原作の吉村昭「羆嵐」は1915年に北海道で発生した、日本史上最悪の獣害事件「三毛別羆事件」に基づいた物語。今回は、プロデュースをする堀井が兼ねてより熱望していたサウンドデザイナーの笠松広司が音響効果を担当。これまで映画『THE FIRST SLAM DUNK』やジブリ映画で音の世界を表現してきた笠松が、雪山の静寂、羆の唸り声、クマ撃ちとの闘いなど、数々の音で重層的な空間を作りあげ、観客を深い舞台の世界へと没入させた(演出・構成、深作健太)。
その笠松の音に川田のピアノの弦を使い感情を表現していく演奏、そして永島と堀井の朗読が有機的に絡み合い、まるでジャズセッションのように躍動していく朗読劇に。また、読み手である永島と堀井は、見事な表現力で観客の感情を揺さぶった。永島は、荒くれ者だが悲哀に満ちた孤高の猟師の主人公そのもののような存在感を見せつけ、重低音の声で劇場を支配した。
観客はシーンごとに変わる立体的な照明表現にも魅了され、突然の照明演出に息を呑む場面もあった。深作の演出により、音、読み手、照明が見事に一体化した朗読劇「羆嵐」。チケットはすぐに完売し見られなかった人も多く、再演の機会も望まれている。堀井がこの「羆嵐」の朗読の準備に取り掛かったのはおよそ3年前。15年ほど前、高倉健主演ラジオドラマ「羆嵐」を手に入れて聴いたのがきっかけで、いつか朗読劇として実現したいと思っており、昨今の熊のニュースを連日聞くような事態は想像していなかったという。
朗読劇の終わりにはアフタートークを開催。
13日には堀井が上演し続け、今回で7回目を迎えるという三浦綾子「母」の一人語り公演があった。2時間弱を暗記し、堀井が一人、舞台で語り続けるこのyomibasho主催東京公演「母」は、いつもチケットが即完するほどの人気。会を重ねるごとに深みを増していく堀井の深淵の語りに会場からはすすり泣きが終始絶えなかった。

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