在宅医として2500人以上の看取りを経験してきた医師で作家の長尾和宏による小説『安楽死特区』(ブックマン社)が映画化され、来年(2026年)1月23日より劇場公開されることが決まった。主人公カップルを演じるのは、毎熊克哉と大西礼芳。
監督は『痛くない死に方』(2020年)、『夜明けまでバス停で』(22年)など、生と死を真正面から描いてきた高橋伴明。

 本作は近未来の日本を舞台に「安楽死法案」が可決され、国家主導で導入された制度のもと、人間の尊厳と愛を問う社会派ドラマ。政府が承認する安楽死の要件を満たしてもなお葛藤する人々の姿を『野獣死すべし』(1980年)、『一度も撃ってません』(2020年)などの脚本家・丸山昇一が描き出す。

 物語の中心となるのは、回復の見込みがない難病を患い余命半年と宣告されたラッパー・酒匂章太郎(毎熊)と、彼を支えるジャーナリストの藤岡歩(大西)。安楽死に反対するふたりは、制度の実態を内部告発するため「安楽死特区」への入居を決意するが、患者や医師との交流を通じて、心に変化が生まれていく。

 章太郎と歩の姿を軸に、最期のときを迎える患者やその家族、医師の視点が交錯する群像劇として、制度と現実の狭間で揺れる人々を描き、生と死の根源を観客に問いかける。

 社会的背景とも重なるタイミングでの公開も注目される。今年6月、イギリス議会下院は終末期の成人の「死を選ぶ権利」を認める法案を可決。すでにオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、ポルトガル、ニュージーランド、カナダなどで合法化が進む中、日本での議論にも影響を与える可能性がある。原作者の長尾氏は「ぜひ劇場でご覧いただき、大いに議論していただければ幸いです」とコメントしている。

■監督:高橋伴明のコメント

 生き死にを決めるのは大事なこと。生きたいやつと死にたいやつがいる。
いろんな考え、いろんなシチュエーションの人を描く、群像劇にした。本作の撮影を通じ、本人の意思だけでなく、周囲の人の思いを考えるようになり、その気持ちを尊重しながら進めるべきだと感じるようになった。

 安楽死という大きなテーマに対抗するには、自分の言葉を持っている人物でないと説得力がないと考え、回復の見込みがない難病を患っている章太郎をラッパーという設定にした。

 毎熊演じる章太郎と大西演じる歩が、どうきちんと死を選んでいるかを見てほしい。

■原作:長尾和宏のコメント

 2021年公開の映画『痛くない死に方』が高橋伴明監督との出会いでした。ズバリ尊厳死がテーマでした。今回は、私の小説「安楽死特区」の映画化です。尊厳死と安楽死は別物です。尊厳死は社会的に容認されつつある一方、安楽死は日本ではそれを望む市民が増えているにも関わらず国会でも医療界でもタブーのままです。そこに斬りこんだのが伴明監督の本作です。ぜひ劇場でご覧いただき、大いに議論していただければ幸いです。
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