本作は、ノーベル文学賞作家、バーナード・ショーが1893年に執筆した衝撃の道徳劇で、社会問題を鋭く描いた内容が当時大きな論争を呼び、イギリス本国では長らく上演禁止となっていたいわくつきの作品だ。初めて公に劇場上演されたのは1925年。130年以上前に書かれた作品とは思えないほど、現代の私たちが観ても心に刺さるメッセージがあり、楽しめる作品となっている。
物語の中心となるのは、ヴィクトリア朝時代を生きるシングルマザー、ウォレン夫人と、その娘ヴィヴィ。時代を先取りするような思考を持つ若き女性ヴィヴィ・ウォレン。しかし、彼女の母親ウォレン夫人は旧来の家父長制度の社会の中で生き抜くためにあるビジネスをしていた。ヴィヴィとウォレン夫人の思考、価値観には隔たりがあり、それが事件へと発展していく――。母が選ばざるを得なかった「職業」と、娘が自由に選ぶ未来。その対比を通して、女性の貧困、階級格差、道徳と生存の問題が浮き彫りにされる。
ウォレン夫人を演じるのは、名優イメルダ・スタウントン。ヴィヴィを演じるのは、イメルダの実の娘で俳優のベッシー・カーター。実の母娘、それも本作が初共演ということで、本国では大きな話題となった。舞台上でぶつかり合う緊迫感あふれる対話は、本作最大の見どころでもある。
イメルダは、映画『ヴェラ・ドレイク』の演技で英国アカデミー賞主演女優賞とベネチア国際映画祭女優賞を受賞し、演劇界ではストレイトプレイからミュージカルまでこなし、ローレンス・オリヴィエ賞5度受賞という輝かしい経歴を持つ。
一方、ベッシ―は、ギルドホール音楽演劇学校を卒業し、映画や舞台、テレビと幅広く活躍する中で2021年にドラマ『ブリジャートン家』では全米映画俳優組合賞アンサンブル賞ドラマシリーズ部門にノミネートされた。
今回、日本バーナード・ショー協会の前会長・森川寿氏と、現会長・大浦龍一氏がひと足先に本作を鑑賞し、コメントを寄せた。森川氏は「この作品はいまだに社会的にも人間的にも古くて新しい問題を提起する。ウォレン夫人と娘のヴィヴィは二人とも働くことが大好きだが、娘が好きな仕事に就くのに対して母が選べる職業は限られていた。社会格差を背景として、相反する生き方を選ばざるを得なかった母と娘の葛藤は観客に厳しい判断を迫る。実の母娘であるイメルダ・スタウントンとベッシー・カーターが演じる手に汗握る対決は、最大の見どころの一つ」と評価。
大浦氏は「ヴィクトリア朝のシングルマザー、ウォレン夫人。彼女の職業は?それは口に出すのがはばかられるもの。彼女の娘ヴィヴィは苦労知らずのクールな“新しい女”。母娘が対立するとどうしても母親に同情したくなる。しかし、彼女は単なる哀れな女性ではなく、今やその世界で成功し、搾取する側に回っている。いくら他よりはましでも、女性の貧困の前に他に選択肢がなかったという大前提が問題なのである。また、活力に満ちた母娘に比べて、彼女たちの周りで蠅のように飛び回る男たちがちっぽけに見える」と感想を述べている。
なお、昨年12月に公開された、ロザムンド・パイク主演、NTLive『インター・エイリア』も一部劇場で続映中。2月13日から『ハムレット』、3月20日から『フィフス・ステップ』の上映も控えている。
英国演劇の至宝ともいえる舞台を、大スクリーンで体感できるNTLive。時代を超えて突き刺さるテーマと、実力派俳優による圧巻の演技が、日本の観客にも強烈な余韻を残しそうだ。
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