高騰が続いた米価は、ようやく下落傾向に転じた。しかし、政府は目先の対応に追われ、背景を十分に検証していない。
一方、生産・流通の現場では、2023年の猛暑による精米歩留まりの低下や加工用米(ふるい下米)の不足を主因とする「供給不足説」が主流だ。また、事実上継続している減反政策によって需給調整に限界が生じたとする「減反限界説」も、「増産にかじを切る」(石破茂首相)という政策転換につながった。
分析が錯綜するなか、公益財団法人 生協総合研究所の月報『生活協同組合研究』7月号(通巻594号)は、「どうなる,日本のコメ」を特集し、第一級の専門家5人の論考を収めた。現時点で入手可能な文献の中では、最も総合的で水準が高い。
特集冒頭の「米価格高騰の背景」で、同総研理事長の中嶋康博・女子栄養大教授が、食料・農業・農村政策審議会における基本法改正や基本計画の議論を踏まえ、米・水田政策の変遷、需給調整、価格形成、流通構造をわかりやすく解説。2024年8月の日向灘沖地震について、「(米価高騰の)引き金になったのは間違いない」と断じ、「流通の目詰まり」に触れている。副題の「米流通制度改革への示唆」にあるように、全体として農水省の公式見解に沿っている。
一方、同総研顧問の生源寺眞一・日本農業研究所理事は、「米をめぐる消費と生産を振り返る」の中で、1993年の「平成の米騒動」、戦後の増産から減反への政策転換、食生活の変化による米消費の減少傾向を回顧。高齢者が維持してきた零細の水田が若い担い手に集約され、大規模経営に移行している現状を描く。「令和の米騒動」に関しては、西川邦夫・茨城大教授らの論考を紹介する形で、「流通主犯説」をけん制し、供給不足など複数の要因を指摘する。
小池(相原)晴伴・酪農学園大教授による「北海道産米の歴史と昨今の状況」は、きらら397など品種改良や、生産、販売、減反への対応を具体的に紹介。
特集の中で異彩を放つのが、小川真如・宇都宮大助教による「ポスト生産調整・ポスト減反に向けて必要な視座」だ。米価高騰や米不足は脇に置き、「米は足りて、理想は達成された」という前提に立ち、人口減少により今後大量に余剰となる水田の活用や国土形成について大胆に未来を語る。
最後に、同総研理事の大木茂・麻布大教授は「生協産直・事業におけるコメ」で、生協が展開する「予約登録米」の仕組みを紹介。パルシステムなど4つの生協による産直活動を報告している。米が品薄となった時期でも組合員への安定供給が続けられたことで、生協に対する信頼は高まったとみられる。ただ現実には、量販店との競争と、弱体化する生産者との関係性の「はさみうち」の実態があり、米穀事業の供給量も右肩下がりで減少している。「令和の米騒動」をきっかけに、「産直活動」に対する理解と支持が広がることを期待したい。生協総研発行、税込み550円。
(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)