BiSH解散から2年、ソロプロジェクト・CENTとして5枚のデジタルシングルをリリースしてきたセントチヒロ・チッチが、ソロ活動3周年を迎える8月20日、1stミニアルバム『らぶあるばむ』でメジャーデビューした。加藤千尋名義で俳優としても話題作に出演し、表現者として深みを増しているチッチに、これまでと今、そして今後の展望を聞いた。


■メジャーデビュー第一歩は大事にしてきた“ラブ”を表現

 「楽器を持たないパンクバンド」「アイドル界の異端児」として、音楽界にセンセーションを巻き起こしたBiSH。その解散から2年、CENTとしてソロ活動を続けてきたセントチヒロ・チッチのメジャーデビュー作となる1stミニアルバム『らぶあるばむ』は、これまでアーティストとして蓄積してきたCENTの思いとこだわりが存分に詰め込まれている。

 「メジャーデビューとなるミニアルバムを作るにあたり、今まで私が大事にしてきたことを思い返した時、まず、頭に浮かんだのが“ラブの形”でした。BiSH時代からずっと音楽活動の中で愛情表現をすごく大事にしてきたので、初めの一歩はラブをちゃんと表現したいなと思いました」

 その思いはソロ活動を始めてから配信リリースした作品にも表れている。本アルバムに収められている3rdシングル「堂々らぶそんぐ」は「“恋するみんなを応援する気持ち”を堂々と愛をいっぱい届けたい」というCENTの思いを詰め込んだ楽曲。同じく本アルバム収録の5thシングル「Linda feat.詩羽」は、親友の詩羽を客演に迎え、ありのままで過ごせる友人や自然な関係性でいられる相手への愛を表現している。

 それら既発曲3曲に加え、本アルバムには5曲の新曲を収録。なかでも榊こつぶ氏の人気漫画が原作のフジテレビ系連続ドラマ『北くんがかわいすぎて手に余るので、3人でシェアすることにしました。』の主題歌に起用されている「ラブシンドローム」は、物語が描く「3人でひとりの青年の愛を三等分ずつシェアしながら同棲生活を送る」という“愛のカタチ”が「自分にはないものだったこと」に加え、今まで自分のことを歌詞にしてきたCENTにとって「人の人生を読み取る初の書き下ろし」だったことから、「すごく難しいって思いながらも、初めての経験として楽しんで挑戦させていただいた」と目を輝かす。

 「私は全部の愛の形が正解なんだよっていつも言いたいと思っているので、今回もそれを伝えられるよう、脚本や原作を丁寧に読み込んで、登場人物たちの心情や価値観をかみくだきながら、表現には慎重にこだわりました。私はドラマが大好きで、主題歌ってドラマにとってすごく大事な要素だと思ってきたので、それを担わせていただけることは本当に嬉しかったです」

 本作ではもうひとつ、CENTにとっての初挑戦がある。それが「作曲を1から最後まで初めて手がけた」という「Girlfriend」。
背中を押し合ったり、お尻をたたき合ったり、励まし合える女友達の素晴らしさを歌った女性たちへの応援ソングで、「この楽曲から私の成長を感じてもらえたら嬉しいです」と微笑む。

■BiSH時代とソロになってからの戸惑いの経験が今の自分の音楽に活きている

 愛を歌うことにこだわるようになったのは、「人間味を作らせてもらい、人としてレベルアップできた場所」というBiSH時代の経験によるもの。

 「1回人を嫌いになって、でも半年続けたら好きになって楽しくなって、みたいな経験をした時代でもありました。苦しかった気持ちから解放された瞬間に、こんな自分を好きになってくれる人たちがいて、その人たちからたくさんの勇気をもらっていることに気づくとともに、自分のことを好きでいたいって思うようになりました。そこから私はすごく強くなれたから、それ以降、愛してくれる人のためにやりたいことや言いたいことを一生懸命伝えていきたいと考えるようになりました。それが今の私の音楽にけっこう活きていると思います」

 そんなCENTが生み出す音楽の特徴は、ポジティブな感情を呼び起こさせてくれること。その点を聞いてみると、「性格が意外とポジティブなのかもしれない」と微笑みつつ、「でも、私が影響を受けてきた音楽って、実はポジティブではないんです」と話す。

 「私が大好きな人たちって、銀杏BOYZとかandymoriとか、自分の世界がしっかりあって、孤独とかネガティブな部分に寄り添っている人たちが多いんです。私はまだそこまでネガティブに寄り添うことができないけれど、ポジティブに引っ張ってあげることはできるから、そこを一生懸命やっている感じです」

 そのポジティブな思考はソロになってより磨かれたようだ。

 「BiSHではキャプテンみたいな立ち位置で、グループやメンバーのことを考えることが好きでしたが、ソロになって、自分のことを考えることって一番苦手だということに気づいたんです。ソロは自分と向き合わなければならないけれど、それが難しくて、どうしても逃げそうになるけれど、逃げちゃダメだって思いながら日々生きてきて。でも、そのうちだんだんそれが楽しくなってきて、さらに私のソロプロジェクトに関わってくれる人が増えて、チームが大きくなるにしたがって、どんどんポジティブになれた気がします」

■夢は武道館、そして応援してくれている海外のファンにも会いに行きたい

 その思いを源に「最近は人を愛するために自分を好きならなきゃとも思いながら生きている」という。
そんなCENTがソロになって感じるアーティストとしての醍醐味は「やっぱりライブ」とキッパリ。

 「自分でもライブのときはすごくイキイキしていると思うし、みんなからも『誰よりも楽しそうだね』って思われたいし、自分も思いたい。やっぱりライブが好きで、ライブこそ自分が生きる場所なんだなって思います」

 一方で、BiSH解散後は、加藤千尋として、日本テレビ『放課後カルテ』『肝臓を奪われた妻』、Huluオリジナルストーリー『クラスメイトの女子、やっぱり全員好きでした』などのドラマで俳優としてのキャリアも重ねてきた。

 「音楽は私のありのままを全部出す場所、一方、芝居は誰かの人生に自分を重ねて表現する場所。感覚がまったく違って、どちらにも難しさがありつつ、双方の活動がそれぞれに活きて、自分の中ですごくいい天秤になっている気がします。どちらも頑張って、表現を諦めずにやっていきたいです」

 では、今後、アーティストとしてどんな存在を目指しているのだろう。

 「正解は見つかっていないし、それを見つけるために表現し続けたいと思いつつ、今、すごく素直でいることが心地いいので、それは大事にしたいと思っています。あと、ちゃんと愛の交換ができる存在で居続けたいということにもこだわりたい。どんな人にもギブできる人間でありたいし、何事も決めつけないでやりたいし、変わることも大事だけど変わらないことも大事にしたい。そんな存在でいたいです」

 今年5月15日にはZepp DiverCity(東京)でワンマンライブを開催した。

 「すごく緊張したし、始まる前まで観客がいなかったらどうしようって正直不安でしたが、たくさんの人が来てくれて、本当に楽しい時間でした。2023年のファーストのワンマンライブよりも曲や仲間も増えて、CENTというものを自信をもって表現できるようになった気がします」

 秋には本アルバムを携えてのツアーも開催。
そんなCENTが夢見るステージは日本武道館だ。

 「好きなアーティストのステージを武道館でいっぱい見てきた想い出もあるし、やっぱり武道館は憧れの場所。BiSH時代にはできなかったので、CENTとして武道館のステージに立つのは大きな夢です」

 さらにその目は海外へも向いている。

 「けっこうアジア圏から会いに来てくれる人がいるので、自分が出向いて会いに行きたいっていう気持ちが今、とても大きくなっています」

 「ラブいっぱいで、目一杯あたしらしく生きていきたい」と語るCENTのソロとしての成長と現在地をぜひ『らぶあるばむ』で確認してみてほしい。

取材・文:河上いつ子

<作品情報>
CENT『らぶあるばむ』
発売:2025年8月20日
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