いいものを外に出すことを担保するために、どんな関門があるのだろうか。それを知るために品質管理センターとパックハウス(選果場)を訪れた。
▽スピード重視
「シングルマーケットの良さは、クオリティーをキープし“プレミアム・キウイ”だけを海外に輸出できることだ」。タウランガで品質管理を担う「ヒル・ラボラトリーズ」のブランチマネジャー、ブラッド・スティーブンスさんが胸を張った。ゼスプリは、オーストラリアを除く全世界でニュージーランド産キウイを販売する独占権を持っており、同国で作られるキウイは、ゼスプリが設定する基準をクリアしないと商品として輸出されることはない。生産者にとっては、国内に7カ所あるこうしたラボでの品質チェックを通過して初めて経済的利益が保証されるシステムだ。
キウイの収穫期は約半年続く。その間ラボは無休だという。朝は日の出とともにスタッフが、指定されたキウイ農園にテスト用のキウイを集めに行く。数は、各農園内で出荷期が近い成熟度のキウイがなるエリア単位に100数十個。昼過ぎまでに集まってきたキウイは、重さ、硬さ、糖度など6項目にわたる検査を受ける。スティーブンスさんは「最適な収穫期を逃さないようスピード重視。検査結果は翌日午前にはゼスプリから生産者に伝えられる」と説明した。
ユニークなのは「ドライマター」という検査だ。果肉を3ミリの厚さで輪切りにし重さを計測。そのまま約8時間かけて乾燥させ再び重さを量る。この水分が完全に抜けきった果肉の重量こそが、キウイの味や甘さにつながる成分量ということになり、消費者が口にする時の甘さを知ることができるのだという。「われわれの検査に妥協はない」とスティーブンスさん。ちなみに、検査を通過できなかったキウイは家畜の飼料になるという。
▽徹底した管理
選果場は国内に8カ所。見学したタウランガ近郊テプーナにある「DMS」では、1時間に32トンのキウイがパッキングされる。キウイが大きなベルトコンベアの上をクルクル回転しながら通る際に、4方向からキウイを撮影。サイズや外観の色、形によってクラス分けし一つ一つにバーコード付きのシールが自動的に貼られる。サイトマネジャーのリック・リマーさんは「市場によって出荷するサイズを変えている。日本は大きいのが好みのようだね」とほほ笑んだ。
厳しく徹底した品質管理の体制に、「ドクター・キウイ」こと西山一朗先生(駒沢女子大人間健康学部学部長を3月に退官)も改めて感動。「ニュージーランドのキウイは、ほかに販路がない状態で、国を挙げてやっているからここまでできる。日本の果物の検査は硬さや糖度くらいというのがほとんどではないか。しかも、都道府県単位で縦割りになってしまっていて、一定の水準をキープするのが難しい」と指摘した。ちなみにキウイで難しいのは「食べごろの管理」だという。個人で食べる場合は、スーパーで買ってきたものを室温で保管し、触って軟らかさを感じるようになってから冷やして食べるのがいいのだという。
▽鉄人の生き方
キウイ栽培の中心地タウランガからオークランドに戻り、郊外にある料理研究家マイケル・ヴァン・デ・エルゼンさんの自宅兼農場を訪問した。マイケルさんは、テレビにもよく出る有名人で「ニュージーランド版・料理の鉄人」といったところだ。料理人歴37年で、オークランドのほかロンドンとアイルランドにもレストランを持っているという。料理に使う材料はすべて自分の農場で調達していると言い、ガラス張りのダイニングからは緑の芝の上でのんびりと草をはむ羊たちが見えた。
キウイ・レシピの1皿目は「炙(あぶ)りマグロのグリーンキウイとキュウリ和え」。「キウイの酸味は魚に合う」とマイケルさん。
すっかり満足してマイケルさんの話を聞く。「キウイでもラムでも魚でも、いいものは全部、海外にいく。それはこの国では仕方ないこと」。
(おわり)