『はだしのゲン』は、原爆で家族を失い、貧困や偏見の中でも力強く生き抜こうとする少年・ゲンの姿を描いた漫画。主人公ゲンのモデルは、6歳で被爆した作者・中沢啓治氏自身である。1973年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が始まってから半世紀、これまでに多くの言語で翻訳・出版され、世界中で読み継がれてきた。
一方、近年では「描写が過激」「誤った歴史認識を与える」などの理由から、学校図書館での閲覧制限を求める声が上がったり、広島市の平和教材から削除されるなど、議論を呼んでいる。
本作は、メディア・アンビシャス映像部門大賞、第15回衛星放送協会オリジナル番組アワード〈ドキュメンタリー部門〉最優秀賞を受賞したBS12スペシャル『「はだしのゲン」の熱伝導~原爆漫画を伝える人々~』(2024年9月放送)を映画化したもの。なお、BS12が自ら映画製作を手がけるのはこれが初となる。
監督は、本作が映画初監督となる込山正徳。これまで数多くのドキュメンタリー番組を演出してきた実績を持つ。制作はテレビ版と同じく東京サウンド・プロダクションが担当。映画化にあたっては、込山監督を敬愛する大島新(『香川1区』『国葬の日』)と前田亜紀(『NO選挙, NO LIFE』)が共同プロデューサーとして参加している。
戦後80年を迎えたいま、映画は『はだしのゲン』という作品を通して、の世界にあふれる怒りや悲しみ、そして人間の優しさをあらためて浮かび上がらせながら、反戦のメッセージを現代に問いかける。
■企画・監督・編集:込山正徳のコメント
私の祖父は東京大空襲で殺され、骨も出てこなかったそうです。
■プロデューサー:高橋良美のコメント
2024年に放送したテレビ番組『『はだしのゲン』の熱伝導~原爆漫画を伝える人々』が、より力強い内容になり、映画となりました。BS12が自ら映画を作ることはこれが初めてです。この作品のテーマは、「怒り」。
■共同プロデューサー:大島新のコメント
込山正徳監督とはもう30年の付き合いになる。ずっと尊敬する先輩ディレクターだったが、目標にするのは早くからあきらめた。なぜなら「込山スタイル」は、とても真似ができないから。込山さんは、人懐こい笑顔と優しい人柄で、難しい被写体とも自然体で向き合う。差別に苦しむ人たちや難病患者、百姓家族や悪ガキたちにカメラを向け、数々の傑作ドキュメンタリーを作ってきた。そんな込山さんが初めて映画に挑んだのが『はだしのゲン』だ。ところが今回の込山さんは、いつもとちょっと違う。果てしない優しさに、静かな「怒り」が加わった。映画は叫んでいる。「日本人よ、人類よ、これでいいのだろうか」と。