“愚かな者に救いの手を”をコンセプトに2016年に本格始動した-真天地開闘集団-ジグザグ(しんてんちかいびゃくしゅうだん じぐざぐ)。命 -mikoto-(Vo/Gt)、龍矢 -ryuya-(Ba)、影丸 -kagemaru-(Dr)の3ピースバンドで、“禊”(みそぎ)と呼ぶライブを全国各地で展開。
2022年に日本武道館公演をソールドアウトさせるなど、独特な世界観と斬新なパフォーマンスで参拝者(ファン)を増やしている。8月20日には、現在放送中のアニメ『地獄先生ぬ~べ~』のオープニングテーマとして書き下ろした「P0WER-悪霊退散-」をリリース。ジグザグ初となるアニメタイアップ作品だ。

――アニメ『地獄先生ぬ~べ~』(テレビ朝日系全国ネット“IMAnimation W”枠)オープニングテーマのオファーが来たとき、どのように感じましたか?

【命】最初は、決まるかどうか全然わからない段階で、スタッフから「そういう話がある」くらいのことを聞いて。でも、実現できたらメチャクチャ嬉しいことだから、「ぜひ!」って頑張ってもらって。だから後日、「決まりました!」って聞いた時はみんな大喜びでしたよ。

【龍矢】僕と影丸さんは正式決定してから話を聞いて。ずっとアニメのタイアップをやりたかったし、しかも『地獄先生ぬ~べ~』ですから本当に嬉しかったですね。

【影丸】ただ、以前の「バリバリ最強No.1」(FEEL SO BADによる1996年版アニメの主題歌)がすごく有名じゃないですか。だから、命様はすごいプレッシャーのある仕事を引き受けたな、と。それもあって、どんな曲がくるのかと思っていたら、いや、さすが命様でした!

――アニメファンにも「バリバリ最強No.1」へのリスペクトはちゃんと伝わっているようですね。

【命】そこは意識しました。
ただそれは、自分のためという面もあるんですよ。「バリバリ最強No.1」が本当にいい曲だったから、自分自身、まったく違う曲は嫌だったし、同じ空気感や懐かしさを感じる要素、ああいう唯一無二な感じをジグザグでもやりたいと思って。今やっているツアー(『全国ツアー2025「47都道府県 ゆっくり行脚禊 ~第一弾~」』)でも新曲を歌っていますが、お客さんの反応はすごくいいですよ。初代主題歌がこれだけ名曲だと、もうちょっと悪口を言われてもいいんじゃないかって思うんですけど(笑)、思いの外マイナスな意見を聞かなくて。「これはこれでいいいね」って、温かく受け入れてくれているように感じています。

――曲そのものは、どのように作っていったのですか?

【命】アニメ制作チームと話をする前に、勝手に「こういう曲が合いそう」というデモをいくつか作ったんです。それを聴いてもらって、「この曲のイントロがカッコいい」とか部分的に拾っていただいて、そこから練って1曲に仕上げた感じです。制作チームの方が、カッコよさだけじゃないジグザグのいろんな要素を気に入ってくれていて。アニメ自体もそうですし、曲の方もジグザグのシリアスさとコミカルな要素を混ぜ込むことに同意していただけたので、この1曲でジグザグの雰囲気が伝わるような曲を作ろうと考えました。

【影丸】完成したデモを聴かせてもらった第一印象は「展開最高!」。プラス、かなりドラムが難しそうだなって(笑)。

【龍矢】僕も本当にジグザグらしさ全開だなと感じました。
それでいてアニメのイメージにもすごく合っていて。プレイ面では、同じフレーズがほとんど出てこないので頭が疲れますけど(笑)、演奏していて楽しい曲。ぜひみなさんにコピーしてもらいたいですね。

【命】全箇所、想像できない展開だと思います。ただ、構築して作った感じでもなくて。ジグザグはいろんなジャンルをやるので“何系”なのかわからないですけど、いわゆる“V(ヴィジュアル)系”畑でしっかりとやってきた中で、突拍子もない展開は普通にあって。だから、Bメロの「悪霊退散!」は意図的に入れ込んだ感はありますけど、自然とこうなったというか。そのうえで、サビは難しくないメロディと四分音符のリズムで、子どもから大人まで歌いやすいようにということもテーマにしました。

――サビで転調するアイデアは?

【命】それも初代へのオマージュ。アニメのファンが面白がってくれたらいいな、と。ですからフレーズではなく、合唱になったり、ツーバスがドコドコ鳴ったり、後半でキーが半音上がったりっていう音楽的技法でリスペクト感を表した感じですね。あとは多くの人に聴いてもらえるタイアップ曲なので、各楽器が目立つ感じにしたくて、スリーピースのバンド感も意識して。


――バンド感という点では、キック(バスドラム)がボトムにあって、低音のベースがその上にいるというレイヤー感が一般的ですが、ジグザグの場合は、むしろベースが一番下を支えていて、ドラムがその上でビートを刻む感じがユニークだと感じます。

【命】そこは多分、2人の好みですね。

【龍矢】僕はルート音でボトムを支えるプレイが好きだし、その方が影丸さんのテクニカルなプレイが目立って曲がカッコよくなると思っているんです。

【影丸】僕は、ベースがリズム楽器で、ドラムは(ギターがリズムを刻む)カッティングぐらいのポジションだと思っています(笑)。

【命】龍矢は下に行きたがるし、影丸は軽めのパーカッション的なドラムが好き。だからドラムとベースの関係性が普通のバンドとは逆で、正直、サウンド面でいい塩梅に着地させることが難しいんですけど、結果として、それが他のバンドとの差別化にもなっているような気がしています。

――レコーディングで印象に残っていることは?

【影丸】まず命様のデモってすごく丁寧に作られていて、たとえば手足が5本ないと叩けないようなフレーズはなくて、ちゃんとプレイ可能なリズムが打ち込まれていて。それを基本にして自分流に変えていくんですけど、今回は「他の人だったらどう叩くんやろ?」って思うくらい忙しい。高速のツーバスもそうですし、あとラップのセクション、あれはジャンル的に何て言うんですかね?

【命】1つのセクションがミクスチャーしているから、ん~、わからん(笑)。

【影丸】レゲエの要素もあって。その直後に来るブラストビートは本当に忙しい(笑)。でも、いろんな要素が詰まっているから叩いていて楽しいです。


【龍矢】そのラップ部分には最初、ベースは入っていなかったんですけど、最終デモで入って。それがまたややっこしくて(笑)。メロディアスに弾きながら、最後にスラップ奏法とロータリー奏法がパッと入ったり。ただここまでメロディっぽいベースを弾くのは初めてだと思います。

【命】狙ってそうしたわけではないんですけど。最初、このセクションにベースのルート音は必要ないと感じて。逆にサビはルート感をすごく出したかったから、それに対する装飾的、上モノ的なメロディとして生まれたフレーズですね。

――命様の歌に関しては?

【命】今回は異例というか、1サビだけデモ段階のテイクをそのまま使ったんです。もちろん、改めて本番用のレコーディングもしたんですけど、何回歌っても歌の表情というか、デモを超えられなかった。だから細かな話をすると、他の部分と音質が微妙に違うんです。それが嫌で何回も録り直したんですけど、歌の何を重視すべきかを考えて、悩みつつも1サビだけデモを採用しました。

――そういう判断は誰かと相談しながら?

【命】いや、全部自分でやっているので。
自分の部屋がスタジオで、録音からミックスまで自宅で完パケさせています。最後のマスタリングだけエンジニアさんにお願いして。だから本当に、自宅で録った歌がそのままCDになっているんですよ。

――そしてカップリング曲「WAN WAN WONDERLAND」は、テイストが大きく異なるジグザグらしいダンス・チューンですね。

【命】僕は90年代の音楽がめっちゃ好きなんですけど、当時、4つ打ちダンス・ミュージックが流行った時に『ダンスマニア』っていうコンピレーションCDがあって。その中の「キャプテン・ジャック」のオマージュです。兵隊の「右向け!」「左向け!」っていう掛け合いをパロディにしながら、もっと肩の力が抜けたキャッチーな曲にしたくて。なので、“わんわん!”は全然関係ないけど(笑)、そこにちょっとバンドサウンドを入れて。ドラムもちゃんと生で録ったんですよ。

【影丸】仕上がりがすごくカッコよくて、叩いてよかったって嬉しくなりました。ただ、禊(ライブ)では、叩かずに踊りたいですけどね(笑)。

【龍矢】ベースは打ち込みですけど、禊ではショルダー・キーボード(キーター)で初シンセベースを弾いてます。
鍵盤なのでいつもと全然違う感覚ですけど、でも4つの音しか使わないので大丈夫です(笑)。

――その現在開催中の禊ですが、いわゆる47都道府県ツアーを始めたきっかけは?

【命】これまでツアーをやってきた中で、ジグザグは好きだけど隣りの隣りの県までは行けない、でも地元なら「ちょっと観に行ってくるわ」っていう人が結構多いんじゃないか、っていう話をしていて。ただ、「よし、47都道府県を周るぞ!」みたいにガッツリとした感じではなくて、いろんな合間にゆっくりと47都道府県を回ろうというスタンス。ですから、もちろんツアー自体にもコンセプトはありますけど、本題はそこじゃなくて、ほんま行脚ですよ。ゆっくりと旅する。行ったことがない地に行ってみる。

――その中で、楽しみにしている土地はありますか?

【影丸】島根! 出雲大社に一度行ってみたいですね。

【龍矢】えっ、観光目的で?(笑)

【命】いやでも、普通に生きていて47都道府県を制覇できる人なんてそうはいないからね。出雲大社、行きたいねぇ。

【影丸】あとは旭川ですね。いつも北海道は札幌なので、旭川は楽しみです。

【龍矢】僕は京都が地元なので、今回、地元の大きな会場(ロームシアター京都)で禊をやれたことが嬉しかったです。

――命様は?

【命】強いて挙げれば、ですけど、やっぱり北九州。福岡は今回、福岡市じゃなくて北九州市なんですよ。前世の記憶というか、命様の始祖が誕生した地。しかも、まさに会場(J:COM北九州芸術劇場)のすぐ近くにある高架下トンネルみたいな公共連絡通路で、いつも友達と路上ライブをやっていて。クッソ寒い日に手がかじかみながら弾き語りで歌っていた想い出。そこで地元の音楽関係者に声をかけてもらって、小倉駅の裏にある小さな雑居ビルの一室で初めて経験したレコーディングに感動して「俺はこういう道に進むんだ」と思ったんですよ。その目の前で、その街で、この規模のツアーができるというのは感慨深いです。まあ、前世の記憶なんですけどね(笑)。

取材・文:布施雄一郎
編集部おすすめ