私は伝統芸能というジャンルの中の、寄席育ちの寄席芸人。伝統芸能であるがゆえに、アナログな部分もたくさんある。
さらにすごいのは、寄席の出演料は茶封筒に入れた現金でいただくのだ。この出演料のもらい方は一般の皆さまからは驚きでしかないだろう。令和のキャッシュレス時代に、逆行する業界なのである。
というわけで、まだまだ私は結構な頻度で現金を持ち歩いている。そんな私が最近お気に入りで使っているのが、メリケンサックに似ているコインケース。形はイカつめだが、金額別にコインが収納できる賢いヤツなのだ。
これのおかげでお会計がとってもスムーズ。頭の悪い私だが、お釣りの計算だけはすごく早いし割と自信がある。端数を頭の中でパチパチと出せる。
例えば668円のお会計の時に千円を出してジャラジャラとお釣りが来るのが嫌な私は、1168円を出し500円を受け取る。この例えはさすがに簡単だとお思いだろうが、60円がなかった時など、1223円を出し555円のお釣りをもらうなど、この手の計算は瞬時にできるのだ。
このような少し複雑な出し方をするために、店員さんが首をかしげながら電卓を持ってくることもよくある。しかし、このピンポイント技能もキャッシュレスな世の中になり披露する機会がめっきり減ってしまった。私の唯一の理系アピール機会だというのに。
しかしこのコインケースがあれば私の得意技をスマートに披露できるのだ。店員さんからも「それ何ですか? 初めて見ました。便利ですね」なんて話しかけられることもしばしば。会話まで広がってしまうのだ。
しかしそんな姿を見て、同世代の友人は私のオジサン化もここまできたかと恐れおののいている。確かにビジュアルがあまりよくないのは自覚していたものの、私は大のお気に入りなので、使うのをやめないつもりだ。なんならもう少し枚数を入れられるものを開発してもらいたいくらい。
少しでも可愛(かわい)くするためにデコりまくって盛り盛りのラインストーンキラキラ仕様にして驚かせてやろうかな。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 17からの転載】
蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)/東京都出身。