■“スピルバーグから影響を受けた監督×脚本家が語る「ジュラシック」シリーズの“原点”と進化

 スティーヴン・スピルバーグ監督による『ジュラシック・パーク』(1993年)から32年──世界中から愛され続けるシリーズの最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が、いよいよ日本で公開。本作でメガホンを取ったのは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などで知られるギャレス・エドワーズ監督。さらに、1作目の脚本家デヴィッド・コープが1997年の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』以来28年ぶりにシリーズへの復帰を果たした。7月に来日した2人に、撮影の舞台裏や“スピルバーグ”へのリスペクト、そして日本の観客への想いまで、たっぷり語ってもらった。

――かつて『ジュラシック・パーク』を初めて観たときと同じような感動を、新しい世代が味わえる映画に仕上がっていると思いました。その点を意識していましたか?

【デヴィッド】ええ、まさにそれが、スティーヴン(・スピルバーグ)と私がこの作品に取りかかった当初から考えていたことでした。このシリーズは恐怖だけではなく、「驚き」や「感動」といった幅広い感情を観客に与えられる。そこを忘れてはいけないと思ったんです。たとえば、今回の映画の中に私がとても気に入っているショットがあります。モササウルスをボートで追いかける場面なんですが、非常に美しく、まるで映画の中に入り込んだような感覚になります。あのシーンは、ただ恐いだけでなく、ワクワクとした高揚感を引き出してくれるんです。そういうシーンがたくさんあるのが「ジュラシック」シリーズなんです。

――監督として、スピルバーグ的な演出を意識されていたのですか?

【ギャレス】もちろんです。『ジュラシック・パーク』のような映画を作りたいと思ってこの道に進みました。しかし、名作中の名作、マスターピースなので、競い合うどころか、とても超えられない。なので、私が観た時の感動、あの時の気持ちを、まだ「ジュラシック」シリーズを見ていない若い世代にも感じてもらえるような映画を作ろうと考えました。ユニバーサルスタジオが30年くらい前に作ったことすら忘れていて、倉庫にしまってあった映画が見つかった。見てみたら、『ジュラシック・パーク』の続編みたいだけど、1作目とあまりにも似すぎているのでお蔵入りになってしまった――それを2025年の今、公開したみたいな。1作目と同じようなトーン、同じような印象を抱く作品にしようと思ったんです。それは脚本家のデヴィッドが28年ぶりに復帰してくれたことで可能になったんです。

 僕はスピルバーグ監督の作品6~7本の中から好きなショットを選び出したことがあって、約100ショット、6時間分ぐらいになってしまったんだけど、それくらい最高のショットがたくさんあるってことなんですよね。スピルバーグ監督が得意とするショットの一つが、俳優たちとカメラを一緒に動かして撮影する手法。すごく自然に見せているんですけど、誰にでもできるものではない“魔法”みたいなショットなんです。

 僕がそれを真似しようとすると、俳優たちから「そんなところを歩いているのは不自然だ」「そんな動きにはならない」と反対される(笑)。そのたびに、僕の理想のショットが崩れていきます。スピルバーグ監督がそれをできているのは、たぶん俳優たちもスピルバーグ監督だから「Yes」と言うしかなかったからなのかもしれない。今回の撮影では「スピルバーグ風の演出をやりたい」と事前に伝えていたので、俳優たちもある程度協力してくれて、部分的に実現できたと思います。やりたかったことの10分の1くらいだけど、スピルバーグの“魔法”を再現できた場面では、本当に満足しています。

――デヴィッドさんは「ジュラシック」シリーズ以外の作品でもスピルバーグ監督と一緒に仕事をしていますが、映画の趣味や価値観は似ているのでしょうか?

【デヴィッド】そうですね、これだけ一緒に仕事をしているから似ている部分も多いです。やはり一緒に作品をつくっていると、自然と共通点も増えていきます。特に映画に関しては共通の好みも多いですが、ユーモアの感覚はちょっと違うかもしれません(笑)。それが映画の中でうまくいかされる場合とうまくいかない場合もあります。が、彼は別次元の人間、この業界で彼ほどのイマジネーションを持っている人はいません。

 人の価値観や美意識が形づくられる時期って、おそらく13歳から24歳くらいまでだと思うんです。その頃に観たものや聴いたものから大きな影響を受けて、それがその人自身をつくっていく。私にとってはスティーヴン・スピルバーグが、創作における“原点”です。13歳から24歳くらいまでの間に観た映画――『ジョーズ』『未知との遭遇』『E.T.』『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』――それらから受けた影響は計り知れません。私は“スピルバーグの子ども世代”なのだと思います。

■30年にわたって描いてきた“恐竜が存在する世界”の蓄積を大切に

――音楽を担当しているアレクサンドル・デスプラは、エドワーズ監督の『GODZILLA』でもタッグを組んでいます。今回、オリジナルのテーマ曲の使用について、最初からプランがあったのでしょうか?

【ギャレス】オリジナルテーマの扱いについては、はっきりとは決めていませんでした。音楽を担当したアレクサンドル・デスプラとは最初、その話題を避けていたんです。彼が切り出してくるのを待っていたというか。あるとき彼が「オリジナルテーマ曲、使う?」と聞いてきたとき、私は「どう思う?」と返しました。彼の創造性を制限したくなかったんです。

 でも内心では、「エンドクレジットで使いたい」と思っていました。というのも、『ジュラシック・パーク』を初めて観たときの感動――物語が終わり、あの音楽が流れる瞬間の感じを再現したかったんです。 デヴィッドの脚本はオープニングとエンディングがはっきりしている。今回の物語の終わり方も、言葉は少なめで、視線や表情だけで語るような、視覚的な映画の良さを生かしたつくりになっています。

 オリジナルテーマ曲の使いどころについては、かなり試行錯誤を重ねました。最初は、私が「ここに入れたい」と思う箇所にテーマ曲を入れてみて、完成した映像をデヴィッドとスティーヴンに見せたんです。そしたら、2人に「ここは外したほうがいい」とダメ出しされてしまって(笑)。「彼らの気が変わるといいな」と思っていたんですが、結果的にはその通りになりました。 時間が経つにつれて、2人とも「ここに入れよう」と、戦略的に使うことに合意してくれました。アレクサンドルはよく、「ジョン・ウィリアムズという偉大すぎる作曲家と比べられるのは本当に大変だ」とこぼしていました。それに対して私は、「同情はしないよ。こっちはスティーヴン・スピルバーグと比べられてるんだから」と冗談まじりに返してましたね(笑)。

――デヴィッドさん、あなたが『ジュラシック』シリーズに関わるのは今回で28年ぶりになります。その間に新しい恐竜、新しいアイデア、さまざまなアップデートがありましたよね。毎回目を通していたのですか?

【デヴィッド】ええ、すべて興味深く観ていました。というのも、私にとって「ジュラシック」シリーズというのは、一時的に遊ばせてもらえた“砂場”のようなもので、そのあと別の人たちがどんな“お城”を作るのかを楽しみにしていたんです。自分が作ったものが“お城”だなんて大げさかもしれないけれど、それに近い存在ではあったかなと(笑)。

 だから、他のクリエイターがその世界観をどう膨らませていくのかを見るのは、本当に楽しい体験でした。そして、再び自分の番が巡ってきたときに、「じゃあ自分は、この積み重ねの上に何を加えられるだろう?」と考えました。30年にわたって“恐竜が存在している世界”として描かれてきたその物語を、どのように受け継ぎ、どこへ広げていくか――それが今回のチャレンジでした。

――これまでの作品で描かれてきた恐竜たちや世界観を受け継ぎながらも、新たな表現に挑戦されたわけですね。

【デヴィッド】そうです。これまでのシリーズがどこへ向かってきたのか、何を描いてきたのかを踏まえた上で、自分としてもその延長線上にある物語を描きたいと思いました。“恐竜が存在する世界”が30年にわたって描かれてきたわけですから、その蓄積を大切にしつつ、さらに広げることを目指しました。

 また、私たちは常に「恐竜研究の最新情報」にも敏感でいようと努めてきました。たとえば「恐竜に羽毛があった」といった新発見などですね。科学的に正確でありたいという思いがあるので、できる限り新たな知見を反映しようとしています。それと同時に、“新しい恐竜を創造する”という自由も大切にしています。今回は、既存の恐竜から突然変異したという設定の“新種”を2体登場させました。シリーズを通して科学的な正確さは心がけていますが、あくまでもこれは“エンターテインメント”です。ですから、ときには自由な創作を使って、観客をワクワクさせる表現も積極的に取り入れているんです。

――最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。

【デヴィッド】こんにちは、日本の皆さん。『ジュラシック・ワールド/復活の大地』の脚本を担当したデヴィッドです。この映画を私たちがつくったときと同じくらい、皆さんにも楽しんでもらえたらうれしいです。

【ギャレス】こんにちは、日本の皆さん。私はこの作品でスティーヴン・スピルバーグのスタントダブルを務めました……(笑)。これは内緒ですが、実は私たちは日本の観客が世界でいちばん好きなんです。他の国には絶対に言わないでくださいね!モンスターが街を壊す映画をここまで愛してくれる国は、そう多くありません。ありがとう、日本!

――ちなみに、そのユニークなTシャツについても聞かせてください。どこで買ったんですか?

【ギャレス】これはインターネットで買えるものなんですよ。自分で買って、映画の撮影中に着ていたんです。それで、そのまま持ち帰ってきたんですよ。映画の撮影現場には、何枚かTシャツを持っていくんですけど、誰かが舞台裏でそのTシャツ姿を撮ってくれて、その写真を見た人が『あっ、それ見たことある!』って気づいてくれたら面白いなと思ってるんです。だからこのTシャツも、何日か着てみて、誰か気づいてくれるかなってずっと思ってました。それで今、あなたが気づいてくれた(笑)ついに報われました。ありがとう。

編集部おすすめ