櫻井さんは1987年に3人組アイドルユニット「レモンエンジェル」のメンバーとして芸能界デビュー。その後、声優に転身し、『マクロス7』ミレーヌ・ジーナス役、『怪盗セイント・テール』羽丘芽美/怪盗セイント・テール役、『るろうに剣心』巻町操役をはじめ、多くの作品に出演し、洋画の吹き替えなどでも活躍した。
2016年9月に「役者としての大事な声が、かなり出づらくなってきているのを実感しています」「声優として演じていて私自身がそのような変化に耐えられず」と、突然の引退を発表したが、その後、2019年に活動を再開。近年は人気アニメ『ポケットモンスター』で人気キャラクター・シロナ役を担当し、大きな話題となった。
櫻井さんは1990年代に起きた声優ブームの中心人物で、今では一般的となったが、当時は多くの雑誌で声優としては異例のグラビアが掲載。オリコンでも1997年発売の『オリコン・ウィーク The Ichiban』で表紙を飾るなど、「アイドル声優」の先駆者として地位を確立した。なお、櫻井さんが表紙を飾った同誌では、L'Arc~en~Ciel、ウルフルズ、Every Little Thingなども紹介しており、櫻井さんの当時の人気の高さが感じられる。
そんなブームの中で1994年に創刊された声優雑誌『声優グランプリ』は2023年、90年代当時にブームを起こした女性声優を特集した雑誌『声優グランプリplatinum』を発売。櫻井さんのほか、椎名へきる、國府田マリ子、岩男潤子、横山智佐について特集されていた。
櫻井さんについて同編集部は「アイドルから声優に転身して、持ち前の歌唱力と演技力を存分に発揮し、人気が爆発した櫻井智。『マクロス7』や『怪盗セイント・テール』などでのヒロインぶりは、多くの人の胸に刻まれているはず。誌面でも輝いていたヴィジュアルの美麗さは今も健在」と紹介している。
そんな櫻井さんの活躍は、声優仲間たちも認めており、今回の訃報に千葉繁は自身のXを更新し「櫻井智さんの訃報を知り驚いています…。笑顔がすてきなまっすぐで華のある女優さんでした。御冥福をお祈りします」と追悼。
飯塚雅弓も「櫻井智さん。声優としてお仕事させていただいて間もない頃、ご一緒させていただいた時の煌びやかな立ち振る舞いや存在感。いつも背中を見て憧れの存在でした。久しぶりにスタジオでお逢いした時も優しい笑顔をありがとうございます。またご一緒したかったです。ご冥福をお祈りいたします」とつづった。
また、緒方恵美は長文で「最後に会ったのは少し前のBS-TBS『X年後の関係者たち』。その時のテーマであった『声優ブーム』ーー特に90年代に始まりつい最近まで続いたブームの、彼女は、確実に起点の1人でした」とし、「私のように作品でもちあげられた人間とは違って、本物のプロの『アイドル声優』とは彼女のような人を指すのだと当時は思っていたけれど、今、この亡くなる瞬間まで、ファンのことを想い、ギリギリまでという在り方を見聞きし、あなたは今も、本物のアイドルでい続けていたのだと知り、胸がいっぱいになりました」と心境。
「あの頃の表と裏。それをわかりながら笑顔で頑張り通した。なぜそこまで、と、当時の私にはわからなかったけれどーーその矜持を、通し続けた姿を尊敬します。いろいろな場でご一緒しましたが、一番心に深く刺さっているのは『るろうに剣心』にまつわること。あなたの心遣い。演技。話した時間。一生忘れない。がんばったね。本当にお疲れ様でした。
関係者から櫻井さんの功績や人柄などが伝えられているが、37歳の筆者も2022年にアニメ『ポケットモンスター』シロナ役についてインタビューをしたことがある。ポケモンバトル最強を決める世界大会の物語で、主人公・サトシ(のちに世界王者)とシロナが準決勝で対戦することから、シロナ役について質問すると「久しぶりに演じたのですが、それまで心のどこかで「もう、シロナはアニメに出ないのかな?」と思っていたので、シロナの再登場は本当にうれしかったです」と告白。
アニメにシロナが登場するのは当時、約9年ぶりということもあり、「収録の帰り際に監督さんから「シロナが再び登場するので、よろしくお願いします」と聞いた時、「やったー!」と思わず言葉が出てしまうほどでした」と喜びつつ、「自分が演じた役は、この作品に限らず特別な思いが入ります。その中でもテレビアニメ『ポケットモンスター』は、どの年代の方々にも愛されて、特に子どもたちの成長過程で必ず触れる作品だと思っています。甥っ子や姪っ子たちが「ポケモン! ポケモン!」と楽しむ姿を間近で見てきたので、作品に関われていることだけでも役者として宝物ですし、みんなに愛されているシロナを再び演じることができて、とても光栄です」と打ち明けていた。
なお、インタビュー当時はコロナ禍ということもあり、対面ではなく画面越しのリモート取材だった。アニメ関係者と筆者、櫻井さんと顔を映しながら取材を実施したが、筆者も苗字が”櫻井”のため自己紹介をした際に「同じ櫻井同士、30分よろしくお願いします。ふふふ」と櫻井さんが場を和ませていたことを覚えている。今回の訃報を聞いた際、すぐに思い出したのは、あの時の気品あふれるほほ笑みだった。