「AI(人工知能)」と「人間」の関係性は、これまで多くの映画人を魅了し、数々の名作を生み出してきた。サイレント映画の時代から、科学者にも影響を与えた不朽の名作、エンターテインメント性あふれるアクション大作まで、AIと人間の物語は映画史に刻まれている。


 そして2025年、AIはもはやSFの世界の存在ではなくなった。自律的に考え、判断し、行動するAIの概念は社会に広く浸透し、ビジネスや娯楽、さらには軍事分野に至るまで、世界規模で活用が進んだ一年となった。

 生成AIの進化も著しく、単なる会話や情報生成にとどまらず、タスクの実行や意思決定支援といった高度な知的行動へと拡張されている。怒とうの進化を続けるAIによって、SF映画で描かれてきた世界は、現実と地続きになった。そんないまだからこそ観ておきたい、「AIと人間」を描いた最新作『MERCY/マーシー AI裁判』と名作3本を紹介する。

■『A.I.』(2001年)

 巨匠スタンリー・キューブリックの遺志を継ぎ、スティーブン・スピルバーグが監督を務めたSF超大作『A.I.』。物語の舞台は、温暖化により荒廃した地球。人間の数が厳しく制限され、ロボットが多くを担うようになっていた世界で、”愛”をインプットされた子ども型ロボット「デイビッド」が誕生した。

 ある夫婦の養子として試験的に迎え入れられると、プログラムされたとおりに母を深く愛し、母も徐々にデイビッドへ愛情を抱くようになる。しかし、実の子が不治の病による眠りから奇跡的に目覚めたことによって状況が変わり始め、やがて居場所を失うデイビッド。それでもデイビッドは母に愛されることを求めて、本物の人間になるために数千年にわたる壮大な旅に出る。

 本作品は、”愛”の普遍性とその儚さを、感情を抱くAIの視点から描き、世界中を感動と行き場のない感情で包み込んだ。
人間が創造したAIが、人間以上に純粋な感情を持つという皮肉めいた物語と、デイビッドの飽くなき”愛されたい”という願いは、観客に「AIは感情を持つのか?」「AIの感情は本物か?」という深い問いを突きつけ、今なおその答えは見つかっていない。

■『her/世界でひとつの彼女』(2014年)

 ホアキン・フェニックスとスカーレット・ヨハンソンというハリウッドを代表する俳優を迎え、1人の男性のごくパーソナルな日常に訪れたAIとの恋愛を、『マルコヴィッチの穴』(00年)、『かいじゅうたちのいるところ』(10年)を手掛けた鬼才スパイク・ジョーンズ監督が描く。

 近未来のロサンゼルスで主人公のセオドア(ホアキン・フェニックス)は、ラブレター代筆の仕事に就き、妻とは離婚調停中で孤独を抱えていた。そんなある日、入手した最新AI型OSを起動させると、「サマンサ」(スカーレット・ヨハンソン)と名乗る明るく魅力的な声が話しかけてくる。ユーモアと純真さ、そして誰よりも人間らしいサマンサと会話を重ね、日々を一緒に過ごすうちに、やがて恋愛感情を抱くようになる。

 現代人がデジタルな繋がりの中で感じる孤独と、技術進化の先に待つ新しい愛の形を、詩的で繊細な映像とストーリーテリングで描ききった本作は第86回アカデミー賞で脚本賞を受賞。目に見えず、声だけの存在であるサマンサとの恋愛は、現代のデジタルコミュニケーションの進化形とも捉えられ、「AIと人間」の新しい関係性を示した。

 本作は、レビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」主催のリバイバル上映プロジェクトにて1月9日より1週間限定で全国リバイバル上映が予定されている。

■『エクス・マキナ』(2016年)

 「人間か、人工知能か─」の究極の命題をテーマに掲げた『エクス・マキナ』は、『28日後…』(03年)、『わたしを離さないで』(11ねん)の脚本を手掛けたアレックス・ガーランドの初監督作品。

 物語は、世界有数の巨大IT企業の若手プログラマーであるケイレブ(ドーナル・グリーソン)が、社長のネイサン(オスカー・アイザック)の所有する人里離れた山荘に招待されるところから始まる。2人以外に存在しない環境でケイレブが命じられたのは、ネイサンが極秘に開発した、美しく人間そっくりだが顔以外は機械であることが見て取れるAIロボット「エヴァ」(アリシア・ヴィキャンデル)にチューリングテスト(※人工知能が人間らしく振舞えるかを検証する実験)を実施すること。

 ケイレブはエヴァとコミュニケーションを重ねていくうちに、彼女の人間を凌駕する知性と、感情と呼べるものを見出し、次第に魅了されていく。
「AIと人間」の心理戦のような緊張感あふれる展開を洗練された映像美で描き上げ、第88回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞。

■『MERCY/マーシー AI裁判』(2026年1月23日、日米同時公開)

 クリス・プラットが<妻殺しの容疑者>、レベッカ・ファーガソンが<AI裁判官>をそれぞれ演じ「AIと人間」の司法上での闘いを描く『MERCY/マーシー AI裁判』。監督は失踪した娘をデジタル上で追跡する父親の捜査劇を100%すべてPC画面の映像で展開し、革新的な映像表現が驚きをもって迎えられ、サンダンス映画祭で観客賞を受賞した映画『search/サーチ』(18年)の仕掛け人ティムール・ベクマンベトフ。プロデューサーとしてアカデミー賞作品賞受賞『オッペンハイマー』(24年)のチャールズ・ローヴェンが参加し、名実そろったキャスト&スタッフ陣が集結して、AIが司法を担うことになった近未来を描く。

 ある日、敏腕刑事のレイヴン(クリス・プラット)が目を覚ますと、妻殺しの容疑で<マーシー裁判所>に拘束されていた。えん罪を主張する彼だったが自らの無実を証明するには、AIが支配する世界中のデーターベースから証拠を集め、AI裁判官“マドックス”(レベッカ・ファーガソン)が算出する”有罪率”を規定値まで下げなくてはならない。無罪証明までの制限時間は90分。さもなくば即処刑──。

 近未来のデジタルUI(ユーザーインターフェース)を圧巻の迫力で描き、スリルと緊張感を高めながらリアルタイムで進行する「AIと人間」の闘いの先に衝撃の真実が待ち受ける。

 『A.I.』が投げかけた「感情を持つAI」という問いは、『MERCY/マーシー AI裁判』で描かれる<容疑者 vs AI裁判官>の構図の中で、新たな形へと受け継がれていく。

 『her/世界でひとつの彼女』が予見したAIとの親密な関係性は、チャットボットや音声アシスタントが普及した現代において、より現実味を帯びたものとなった。

 そして『エクス・マキナ』が描いたAIの進化の先に潜む人間の弱さやエゴは、もはやフィクションとは言い切れない。


 『MERCY/マーシー AI裁判』が鳴らす警鐘は、AIが日常の一部となった現代において決して他人事ではない。
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