心身ともに健康でい続けるにはどうすればいいのか。「日本発酵文化協会」上席講師の藤本倫子さんは「江戸時代から、栄養補給剤として受け継がれた“飲み物”がある。
最新の研究で、350種類以上の栄養素が含まれていることが判明した」という。ライターの笹間聖子さんが聞いた――。
■効果が高いのは「米麹100%」
スーパーの棚にはさまざまな麹甘酒が並ぶが、疲労回復や集中力アップ、美肌などを狙うなら、「米麹100%の甘酒」を選ぶのが基本だ。
「見分け方は簡単。ラベルを見て、成分表示が『米麹』だけ、または『米麹と水』のものを選んでください。それが『米麹100%の甘酒』である証拠です」
「米麹100%甘酒」を推す理由は、「麹菌の量が多いこと」にある。
なぜなら、麹甘酒の栄養の中心は、ビタミンB群、オリゴ糖、アミノ酸などで、これらはすべて麹菌由来。つまり、麹が多いほど効果も高まるのだ。麹甘酒のように、製造過程で加熱すると麹菌は死んでしまうが、それでも栄養は残る。これは麹甘酒のみならず、酢などの発酵食品全般で同じことが言えるという。
なお、成分が「米と米麹と水」となっているものなど、米やもち米を加えて作られた甘酒は、麹菌の量が少ない傾向にある。ただし、そちらのほうが値段も安めなので、予算に合わせて選ぶのも一案だ。

また、前編で触れた「究極の若返り成分」エルゴチオネインや、肌の潤いを助ける「麹由来グルコシルセラミド」も、麹100%の甘酒に含まれている可能性が高い。
「たとえば、八海醸造は機能性表示食品として認定を受けていますが、おそらく他の麹100%の甘酒にも含まれているはずです。麹菌が多ければ多いほど、エルゴチオネインも麹由来グルコシルセラミドも多くなりますから」
選ぶべきはやはり、「米麹100%」なのだ。
■朝一杯で「脳がシャキッと」
次に気になるのは、飲むタイミング。藤本先生のおすすめは朝だそう。麹甘酒の栄養成分の8割はブドウ糖で、脳のエネルギーになるからだ。
「これから動くって時に飲むと、頭がシャキッとします。寝ている間は頭を使わないから、夜より朝に飲むほうが効果的ですよね」
午後のおやつ代わりに飲むのもおすすめ。会議前に飲んで集中力を高めるビジネスパーソンもいるという。
ただし、甘いので飲み過ぎは禁物。
「目安は1日100mlです。朝だけ100mlでも、朝と昼に50mlずつでも、健康効果はほとんど変わりません」
ちなみに、ある市販の甘酒を見たところ、125mlあたり炭水化物の量は約21gだった。
炭水化物には糖質と食物繊維が含まれる。WHOの推奨する1日の砂糖摂取量は25gだから、おおよそだが、甘酒125mlなら糖質摂取量は基準内に収まる。
「1日300ml飲んでも害はなかったという研究結果もあります。でも他の食事からも糖分を摂ることを考えると、100mlに抑えておいた方が無難ですね」
余った分は冷蔵庫か冷凍庫で保存しよう。冷蔵で約1週間、冷凍で約1ヶ月保つが、保存状態にもよっても変わる。臭いやネバつき、酸味が強い場合は避けたほうがいい。
■平日は甘酒、週末はヨーグルト
朝の麹甘酒がいいと言ったものの、朝の発酵食品の定番といえばヨーグルト。両方は摂りすぎな気もするが、ヨーグルトと甘酒、どちらがいいのだろう。
「私は絶対麹甘酒です。理由は……私がヨーグルト嫌いだから(笑)。と冗談はさておき、私はヨーグルトを食べると便秘になるんです」
ちょっと意外に感じたが、日本人には珍しくないそうだ。元々、人の腸には、「祖父母、親、子供と3世代以上食べてきた食品が消化にいい」と言われている。
世代を超えて、消化・吸収しやすい腸内環境を整えてきているからだ。しかし、ヨーグルトが日本に根付いたのは1970年代。まだ50年程度の歴史しかない。
「だから逆に、海外の人に麹甘酒は勧めない」と藤本先生。昔から麹を食べる文化がない可能性が高いからだ。身体の弱い人にも勧めないという。
「フランス人ならチーズ、ブルガリア人ならヨーグルトと、育ってきた土地で長く食べられてきた発酵食品を食べるほうが、腸には負担がありません。だから日本人には麹甘酒がおすすめなんです」
ただし、最近は多くのルーツを持つ人も多いので、「体に合う、合わない」は、食べてみて自分で判断するのがベスト。どちらも食べられる人は、「いつものヨーグルトに、甘酒をスプーン1杯かける」、あるいは、「脳を活発に動かしたい平日は甘酒、のんびりしたい週末はヨーグルト」と使い分けるのもいいだろう。
■スムージーは日本人には向いていない
甘酒は他のドリンクとのアレンジや料理でも活躍する。おすすめのレシピも聞いたところ、スムージーへの活用法を教えてくれた。それには理由がある。

「欧米のスムージーレシピには、バナナやキウイ、グレープフルーツなど、体を冷やす果実が多く使われています。欧米人は夜に肉を食べる人が多く、そうすると、朝まで胃が消化のために熱を持ちます。それをクールダウンさせるために飲むんです」
しかし、これを日本人がそのまま真似すると、冷えてお腹を壊すという。特に、気温が下がるこれからの季節は、体や内蔵を温めなくてはいけない。だからスムージーに代謝を上げる甘酒を入れるのがおすすめだそう。方法は簡単、バナナでも桃でも、果物1種類の代わりに甘酒を使うだけ。
「甘酒と果物って相性がいいんです。野菜もいいですよ。なかでもトマトと合わせると、酸味と甘味のバランスが絶妙です。使うときは、あまり甘くない安いトマトで十分。むしろその方が合う」
スムージーにせず、トマトに甘酒をかけるだけでもおいしいそうだ。筆者が試したところ、麹甘酒の甘さとトマトの酸味が互いに引き立て合って美味だった。

■「砂糖の2倍」で置き換える
一方、料理に使うときは江戸時代と同じく、「砂糖代わり」にすればいい。目安は砂糖の2倍量。砂糖大さじ1なら甘酒大さじ2が目安だ。多いと感じるかもしれないが、甘酒の糖度はどのメーカーも20~25度くらいと、砂糖よりも控えめ。代謝も上がるため、倍の量でもヘルシーだ。
藤本先生のおすすめは煮物や煮魚。調味料は甘酒と醤油だけで十分だ。さらに、秋にぴったりのレシピも教えてくれた。
「かぼちゃスープに甘酒を少し入れると相性抜群です。甘酒にはビタミンAが入っていないから、体内でビタミンAに変化するカロテンの入っているかぼちゃや人参と合わせると、栄養バランスがより良くなります」
ドレッシングに混ぜる裏技もある。それも、市販のドレッシングにほんの少し混ぜるだけ。「甘さを足すのではなく、栄養を足す」イメージで、「甘酒の風味が感じられない」くらい、わずかな量でいいそうだ。

他方、デザートとしての楽しみ方もある。ヨーグルトに甘酒を入れ、市販のナタデココをかけるだけで、整腸・美肌・免疫力向上につながる「トリプル発酵スイーツ」が簡単に完成する。あまり知られていないがナタデココは、「ナタ菌」という酢酸菌の一種を使って作られた発酵食品なのだ。
■毎日コツコツ、腸内細菌に餌を
このように麹甘酒の摂り方はさまざまあるが、藤本先生が一番大切にしているのは「毎日飲むこと」だという。
「腸内細菌に餌をあげるつもりで飲んでいます。ペットに餌をあげるようなものですね」
甘酒のオリゴ糖が善玉菌の餌となり、善玉菌を増やして腸内環境を整える。だから便秘改善や免疫力向上に寄与するのだ。
取材を通じて、甘酒の奥深さに改めて驚いた。1700年以上も受け継がれてきた飲み物の効果が、現代の科学で次々と証明されている。しかも活用法は驚くほどシンプル。ラベルを確認して選び、毎日100ml程度を飲む。料理には、砂糖の代わりに甘酒を活用する――たったこれだけだ。
それだけで、“究極のパフォーマンス向上力”を手に入れられるとは。秋バテ対策にも、集中力を高めたい人も、美肌にも。まずは明日の朝、1杯の甘酒から始めてみてはどうだろう。続けるうちにきっと、いつもの自分との違いに気づくはず。1700年の歴史がその力を証明している。

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笹間 聖子(ささま・せいこ)

フリーライター、編集者

おもなジャンルは「ホテル」「ビジネス」「発酵」「幼児教育」。編集プロダクション2社を経て2019年に独立。ホテル業界専門誌で17年執筆を続けており、ホテルと経営者の取材経験多数。編集者としては、発酵食品メーカーの会員誌を10年以上担当し、多彩な発酵食品を取材した経験を持つ。「東洋経済オンライン」「月刊ホテレス」「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」「FQ Kids」などで執筆中。大阪在住。

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(フリーライター、編集者 笹間 聖子)
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