7月20日投開票の参院選で与党は過半数割れとなり、政権運営の混迷は避けられない。政策が停滞・迷走する恐れが強まっている。
米価の高騰を背景に、どの党も「農家を守る」と訴えた。各党の公約は、具体策では異なるものの、国内の生産力の増強という方向性で一致した。足並みがそろいすぎて対決色が薄まり、選挙では争点としてあまり意識されなかったくらいだ。
国政選挙で、農業が注目され政策について理解が深まることは、極めて望ましい。ただ、選挙戦では米の値上がりが物価高の象徴に位置付けられ、生活苦全般が焦点となった。これを緩和するため、現金給付か消費税の減免かが政策論争の軸となり、農業政策の具体策は埋没した。十分な議論がないまま、米の増産が正当化され始めている。
人口減少が続くため、米の消費は毎年8~10万トン減少しており、事実上の減反政策によって増産を抑制してきた。大仰に政策転換しなくても、生産抑制策の運用を一部緩めるだけで、米の供給は大きく増える。少なくとも短期的には、増産すれば過剰米の問題を抱える。
そもそも、米価の高騰の原因も十分に解明されていない。供給不足なのか、単なる需給調整の失敗なのか、流通構造に問題があるのかも検証されていない。農水省は一貫して「全体としての供給は足りている」という姿勢を変えておらず、流通構造を「ブラックボックス」と問題視し「見える化」(小泉進次郎農相)に取り組んでいる。「供給が足りている」ならば「増産にかじを切る」(石破茂首相)必要性はどこにあるのか。
選挙中、増産のための具体策として、与・野党の多くが「減反廃止」と「直接支払い」を掲げたが、その狙いや制度設計の違いが有権者に浸透したとは思えない。有権者どころか、演説や会見を聞いていると候補者自身が理解しているのかさえ疑わしい。
立憲民主党、国民民主党、参政党、れいわ新選組、共産党、社民党などは、所得補償政策を公約したが、米価の大幅下落を前提に農家の所得を「補償」するのか、米価とは関係なく農地や国土を守る役割を評価するのか、農家の所得を底上げして収入を「保証」するのか。農家を所得面で支えるという点では共通していても、議論はまったく深まらなかった。
与野党ともに、米価高騰に対する短期的な対策と、中長期的に国内生産力を維持する政策を混同したのは残念だ。ただ、農業の担い手が急減しているのは間違いなく、米の増産が必要かどうかは別として、農家の経営所得安定策の充実が課題であることは間違いない。
参院選の敗北を受けて、石破首相は続投の意思を示し、公明党との連立政権を維持した上で、野党とは政策が一致する分野ごとに連合する構えだ。
特に野党が公約に掲げた戸別所得補償については、選挙前から石破首相自身が前向きに評価している。政治資金の規正、減税を含む財政、安全保障などと比べれば、政策合意のハードルは極めて低い。石破政権が政策面で実績を残すには、一つ一つ、できることから積み重ねていくしかない。
(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)