世界マスターズ選手権のアーティスティックスイミング(AS)が7月30日~8月3日までシンガポールで行われ、小谷実可子(59)が混合デュエットテクニカルルーティン、混合チームテクニカルルーティン、ソロフリールーティン、混合デュエットフリールーティンに出場。すべての種目で金メダルを獲得した。
挑戦の軌跡を記す連載『生涯現役!59歳 アーティスティックスイミング小谷実可子の挑戦』の11回目となる今回は「4つの金メダル獲得から1ヶ月。改めて大会を振り返る」。『緊張の糸が切れてしまった瞬間』、『応援してくれた人たちの反応』、『誕生日に開催されたスイムショー』などついて語ってもらった。
――シンガポール大会で4つの金メダル獲得から約1ヶ月が経過しました。改めて今回は、どのような大会でしたか?
小谷:今大会を振り返ってみて、一番ふさわしい言葉は“きつかった”です。
何で厳しい戦いになったかというと、それは『チーム種目』でした。やはり、非常に若くてレベルの高い人たち(渡辺千晶さん、藤丸真世さん、箱山愛香さん、木村叶さん、安部篤史さん)と組んで挑戦をしたので、しっかりと練習をして本番に挑まなければいけないと考えていましたし、メンバーの人たちの想いと覚悟を感じていたので、責任感を持ってやり切りました。
初日にミックスデュエットのテクニカルルーティンを終え、2日目がチームでした。演技としては、丁度半分が終わったところでしたが、もうそこで全てを出し尽くし、大号泣してしまいました。無事にこのメンバーとこの演目を立派に泳ぎ切れたことで、緊張の糸が切れてしまったような感覚でした。
だから次のソロでは“もう泳ぎ切ればいいや”みたいな気持ちになってしまい…方向を間違えたり、水着の中に帽子を入れて泳いでしまったりするなどのミスをしてしまいました。金メダルは獲得できましたが、2位の選手とは1.6250差と僅差。
そして最終日、最後の演技となったミックスデュエットのフリールーティン。その間に、パートナーの安部篤史さんが少し体調を崩してしまいながらも自身のソロでも素晴らしい演技をしていました。
私はソロで点数をすごく落としてしまったので、高い点数を記録していた安部さんの足を引っ張らないか? ミックスデュエットとして良い演技を見せることができるのか? という今まで思ったことがないようなプレッシャーを感じてしまいました。
最終日の前の晩は眠れず、全身がつってしまい、耳鳴り、過呼吸と一睡もできませんでした。“こんな状態で、あのきついフリールーティンを泳げるのだろうか?”と自問自答し続けてしまいました。そんな状態の中で夜が明けて、朝の4時ごろに安部さんからメールが来たんです。
“もう自分は起きていつでも動ける状態なので、ヘアメイクの手伝いが必要であれば言ってください”
そのメッセージを見たときに、すごく救われました。1人ではない、2人で戦えるんだと思って気持ちが落ち着き、前向きになりました。そして本番の混合デュエットフリールーティンでは、81・4750点という予想以上の点数をいただきました。
私たちはアスリートとして、よりレベルの高いものに挑戦するために練習をしてきました。それに対してジャッジが高い点数というもので評価してくれたということにすごく感動しましたし、終わった後に競技役員の人たちが花道を作ってくれて私たちを迎えてくれて“感動しました!次の大会も楽しみです!”と声をかけてくれました。
九州大会では『マスターズを知る』、ドーハ大会では『男女平等のスポーツだと発信する』というのがテーマとなり出場してきましたが、今大会は『アスリートとして戦い抜く』ことがテーマでした。だからこそ一番きつかったんですよね。
こうやって振り返ってみると結構ドラマがあって、苦しみがあってという大会でした。でもそのおかげで、技術面でもとても成長することができましたし、ポジティブなところもたくさんありましたね。
――帰国後にはスポンサーなどに金メダル獲得の報告などしてきました。その反応を教えてください。
小谷:スポンサー(スタイリングライフ・ホールディングスBCLカンパニー、日清オイリオグループ、ローソンエンタテイメント、SEIKO、東急コミュニティー)を含めて、いろいろな形で応援してくれた方たちに、金メダル獲得の報告をしていますが、やはりメダルの価値ってすごいなと感じています。
私の中ではやはり“マスターズ大会のメダル”という気持ちがあるのですが、金メダルを見せると全員が笑顔になり、喜んでくれました。皆さんにメダルに触ってもらったり、首に掛けてもらったりする瞬間がとても好きで、自分がメダルをかけてもらう時と同じぐらいうれしいんです。
苦労を乗り越えて獲得したメダルだったというのを理解してもらい、そこに価値を見出してくれた方がたくさんいました。だからこそ、自分の中でのエリート(現役)とマスターズの差がなくなったという気持ちになりました。前回、前々回の金メダルとも意味合いが違う、特別な金メダル獲得となりました。
練習量とかはもちろん全然違いますが、ソウルオリンピック時の1分1秒を競技に懸けていた時と、今の仕事や家庭を両立しながら練習をして、1分1秒を無駄にせず大会に挑む気持ちが変わらないなと感じたんですよね。だからこそ、今のマインドはエリートの時と同じで、メダルを獲得するということは本当に全てを懸けなければいけないと思いました。
――8月30日には、安部篤史さんとミックスデュエットのエキシビションショーをよみうりランドで披露しました。その時の感想を教えてください。
小谷:とにかくアーティスティックスイミング(AS)の認知度を上げたいと考えています。よみうりランドでのショーでは、ASに興味がある人が集まる場ではなくて、家族や友達の方などとプールを楽しむために来られている人がほとんどです。
だからこそ、その方たちの前で演技を披露できるという機会はとてもうれしく、そのショーを見て拍手を送ってくださり、笑顔で喜んでくれている大勢の人の顔を見ることができて、意義深くて力強い発信ができたのではないかなと思いますね。
多くの人が笑顔でショーを見てくれたことは、私の最高の誕生日(8月30日)にもなりました。年末にはASの魅力を発信していくショーの開催を計画していきますので、ぜひ楽しみに待っていてください!
■小谷実可子(こたに・みかこ)
1966年8月30日生まれ、東京都出身。ソウルオリンピックでは夏季オリンピック初の女性旗手を務め、ソロ・デュエットで銅メダルを獲得。1992年に現役引退。東京2020招致アンバサダーを務めるなど国際的に活動。
挑戦の軌跡を記す連載『生涯現役!59歳 アーティスティックスイミング小谷実可子の挑戦』の11回目となる今回は「4つの金メダル獲得から1ヶ月。改めて大会を振り返る」。『緊張の糸が切れてしまった瞬間』、『応援してくれた人たちの反応』、『誕生日に開催されたスイムショー』などついて語ってもらった。
――シンガポール大会で4つの金メダル獲得から約1ヶ月が経過しました。改めて今回は、どのような大会でしたか?
小谷:今大会を振り返ってみて、一番ふさわしい言葉は“きつかった”です。
何で厳しい戦いになったかというと、それは『チーム種目』でした。やはり、非常に若くてレベルの高い人たち(渡辺千晶さん、藤丸真世さん、箱山愛香さん、木村叶さん、安部篤史さん)と組んで挑戦をしたので、しっかりと練習をして本番に挑まなければいけないと考えていましたし、メンバーの人たちの想いと覚悟を感じていたので、責任感を持ってやり切りました。
初日にミックスデュエットのテクニカルルーティンを終え、2日目がチームでした。演技としては、丁度半分が終わったところでしたが、もうそこで全てを出し尽くし、大号泣してしまいました。無事にこのメンバーとこの演目を立派に泳ぎ切れたことで、緊張の糸が切れてしまったような感覚でした。
だから次のソロでは“もう泳ぎ切ればいいや”みたいな気持ちになってしまい…方向を間違えたり、水着の中に帽子を入れて泳いでしまったりするなどのミスをしてしまいました。金メダルは獲得できましたが、2位の選手とは1.6250差と僅差。
それに驚き、スポーツの怖さを改めて感じました。
そして最終日、最後の演技となったミックスデュエットのフリールーティン。その間に、パートナーの安部篤史さんが少し体調を崩してしまいながらも自身のソロでも素晴らしい演技をしていました。
私はソロで点数をすごく落としてしまったので、高い点数を記録していた安部さんの足を引っ張らないか? ミックスデュエットとして良い演技を見せることができるのか? という今まで思ったことがないようなプレッシャーを感じてしまいました。
最終日の前の晩は眠れず、全身がつってしまい、耳鳴り、過呼吸と一睡もできませんでした。“こんな状態で、あのきついフリールーティンを泳げるのだろうか?”と自問自答し続けてしまいました。そんな状態の中で夜が明けて、朝の4時ごろに安部さんからメールが来たんです。
“もう自分は起きていつでも動ける状態なので、ヘアメイクの手伝いが必要であれば言ってください”
そのメッセージを見たときに、すごく救われました。1人ではない、2人で戦えるんだと思って気持ちが落ち着き、前向きになりました。そして本番の混合デュエットフリールーティンでは、81・4750点という予想以上の点数をいただきました。
私たちはアスリートとして、よりレベルの高いものに挑戦するために練習をしてきました。それに対してジャッジが高い点数というもので評価してくれたということにすごく感動しましたし、終わった後に競技役員の人たちが花道を作ってくれて私たちを迎えてくれて“感動しました!次の大会も楽しみです!”と声をかけてくれました。
九州大会では『マスターズを知る』、ドーハ大会では『男女平等のスポーツだと発信する』というのがテーマとなり出場してきましたが、今大会は『アスリートとして戦い抜く』ことがテーマでした。だからこそ一番きつかったんですよね。
こうやって振り返ってみると結構ドラマがあって、苦しみがあってという大会でした。でもそのおかげで、技術面でもとても成長することができましたし、ポジティブなところもたくさんありましたね。
――帰国後にはスポンサーなどに金メダル獲得の報告などしてきました。その反応を教えてください。
小谷:スポンサー(スタイリングライフ・ホールディングスBCLカンパニー、日清オイリオグループ、ローソンエンタテイメント、SEIKO、東急コミュニティー)を含めて、いろいろな形で応援してくれた方たちに、金メダル獲得の報告をしていますが、やはりメダルの価値ってすごいなと感じています。
私の中ではやはり“マスターズ大会のメダル”という気持ちがあるのですが、金メダルを見せると全員が笑顔になり、喜んでくれました。皆さんにメダルに触ってもらったり、首に掛けてもらったりする瞬間がとても好きで、自分がメダルをかけてもらう時と同じぐらいうれしいんです。
苦労を乗り越えて獲得したメダルだったというのを理解してもらい、そこに価値を見出してくれた方がたくさんいました。だからこそ、自分の中でのエリート(現役)とマスターズの差がなくなったという気持ちになりました。前回、前々回の金メダルとも意味合いが違う、特別な金メダル獲得となりました。
練習量とかはもちろん全然違いますが、ソウルオリンピック時の1分1秒を競技に懸けていた時と、今の仕事や家庭を両立しながら練習をして、1分1秒を無駄にせず大会に挑む気持ちが変わらないなと感じたんですよね。だからこそ、今のマインドはエリートの時と同じで、メダルを獲得するということは本当に全てを懸けなければいけないと思いました。
――8月30日には、安部篤史さんとミックスデュエットのエキシビションショーをよみうりランドで披露しました。その時の感想を教えてください。
小谷:とにかくアーティスティックスイミング(AS)の認知度を上げたいと考えています。よみうりランドでのショーでは、ASに興味がある人が集まる場ではなくて、家族や友達の方などとプールを楽しむために来られている人がほとんどです。
だからこそ、その方たちの前で演技を披露できるという機会はとてもうれしく、そのショーを見て拍手を送ってくださり、笑顔で喜んでくれている大勢の人の顔を見ることができて、意義深くて力強い発信ができたのではないかなと思いますね。
多くの人が笑顔でショーを見てくれたことは、私の最高の誕生日(8月30日)にもなりました。年末にはASの魅力を発信していくショーの開催を計画していきますので、ぜひ楽しみに待っていてください!
■小谷実可子(こたに・みかこ)
1966年8月30日生まれ、東京都出身。ソウルオリンピックでは夏季オリンピック初の女性旗手を務め、ソロ・デュエットで銅メダルを獲得。1992年に現役引退。東京2020招致アンバサダーを務めるなど国際的に活動。
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、スポーツディレクターに就任するなど幅広く活躍。日本オリンピック委員会 常務理事(JOC)、世界オリンピアンズ協会 副会長(WOA)、日本オリンピアンズ協会 会長(OAJ)など、15の役職をこなしながら、2025年7月に開催された世界マスターズ水泳選手権(シンガポール大会)で、4つの金メダルを獲得した。
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