■開設当初から寄せられた、発育や発達の相談「時代によっての傾向が顕著」
「エンゼル110番」は、50年前から続く育児に関する無料電話相談。開設当時の1975年は、いわゆる「団塊の世代」の出産期が継続していた時代。働くために地方から都心部への移住を選択する家庭も多く、大家族から核家族へと育児をめぐる環境も大きく変化していた時期でした。
開設当初は、利用者の8割以上が30歳未満であったのに対し、2002年を境に30歳以上の相談が半数を超えるように。2006年以降、30歳以上の相談は6割前後で推移し、さらに近年40歳以上の相談が増える傾向にあり、2012年には5.4%でしたが、2016年には7.6%にまで増加していると言います。
なかでも発育や発達の相談は開業当時から寄せられていて「時代によっての傾向が顕著にあります」と育児相談員Uさん。
「50年前は、反り返りが強いので脳性麻痺なのではないか?次には、目が合わないから自閉症なのか? さらには、落ち着きがないからADHD(注意欠如・多動症)なのではないのか? というように時代ごとに心配事が変わっていった印象です。とくにインターネットやSNSが普及しはじめたころから、『ネットにはこういうふうに書いてあって、うちの子は全部あてはまるんですが…』という相談が増えてきました。
■SNS利用でかえって孤立し、苦しむ…”ネットで検索魔”の悪循環に繋がってしまう
SNSの育児アカウントでは、「アカウント名@3y+5m」(3歳、5ヵ月の子どもがいるという意味)というように、子どもの月齢を明記した状態で発信する暗黙ルールもあります。これによって同じ年齢・月齢の子を持つ親同士がつながれるメリットはありますが、子ども同士を比べてしまったり、発育や発達の粗探しをしてしまったり、「うちの子はなぜこれができないのか? 同じ月齢の子はできているのに…」と思い悩む。かえって孤立し、苦しむ親は多いのではと推察します。
「発育や発達に関しての悩みは、特に近年多いです。ご自身で調べた症例に自分の子をあてはめて、発達障害に違いないと決めつけて相談される方もいらっしゃいます。私も親なので分かるのですが、育児って自信がないものじゃないですか。いくら情報をとれるようになったとはいえ、発育や発達の遅れなのか、病気なのか、境目が自身では判断できない部分があって、さらにネットでの検索に繋がってしまうのかなと思います。
『その枠にあてはめたい』『はっきりさせたい』という気持ちは、痛いほどよく分かります。早めに専門機関へ相談に行くことがプラスに働くかもしれない。うちに相談をされる親御さんは、専門機関にすでに通われているという方も多いんです」
■癇癪への対応「お子さんもママも“楽な対応”で構わない」
たとえば「子どもの発音が聞き取りにくく、意思疎通が取れない。何らか障害なのではないか?」という相談。
「まずは『どんなことを試しましたか?』と尋ね、現時点での親御さんの対応を聞きます。その対応を補うような知恵やアイデアを先輩ママとして伝えていくのも一つの方法です。口を動かすと滑舌が変わってくるので、シャボン玉や紙風船など、口を使う遊びを提案します。遊びながら、口周りの筋肉を使っていくと、成長とともに滑舌もよくなってくるんじゃないかしら…という感じで、こちらがおすすめする方法をお話していきます」
さらに特性のひとつとして「癇癪」があげられますが、特に外出中は周囲を気にしてどうにかクールダウンさせようとする親御さんが多い印象です。泣かせっぱなしがいいのか、早く落ち着かせる方法を選ぶのか。しつけに関わるので慎重になりがちですが、「楽な対応を選んでいい」。癇癪への対応は、「お子さんの年齢によってアドバイスが異なる」とUさん。
「癇癪への対応は年齢によって異なるということをご存知ないケースが多いです。悩んでいるママパパには、自分で我慢できるようになるのは4、5歳くらいからなんですよという話から入ります。たとえば、お子さんがイヤイヤ期と言われる1歳半~2歳ぐらいだとします。その年齢だと、まだ大人が言ったことを理解できない時期です。
楽な道を選んだたら、子どもが誤学習するのではないか、また次も同じように求められるのではないかと不安になるかもしれませんが、「発育や発達が落ち着いてきて、大人が話したことで納得できるようになったら、そこから関わり続けたら心配ない」といいます。
“楽な方法”とはその人によって異なり、数百円のおもちゃを買ったり、お菓子を買ったり色々な方法があります。
「アンパンマンのお菓子を買ったら満足するんです」とママが言ってれば『しばらくはそれでいいんじゃない?』と返して、『買い物自体、気が重くて…』と言われたら、『ネットスーパーに頼ってもいいんじゃない?』とその人に寄り添った方法を提案します。そのときの状況を聞いて、お子さんの発達に合わせて、話していきます。癇癪は10歳ぐらいまで続くお子さんもいるから、ゆるやかに少なくなってくればいいと経験者だから分かる部分を伝えます。大変だよねと相談者に寄り添うことを大切にしています」。
■”本当の悩みはどこにあるか?”を引き出す「電話だからこそ伝えられる“ぬくもり”がある」
夫婦で育児をしていたとしても、実家の協力があったとしても、「ママパパはふとした瞬間に孤独を抱えやすい」と育児相談員のUさんは現状を明かします。
「パパの産後うつもニュースになりましたが、育児と向き合っているとママもパパも孤立するし、悩みが似てくるんです。でも最終的に育児の方針を決めるのは親御さんです。いかにその選択に寄り添えるのか。私たちが相談を受けるときの基本姿勢は『本当の悩みは何なのか?』を会話からどれだけ引き出せるかです」
SNSやインターネットでは情報が多すぎる。ママ友に“本当に悩んでいること”は相談しづらい、昭和と令和で育児環境が違いすぎる実母には共感してもらえない、常にワンオペ状態…。
「私たちには電話だからこそ伝えられる“ぬくもり”があると思っています。匿名で相談ができますが、一度相談するとその内容を次回に引き継ぐことができるので、相談員と親御さんとの関係性も密なものになります。『自信がない…不安でしょうがない』と言っていたママが、就学前には肝っ玉母ちゃんになっている。その過程を見守れるのも感慨深いです。エンゼル110番は無料の育児相談として、50周年を迎えました。電話で相談いただくことの強みを生かして、育児をするママパパの不安や悩みを少しでも軽くすることができればと思っています」
1975年から続く、森永乳業の無料育児相談「エンゼル110番」
[番号] 0800-5555-110
[受付時間]月曜日~金曜日 10:00~14:00(土日休日・年末年始を除く)