延命治療を望む、望まないといった自分の意思はどうやって知らせるべきなのか。実業家の堀江貴文さんは「マイナンバーカードに『デジタル遺言』を紐付けるシステムを作れば、医療現場での混乱は減り、不要な延命治療もなくなる。
デンマークやエストニアでは既に類似の制度が実用化されている」という――。(第2回/全3回)
※本稿は、堀江貴文著、予防医療普及協会監修『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■日本人は死に方に無頓着すぎる
日本人は、なぜこんなに死ぬときのことを考えないのだろうか。
「縁起でもない」などと言って先延ばしにして、結局最後は家族が困るパターンが多い。私の周りでも、親が倒れて意識不明になって、延命治療するかどうかで家族がもめているケースをいくつも見てきた。本人がどうしたかったかなど、誰にもわからない。結局「とりあえず延命」みたいな感じで、本人も家族も医者も、誰も幸せじゃない状況が続く。
日本にも「人生会議」というACP(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組みがあるのだが、知っている人はたったの3.3%。医者ですら22.4%しか知らないという報告がある。しかし興味深いのは「人生の最終段階について話し合うことは必要」と思う人は6割以上もいるという事実だ。
つまり、みんな必要性は感じているのに、口に出したくない、やり方がわからない、めんどくさいなどの理由で放置しているということだ。典型的な日本人の思考停止パターンだろう。

■延命治療をしない=「何もしない」ではない
「延命治療を行わない」と聞くと、「何もしてもらえない」「すぐに亡くなってしまう」と心配する人がいるかもしれない。しかし、実際はそうではない。
延命治療とは、生命を人工的に維持するための医療行為のことで、具体的には、人工呼吸器、人工透析、心肺蘇生術、抗生剤の大量投与、胃ろうによる栄養補給などのことだ。
これらの治療は、回復の見込みがある場合には非常に有効だが、病気が進行し回復が困難な状況では、かえって苦痛を長引かせる場合がある。
また、延命治療を行わないことを選択しても、医療チームによる支援は続く。それが「緩和ケア」だ。緩和ケアでは、痛みの管理、呼吸を楽にする処置、水分管理や心のケアなど、穏やかな死を迎えるためのサポートが受けられる。延命治療を行わない場合でも、緩和ケアは受けられることを知っておくことが重要だ。
そこで私が注目しているのが、マイナンバーカードを使った解決策だ。
■マイナンバーカードに「意思」の紐付けを
マイナンバーカードがもう健康保険証として使えるようになっていることは多くの人が知っていると思う。薬の情報とか健診データなども、マイナポータルで見られるようになっている。救急車で運ばれたときに意識がなくても、マイナンバーカードがあれば救急隊員が患者の医療情報をチェックできる「マイナ救急」というシステムも動き始めている。

だったら、ここに「俺は延命治療はいらない」とか「臓器提供OK」みたいな情報も登録してしまえばいい。技術的にはすぐできる話だ。
海外を見てほしい。エストニアでは、国民の医療データの95%以上がデジタル化されていて、救急車の中で患者の全医療履歴が見られるのだ。
デンマークも進んでいる。延命治療の希望をオンラインで登録でき、しかもそれに法的拘束力がある。18歳以上なら誰でも登録できて、いつでも変更可能だ。合理的だろう。
■国のシステムだけに「プライバシーが~」はお門違い
「プライバシーが心配」「情報漏洩が怖い」という声もあるだろうが、よく考えてみてほしい。もう既にLINEで健康相談などをしていないだろうか。また、Amazonの購入履歴から病気を予測されて商品をレコメンドされた経験はないか? それらには文句を言わないくせに、なんで国のシステムだけそんなに警戒するのだろうか。
確かに過去にマイナンバーの誤登録問題などはあったが、それは運用の問題であって、システム自体の問題ではない。
エストニアのように、誰がいつ自分のデータにアクセスしたか全部ログで確認できるようにすればいいのだ。例えばブロックチェーン技術を使えば、改ざんも防げる。技術的な解決策なんていくらでもある。
「デジタル苦手な高齢者はどうすんの?」という意見もある。それに関しては、最初は病院や介護施設で登録を手伝ってあげればいいだろう。
医師の知人の中には、自分や両親の現病歴、既往歴、家族歴などを作って持っている人もいるのだが、入院時にそのデータを見せれば時間の節約になるし、記憶違いなども減るのだという。
公証役場でリビングウィルを作るときに、ついでにマイナポータルにも登録するとかも検討できる。選択肢を増やせばいいだけの話なのだ。
■過剰な延命治療も減らせる
医師の友人に聞いたのだが、実際の現場では患者の意思がわからなくて困ることが多いらしい。特に救急で運ばれてきた高齢者だ。家族に連絡がつかない、本人は意識不明、どこまで治療していいかわからない。結局、訴訟リスクを避けるために過剰な延命治療をすることになる。

マイナンバーカードに意思表示が登録されていれば、医者も迷わない。「この人は延命治療を望んでいない」と明確にわかれば、その意思を尊重できる。家族も「本人の希望だから」と納得できる。みんなハッピーだ。
■技術も成功例もある、あとはやるだけ
政府がやるべきことは明確だ。
第一に、法整備だ。デジタル登録された意思表示に法的拘束力を持たせる。デンマークができているんだから、日本にできない理由はない。
第二に、システム構築。マイナポータルに専用の登録画面を作る。使いやすいUI(ユーザーインターフェース)にして、スマホからでも簡単に登録・変更できるようにする。定期的に「内容確認してね」ってリマインダーも送ると良いだろう。

第三に、啓発活動だ。「人生会議」などというふわっとした名前ではなくて、もっとストレートに「デジタル遺言」とか「医療の希望登録」とか、わかりやすい名前にする。
第四に、医療従事者の教育だ。システムの使い方だけじゃなくて、患者との話し合い方も含めて研修する。
デジタル化すれば、伝えたい人に伝えたいことが確実に伝わる。紙に書いて金庫にしまっておくよりも、よっぽど確実だ。いつでも変更できるし、必要な人に必要なときに伝わる。
「死」を考えることは「生」を考えることだ。どう死にたいかを考えることで、どう生きたいかが見えてくる。それをデジタルで記録して共有することで、最期まで自分らしく生きられる。
日本も早くこのシステムを導入すべきだ。技術はある、海外の成功例もある。
あとは実行するだけなのだ。

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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)

実業家

1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。

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(実業家 堀江 貴文)
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