SNSに写真をアップする際、若者の間で当たり前となっている補正や加工。中でも最近、流行しているのが「映画のワンシーンのような字幕」を添える「Vlog風字幕加工」。
K-POPアイドルグループ LE SSERAFIMの宮脇咲良や乃木坂のメンバーなど著名人も活用し、拡大の一途をたどっている。SNS時代となり、表現スタイルの進化が加速する中、このトレンドはなぜ人気を得たのか。これらのサービスを提供し、流行を支えている画像加工アプリ「EPIK」を手掛けるSNOWに話を聞いた。

■シンプルに日常を彩る“濃い“自己物語を表現 「ナレーションとしての役割」

 今、流行中の「Vlog風字幕加工」とは、画像加工アプリ「EPIK」内にある機能のことで、InstagramのストーリーズやTikTokのサイズに合わせ、9対16の縦長のスペースを3分割して、横長の写真を3枚載せ、その1枚1枚に映画の字幕のようなフォントのテキストを入れて加工することができる。

 「EPIK」を展開しているのは、2010年代に加工アプリとして一世を風靡した韓国発「SNOW」を生んだ企業。今回のトレンドは2025年4月ごろ(正確には4月末)から、韓国と日本で同時多発的に流行し始め、K-POPアイドルグループ LE SSERAFIMの宮脇咲良やILLITのWONHEEなどのメンバーがInstagramで加工を施した写真を投稿し、国内でも若年層を中心に拡大。アイドルやインフルエンサーら著名人が次々と自己表現の新たな手段として活用していった。

 話題となっている投稿に共通しているのは、色味や質感など、まるでプロが手掛けたコンテンツのように映える写真に、シンプルな書体でひと言コメントを添え、洗練された空気感を作り上げていること。YouTubeなどの動画でも字幕をつけた投稿はあるが、音無しで視聴する層に向けての字幕化で、文字の強調や誇張も多いのに対して、「Vlog風字幕加工」の場合は、“要素を足していく”よりも“可能な限りそぎ落としている”ことに重きが置かれている。「それこそが今のZ世代のツボにハマっている」と、SNOW Japan株式会社総括 崔 智安(チェ ジアン)さんは言う。

 「少し前は「SNOW」に代表されるように、目を大きくして顔を小さくして“盛る”と言われるような派手な加工が流行しましたが、今はできるだけナチュラルに、キレイに見える写真で自己表現をしたいというように意識が変化しています。さらにそこにVlog風の字幕でひと言添えることによって、皆さん自己表現を強調している気がします」(崔 智安さん/以下同)

 字幕にあてるひと言には、その写真に写った風景や物などの情報に対するコメントや、自分の今の状況説明、自分の考えや心の声など、多彩な自己表現が揃う。
「映像作品では、物語を分かりやすく伝えるためにナレーションを使いますが、それと同じ感覚で、皆さん、自分の日常のひとコマを、字幕を付けることによって、より個性的に表現している気がします」。

■“盛る”概念はつねに変化している 現代は「ナチュラルでも無加工には抵抗がある」

 「Vlog風字幕加工」の流行を生み出したAI写真・動画編集アプリの「EPIK」は、フィルターや切り抜き機能、明るさ調整などの基本的な加工機能はもちろん、肌の補正や体型加工まで行える豊富な加工・修正機能を搭載していることが特徴。

 「昔は写真を加工するという技術は、高額な編集ソフトが必要で、さらにそれを使いこなせるプロの手が必要でした。しかし、スマホで毎日のように写真を撮り、SNSに上げる人が増えている中、たくさん写真を撮っても全てをSNSに載せられるわけではない。その中で自分で簡単に自分らしい編集ができ、とっておきの1枚が作れるサービスを提供したいと考え、EPIKの開発にいたりました」

 加工の仕上がりにおいては、先にも述べたとおり、現在は「ナチュラル」がトレンドになっているのだが、しかし、「ナチュラルとはいえ、無加工をそのまま出すのには抵抗がある」と崔さん。

 「加工し過ぎるのは嫌だけど、そのままも嫌という “盛る”と“リアル”の絶妙な塩梅が求められていると感じています。技術の進化によって、その絶妙な加減が表現できるようになりましたので、EPIKでは、例えば、顔のパーツを細かく認識してミリ単位で調整できるなど、自分に一番合った加工に細かく調整できる機能を備えています」

 その裏にあるのがAIの進化だ。2年前、SNOWは自分の顔写真を10~20枚読み込ませると、AIが“新しい自分”を生成してくれるという「AIアバター機能」をカメラアプリの「SNOW」に搭載。世界的大ヒットとなったが、最近は、その機能を用い、自分の写真の下にAIが作った自分のキャラクターを付け、リアルな自分とAIによるデジタルな自分とのコラボを演出要素として取り入れるなど、「遊びも進化している」という。

 さらに今後、「AIの進化によって自分らしさのパターンはますます増えていく」とのこと。その一例として、現在、加工は自分の手でコントロールすることが必要だが、今後は「要望を告げるだけでAIがやってくれる時代がもうそこまで来ている」と話す。

 「顔の形もバランスも、肌のトーンも、年齢も、いろいろ違う中で、その人に合ったカワイイやその人の求める美意識をAIが認識し、細かく表現させられるよう、今、研究開発を進めています。
そうやってどんどん一人ひとりに合った最適な加工ができるアプリへと機能をアップデートさせていく方針です」

■国境をまたぐトレンド 各国の“らしさ“を器用に取り入れるユーザー

 このアプリの主なターゲットは「SNSを利用している世界中の若者たち」。加工機能やトレンドは消費されるまでの期間が早いことから、「ユーザーのニーズをいかに早く取り込むかを念頭に、毎週、世界各国のトレンドを分析し、企画開発に注力している」という。

 その背景には、カメラアプリ「SNOW」の販売から10年の経験を通して、「ソーシャルメディアにおいては、もはや国境は存在しない」という考えがある。

 「例えば韓国の有名人のフォロワー数は日本の有名人のフォロワー数とゼロがひとつ違います。総人口は韓国のほうが日本より少ないので、グローバルで支持されているということです。今の若い世代はグローバルに対する感度が高くなっていますからね。ビューティーに関しては韓国は進んでいますし、音楽や映画やドラマなどKカルチャーも世界的にヒットしている今、昔のように韓国が好きな人だけから支持されるのではなく、世界で流行しているものが結果的に韓国のものだったというケースも増えているのだと思います」

 そんな中、「EPIK」においては、日本チームが生み出した日本発のヒット企画もあるのだという。

 「直近では、AIで前髪を変える機能を作ったところ、前髪需要が少ない海外でも一定の利用が見られるようになりました。日本のファッションや文化では“前髪”はすごく重要な要素ですが、韓国もアメリカも、大半の国は前髪にはこだわりを持っていないために、逆に新鮮だったようです。絵文字も日本で生まれて世界に通用した文化ですが、例えば、日本らしい感覚を持ったレトロなものやノスタルジックなものなど、画像加工アプリにおいてはまだまだ今後も日本から生まれていくものはあると思っています」

 かつて“ガラパゴス”と揶揄された日本の技術やサービスだが、裏を返せば日本には欧米などとは違った独自の文化があるということ。ドメスティックにとどまっていた日本のユニークな価値観を、技術革新により新しいビジネスモデルやサービスとして発信することができれば、まだまだ面白いトレンド展開が期待できそうだ。
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