前にして葛藤する場面。もっと上官にすがりつくように懇願してもよかったかもしれない……と、今日もふと考えていました。撮影が終わっても、僕の中では終わっていない。それが常態化しているんです」
これを聞いていた平監督は、静かにうなずきながら言った。
「それって、本当に“生きていた証拠”ですよね」
その言葉に、山田の表情がふっと柔らかくなる。
「たしかに、“あのとき、こうすればよかった”って後悔するのは、誰にでもあること。いま監督に“生きていた証拠”と言ってもらえて、すごく腑に落ちました」
■スーパー戦隊ヒーローから『木の上の軍隊』へ──“届ける”という原点への回帰
山田の俳優デビュー作『海賊戦隊ゴーカイジャー』の放送が始まって1ヶ月後、東日本大震災が発生。子どもたちから「ヒーロー、助けに来て」といった手紙が届いたものの、実際に“助けに行く”ことはできなかった。
「無力感に打ちのめされました。でもある時、“かっこいい姿を見せることで、誰かの希望になれるかもしれない”と気づいたんです」
その後、「売れなきゃ」「一番にならなきゃ」と焦った時期もあったというが、『東京リベンジャーズ』シリーズや『キングダム』シリーズ、『ゴジラ-1.0』などで確かな存在感を発揮し、今や引く手あまたの俳優に。今年は本作に加え、『ベートーヴェン捏造』(9月12日公開)、『爆弾』(10月31日公開)と主演作が続く。
「『木の上の軍隊』が、戦争を知らない世代に、“生きているだけでありがたい”と思ってもらえるきっかけになればうれしい。それを素直に願えるようになりました。この映画が、誰かの心に届いてくれたら、それだけで十分です」
役を生き続ける“俳優”山田裕貴の言葉には、確かな覚悟と祈りが込められていた。
■山田裕貴、「嘘のない芝居」で沖縄の心をつかむ
山田へのオファーについて、平一紘監督はこう振り返る。
「安慶名という役は、沖縄の“素直な人間性”を体現できる俳優でなければ成立しないと思っていました。多くの候補を検討しましたが、最初にオファーした山田さんに引き受けていただけて本当にうれしかった。
沖縄の人たちは、出身者ではない俳優が“うちなんちゅ”を演じることに敏感です。それは僕自身、よく理解しているつもりです。だから山田さんにとっても、相当なプレッシャーだったと思います。
でも、山田さんはその重圧の中でも役に真摯に向き合ってくれました。うちなんちゅの方々が観ても、きっと違和感なく受け入れていただけると確信しています。前作『ミラクルシティコザ』での桐谷健太さんもそうでしたが、演技に“素直さ”があれば、出身地に関係なく心に届く。そのことを今回も再確認できました」
映画は6月13日から沖縄で先行公開され、初週の週末3日間で観客動員No.1を記録。2週目以降も評判が評判を呼び、スターシアターズ系の4館では5週連続No.1を達成。現地で熱い支持を集めている。
物語は、山下と安慶名が樹上生活を始める前から始まり、命からがら木の上に逃れ、当初は過酷だった2人の生活は、米軍の物資を手にしたことで徐々に変化していく。
平監督は語る。
「堤さん演じる山下は、日本を守るという使命感を強く抱いた人物。国を守るためなら悪人になることも辞さない冷静な男です。一方、安慶名は島から出たこともない、ごく普通の青年。ある出来事をきっかけに、彼の中に“兵士としての意識”が芽生えていきます。逆に山下は、次第に緊張から解放されていく。物語の中で、この2人の関係性が逆転していく──そこが本作の大きな核です。だからこそ2人には『木の上で本当に生きてください』とお願いしました」
■「ついに来た」──“戦争”というテーマへの直感的な覚悟
「こういう役が、いつか自分に来る気がしていたんです」
出演オファーを受けた当時の心境を、山田はそう振り返る。
本作は、太平洋戦争末期の沖縄・伊江島を舞台に、米軍の攻撃から逃れた2人の日本兵がガジュマルの木の上に身を潜め、敗戦を知らぬまま約2年間を生き延びたという実話に着想を得た物語。故・井上ひさし氏の舞台をもとに、沖縄出身の平一紘監督が映画として再構築した。
平監督は、モデルとなった当事者の遺族や戦争体験者に丁寧な取材を重ね、沖縄の視点からリアリティを追求。その脚本を読んだ山田は、「いわゆる“戦争もの”には収まらない。単なる“反戦映画”ではない」と強く感じたという。
「僕は東京に出てきたとき、俳優になることに命をかける覚悟でした。『ダメなら別の道がある』と言ってくれる人もいましたが、僕にはその考えがどうしても受け入れられなかった。ずっと一人で戦ってきた感覚があったからこそ、この作品にどこか運命を感じたんです。『ついに来たな』と。今の時代に合っていない自分にしか表現できないものがあるんじゃないか。堤さんとの共演も願ってもないことで、迷わず『やります』と答えました」
■「想像しかできない時代を、どう生きるか」
ガジュマルの樹上に身を潜める上官・山下と新兵・安慶名を演じるにあたり、堤と山田は丸刈りで撮影に臨んだ。
山田は極限状態を体現するために、干し芋だけの生活で節制し、ウチナーグチ(沖縄語)の習得にも励んだという。
中でも山田が重視したのは、“内面の役作り”だった。
「戦争というのは、“体感した人にしかわからない世界”だと思っています。SNSもない時代を生きた人たちの感情は、僕らには想像するしかない。でもだからこそ、日頃から“この人はいまどんな気持ちなんだろう”と想像することを大切にしています。その積み重ねが、戦時下の人間を演じる手がかりになると信じていました」
■役を生きる山田裕貴「まだ作品は終わっていない」
本作をより多くの人に届けるため、取材やイベントで自身の思いを語り続けてきた山田。だがそのたびに、「“ああすればよかった”って、いろいろ思い出してしまうんです」と口にする。
「たとえば、敵軍の缶詰を前にして葛藤する場面。もっと上官にすがりつくように懇願してもよかったかもしれない……と、今日もふと考えていました。撮影が終わっても、僕の中では終わっていない。それが常態化しているんです」
これを聞いていた平監督は、静かにうなずきながら言った。
「それって、本当に“生きていた証拠”ですよね」
その言葉に、山田の表情がふっと柔らかくなる。
「たしかに、“あのとき、こうすればよかった”って後悔するのは、誰にでもあること。いま監督に“生きていた証拠”と言ってもらえて、すごく腑に落ちました」
■スーパー戦隊ヒーローから『木の上の軍隊』へ──“届ける”という原点への回帰
山田の俳優デビュー作『海賊戦隊ゴーカイジャー』の放送が始まって1ヶ月後、東日本大震災が発生。子どもたちから「ヒーロー、助けに来て」といった手紙が届いたものの、実際に“助けに行く”ことはできなかった。
「無力感に打ちのめされました。でもある時、“かっこいい姿を見せることで、誰かの希望になれるかもしれない”と気づいたんです」
その後、「売れなきゃ」「一番にならなきゃ」と焦った時期もあったというが、『東京リベンジャーズ』シリーズや『キングダム』シリーズ、『ゴジラ-1.0』などで確かな存在感を発揮し、今や引く手あまたの俳優に。今年は本作に加え、『ベートーヴェン捏造』(9月12日公開)、『爆弾』(10月31日公開)と主演作が続く。
「『木の上の軍隊』が、戦争を知らない世代に、“生きているだけでありがたい”と思ってもらえるきっかけになればうれしい。それを素直に願えるようになりました。この映画が、誰かの心に届いてくれたら、それだけで十分です」
役を生き続ける“俳優”山田裕貴の言葉には、確かな覚悟と祈りが込められていた。
■山田裕貴、「嘘のない芝居」で沖縄の心をつかむ
山田へのオファーについて、平一紘監督はこう振り返る。
「安慶名という役は、沖縄の“素直な人間性”を体現できる俳優でなければ成立しないと思っていました。多くの候補を検討しましたが、最初にオファーした山田さんに引き受けていただけて本当にうれしかった。
山田さんの芝居には“嘘がない”んです。“嘘のない芝居”ができる人じゃないと、この役は務まりません。
沖縄の人たちは、出身者ではない俳優が“うちなんちゅ”を演じることに敏感です。それは僕自身、よく理解しているつもりです。だから山田さんにとっても、相当なプレッシャーだったと思います。
でも、山田さんはその重圧の中でも役に真摯に向き合ってくれました。うちなんちゅの方々が観ても、きっと違和感なく受け入れていただけると確信しています。前作『ミラクルシティコザ』での桐谷健太さんもそうでしたが、演技に“素直さ”があれば、出身地に関係なく心に届く。そのことを今回も再確認できました」
映画は6月13日から沖縄で先行公開され、初週の週末3日間で観客動員No.1を記録。2週目以降も評判が評判を呼び、スターシアターズ系の4館では5週連続No.1を達成。現地で熱い支持を集めている。
物語は、山下と安慶名が樹上生活を始める前から始まり、命からがら木の上に逃れ、当初は過酷だった2人の生活は、米軍の物資を手にしたことで徐々に変化していく。
その中で、山下と安慶名の対照的な変化も大きな見どころとなる。
平監督は語る。
「堤さん演じる山下は、日本を守るという使命感を強く抱いた人物。国を守るためなら悪人になることも辞さない冷静な男です。一方、安慶名は島から出たこともない、ごく普通の青年。ある出来事をきっかけに、彼の中に“兵士としての意識”が芽生えていきます。逆に山下は、次第に緊張から解放されていく。物語の中で、この2人の関係性が逆転していく──そこが本作の大きな核です。だからこそ2人には『木の上で本当に生きてください』とお願いしました」
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