マーベル・スタジオ最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(公開中)の吹替版で主要キャラクターを演じた日本版声優の子安武人(リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック役)、坂本真綾(スー・ストーム/インビジブル・ウーマン役)、林勇(ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ役)、岩崎正寛(ベン・グリム/ザ・シング役)が集結。それぞれのキャラクターや吹替収録の舞台裏、作品に込めた思いを語り合った。

■“完璧じゃない”からこそ共感できる──人間くさいヒーローたちの魅力

――それぞれが演じたキャラクターについて、どんな役柄で、どんな魅力があるのかを教えていただけますか?

【子安】リードって、原作のマーベル・コミックスでは「頭脳明晰で完璧なリーダー」というイメージがあると思うんですが、今回の映画では全然違います。不器用で未熟で、悩んでばかり。本当に“普通のおじさん”という感じで、ヒーローと呼ぶにはちょっと頼りないんじゃないか?と心配になるくらいなんです。

 そんな彼を、ペドロ・パスカルが絶妙なさじ加減で演じています。知性がありながら情けないところもあって、すごく人間味にあふれたキャラクターになっています。

 今作は、ただのヒーローではなく、“未熟だけど必死に頑張る人たち”の物語。完璧じゃないからこそ、共感できるし、応援したくなる。戦うだけじゃない、支え合う“家族の形”がちゃんと描かれているのが、すごく好きですね。

【坂本】今作の4人は、もともと普通の人間です。特殊な能力を得たあとも、完璧ではないまま、お互いの足りない部分を補い合いながらチームとして戦っていく。そういう意味で、すごく“家族的”なんですよね。スーは、とても包容力のある女性です。強くて冷静で、4人の中ではいちばん大人。みんなを尊重できる懐の深さと優しさを持っている。母親としての視点が加わって、人としての奥行きがさらに増しているように思いました。“特別な能力”じゃなく、“誰かを思う力”がヒーローなんだって、改めて感じました。

【岩崎】僕が演じたベンは、岩のような強固な身体を持っているけれど、内面はとても優しくて繊細。外見が変わってしまったことへの葛藤や孤独を抱えつつも、仲間たちとの中で人間らしさがにじみ出てくるんです。今作は、そういう人間の機微がすごく丁寧に描かれていたのが印象的でした。ヒーロー・アクションの見応えはもちろんのこと、ヒューマンドラマの側面が強い作品だと感じました。人間って、どんな状況でも誰かと支え合って生きていくもの。そう思わせてくれる作品です。

【林】ジョニーは陽気でムードメーカーな存在で、ちょっと“末っ子気質”のキャラクターです。茶化したり、ふざけたり、リードに対しても軽口を叩いて、ちょっと馴れ馴れしかったり(笑)。みんなそれぞれ優しいので、ジョニーは自然と甘えられるんだろうな、と思いました。血のつながりより“信頼”で結びついている家族、という感じがすごくよかったです。

■繊細なキャラクター性をどう日本語で表現したか

――各キャラクターの魅力を吹替版で表現するにあたっての難しさとは?

【子安】オリジナルの役者さんたちが素晴らしい芝居をしているので、それに頼れる部分もありますが、吹替版としてどう表現するかはまた別の問題。そこに難しさがあるんです。

【林】演じていて感じたのは、オリジナルの俳優さんたちの演技が本当に自然で、無理に気負うことなく、その場に“存在している”という感じだったこと。僕もなるべく背伸びせず、誇張しすぎない芝居を心がけました。監督とも相談しながら、自分なりに解釈して丁寧に向き合ったつもりです。

【坂本】私は夫婦の会話シーンだけはヒーローらしい緊張感ではなく、リラックスした空気感を出したかったんです。プライベートな会話だからこそ、スーの柔らかい一面が見えるように演じました。

【子安】僕の持ち味である“低くて圧のある声”は封印。ペドロ・パスカルさんの声は、実はそんなに低くないんです。だから「声を低くしないでほしい」「中音域で芝居して」と繰り返し言われて。これは本当に大変でした。しかも、リードというキャラクターが“完璧なヒーロー”ではなく、どこか頼りなくて未熟。なので声に少しでも威圧感があったらNG。隣のおじさんが頑張っている感じ、という本当に繊細な芝居が求められる収録でした。

【岩崎】僕も「軽く演じてください」とすごく言われました。これまでの作品のイメージだと力強いトーンに引っ張られがちなんですが、今回はなるべく中音域で、柔らかく。オリジナルキャストの芝居と真摯に向き合って、違和感のない吹替版にするために試行錯誤しました。

■“守りたい存在”ができたとき、ヒーローの価値観が変わる

――本作でリードとスーの間に生まれた赤ちゃん・フランクリンが物語の鍵を握る展開について、思うところは?

【坂本】スーは、インビジブル・ウーマンとしての“特別な力”とは別のエネルギーを育児に注いでいます。劇中では、世界を守るか、我が子を守るか、という究極の選択を迫られる。実際の子育ても同じで、キャリアと家庭の狭間で悩む女性は多いです。子どもを何かと天秤にかけるべきではない、という想いは私自身が母になってから実感したことで、それをスーに重ねて演じることができました。

【林】僕は姉たちが子どもを産んだことで、間接的に“おじ”として子どもに接する機会が増えました。母親になった姉の表情や子どもに愛情を注ぐ姿を見て、人ってこうやって変わっていくんだなぁと感じたんです。ジョニーを演じるうえでも、家族への愛情や守りたいという気持ちは、そういう実体験がヒントになった気がします。

【子安】僕は2児の父で、もう子どもは30近いので、ただただ懐かしい気持ちになりました(笑)。オムツ替えや授乳でバタバタしていた日々を思い出しました。子どもが生まれると人生が一変する。まさに“フランクリン前・フランクリン後”で世界が変わる。リードとスーの関係もそこから動き出すというのが、とてもリアルでした。

【岩崎】うちには子どもはいませんが、甥や姪がいて、彼らを見ていると「無条件に守らなきゃ」と思う瞬間があります。赤ちゃんって存在そのものが神秘的で、本能的に“守りたい”と思わせるんですよね。スーが息子を守るために全存在をかける姿を見て、言葉では言い尽くせない純度の高い愛を感じました。

■レトロなのに新しい “エモい”世界観とこれからへの期待

――今回の作品、衣装や街並み、ガジェットのデザインが“レトロフューチャー”で、どこか懐かしくて新しい感じがありましたよね。

【子安】今回はレトロフューチャーな世界観がすごくおしゃれですよね。空飛ぶ車とか、昔の人が思い描いた“未来”って感じがワクワクしますね。

【坂本】衣装も細部までこだわっていて、リードが作る宇宙服なんかは「そこまで!?」というくらい凝ってます(笑)。リードってファッションにもこだわりがあるんだなと、ちょっと面白かったです。昔っぽいのに新しい、不思議な映像の質感ですよね。エモいって言葉がぴったりで、今の若い人にも刺さると思います。

【林】いろいろ掛け合わさって新しさを感じるというか、それはすごく感じましたね。

【岩崎】僕の演じたベンには料理シーンがあるんですが、昭和っぽい家電とかも登場して、レトロ感がかわいいんです。街並みもどこか懐かしいのに、ちゃんと“今っぽい”新しさがある。センスが光ってましたね。

――最後に、「ファンタスティック4」はMCUの中で今後どんな役割を担っていくと思いますか?

【子安】いやあ、難しいですね。マルチバースがある以上、本当にどう展開していくのかは誰にも分かりません。ただ、今後の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』につながっていく中で、リードが重要なポジションになる可能性はあると思います。僕自身も、彼らがどんなふうに活躍していくのか、楽しみにしています。

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