同番組は、米ラジオ局『NPR』の人気音楽企画の日本版として昨年スタート。
番組の収録日、その空間は森山の音楽と笑顔で満たされ、まるで“音楽部の部室”のような親密な空気が広がっていた。観客と演者が垣根なく交わる濃密なセッション。森山自身も「アメリカ民族音楽研究会のライブみたい」と笑いながら語ったように、ピュアな音楽愛に満たされたライブだった。
ここ数年、森山が向き合い続けてきたのは、アメリカン・ルーツミュージックのひとつ、ブルーグラス。その手触りをたっぷりと感じさせるこの日の編成は、マンドリン、バンジョー、フィドル、チェロ、ウッドベース、ピアノ、パーカッション、そして森山のアコースティックギター。森山は「ちょっとしたパーティーの余興のような気分」で臨んだと語り、「まるでリハーサルのようにリラックスできた」と、満ち足りた表情を浮かべた。
オープニングは、急きょ加えられた名曲「さくら」。演奏時間を調整し、「原点である弾き語りも入れたい」と森山が自ら提案したという。森山は優しいギターのアルペジオを静かに奏で始め、放たれた一声が空気を変える。柔らかくも力強い声の響きが空間を満たし、美しいヴィブラートが立体的に広がっていく。
「生きとし生ける物へ」では、マンドリンの音色をきっかけにバンドが合流。音の層が重なり、楽曲が豊かにふくらんでいく。森山も思わず笑みをこぼし、MCでは「夏休みなのに、こんなにたくさんの人がいるとは思わなかった」「オフィスで歌うのは興奮しますね」と語った。
「あの世でね」では、「ヒーハー!」と叫んだり、アドリブ的な歌唱も混ぜながら自由に音と戯れる。手拍子が自然に沸き起こり、メンバー同士のアイコンタクトと笑顔が空間を温めた。
「夏の終わり」では、虫の声を思わせる情景的な音も忍ばせながら、アンサンブルとボーカルが溶け合っていく。フィドルのソロが響くなか、森山が「気持ちいい」とそっと声をかける一幕もあり、音楽そのものが呼吸するような瞬間があった。
「次が…最後から2曲目の曲です!」と笑いを交えて始まった「あの海に架かる虹を君は見たか」は、このブルーグラス編成で作られた楽曲。観客の手拍子がリズムを導き、途中からは思いきりテンポを上げた高速バージョンへ。あまりの速さに苦しげな笑顔を浮かべるメンバーたち――音で遊ぶ楽しさが、そのままに伝わってきた。
ラストの「バイバイ」もまた、この編成で作られた曲。
ブルーグラスというフォーマットが持つダイナミズムと、仲間と音を交わす楽しさ。それらが美しい楽曲と重なり合い、繊細さと力強さが同時に放出される。そんな音楽の歓びが満ちる時間だった。
演奏後、「こういう“部室感”がすごく好きなんです」と語った森山。リハーサルのように自然体で、演奏の合間には笑い合い、目を合わせ、息を合わせる。観客との境がほどけていくその空間には、“音楽部”という言葉が、これ以上ないほどよく似合っていた。
■出演
ボーカル&アコースティックギター:森山直太朗
ピアノ&コーラス:櫻井大介
マンドリン&コーラス:齊藤ジョニー
フィドル&コーラス:山田拓斗
ドラム&パーカッション&コーラス:朝倉真司
チェロ&コーラス:林はるか
バンジョー&コーラス:西海孝
ウッドベース&コーラス:マーティ・ホロベック
■放送予定
<NHK総合>
9月1日(月) 前0:10~前0:39(※日曜深夜)
※NHKプラスでの同時・1週間の見逃し配信
<NHK ワールド JAPAN>
8月31日(日) 前11:10~11:39 後19:10~後19:39
9月 1日(月) 前0:10~前0:39(※日曜深夜) 前6:10~前6:39