きっかけは、1980年にミシェル・スミスという女性とその精神科医ローレンス・パズダーによる共著として出版され、アメリカで大ベストセラーとなった書籍『ミシェル・リメンバーズ』。映画『エクソシスト』(1973年)や『オーメン』(1976年)といったオカルト映画がブームとなる中、退行催眠療法を通してミシェルが思い出したという“封印された記憶”は衝撃的だった。彼女は5歳の頃、悪魔崇拝の教団に引き渡され、儀式の生贄にされたと証言する。
「私を檻に閉じ込め、動物を生贄にし、排泄物を食べさせられた」「胎児の手足を切断する儀式を目撃した」など、“悪魔的儀式虐待”の生々しい描写が話題を呼び、テレビのバラエティやワイドショーなどで次々と紹介され、大きな波紋を広げていく。
この書籍を契機に、「私も儀式に巻き込まれていた」と告白する人が続出。アメリカ全土に“サタニック・パニック”と呼ばれる一大混乱が広がっていく。警察やFBI、学者らも巻き込んだこの騒動は、やがて“現代の魔女狩り”とも呼ばれ、数々のえん罪事件や社会不安を引き起こした。
本作は、その異常な集団心理の裏側と、今なおアメリカに影を落とす“サタニック・パニック”の真相を、スティーヴ・J・アダムズ&ショーン・ホーラー監督の手でテンポよくスリリングに描いたドキュメンタリー。SXSW映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭、ホットドックスなど、世界各地の映画祭でも高い評価を獲得している。
公開されている本予告映像は、ミシェルの証言や当時の騒動の模様など、貴重なアーカイブ映像を構成されている。悪魔的儀式に関する告発は事実かと聞かれ、きっぱりと「もちろんです」と答えるミシェル。だが、「もう何が現実かわからない」と涙声で訴える場面も。
ほか、サタン教会の開祖アントン・ラヴェイの姿やサタニック・パニックを知る上で欠かせない重要事件、マクマーティン保育園裁判の写真なども挟まれ、ひとりの女性の蘇った記憶から出発し、世界を暗黒に包み込んだ騒動が立体的に浮かびあがる。最後に回り続ける逆さ十字は一体何を意味するのか。
1980~90年代にアメリカで実際に起きた“社会的パニック”を冷静かつ客観的に描いた本作。だがそのテーマは、情報が氾濫し分断が進む現代においてなお鮮烈な問いを投げかける。最も恐ろしいのは“悪魔”ではなく、人間の深層心理と欲望なのかもしれない。
■監督:スティーヴ・J・アダムズのコメント
こんにちは!日本の皆さん。『サタンがおまえを待っている』の監督です。日本で映画が公開され、皆さんが楽しんでくれることを願っています。サタン万歳。
■監督:ショーン・ホーラーのコメント
日本の皆さん、こんにちは。『サタンがおまえを待っている』のもう一人の監督です。この物語が「信じられない」と皆さんは思うと思います。実際にはカナダの小さな町の、自分の隣人だったとあるカップルの物語なのですが、サタンに対する考えや思いが変わる作品になるのでは無いかと思っています。ぜひご覧ください!
■登場人物
ミシェル・スミス(悪魔的儀式虐待被害者/「ミシェル・リメンバーズ」著者)※アーカイブ映像
ローレンス・パズダー(精神科医/「ミシェル・リメンバーズ」著者)※アーカイブ映像
アントン・ラヴェイ(サタン教会創始者)※アーカイブ映像
ブランチ・バートン(サタン教会)
チャールズ・エニス(バンクーバー警察)
ケン・ラニング(FBI特別捜査官)
サラ・マーシャル(配信者)
ロフタス博士(記憶科学専門家)