仕事で評価される人とそうでない人の違いとは何か。経営コンサルタントの幸本陽平さんは「仕事ができる人は売り上げや利益に関する感覚が鋭く、数字を重視する。
たとえば上司から進捗を確認されたとき、『だいたい終わりました』とは答えない」という――。
※本稿は、幸本陽平『できる人ほど仕事はこの「動詞」で考える 5000人を指導したコンサルが教えるアウトプット術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「いくらで売れるか」が抜け落ちた企画書
私は各種の研修で講師を担当すると「今日の受講者は数字に強い」または「数字に弱い」と感じる場面があります。この場合「数字に弱い」とは、計算が不得意、桁を間違える、といった算数の得意・不得意に関する意味ではありません。簡単に言えば、数字を「軽視」している姿勢を指します。
マーケティング研修では、受講者に商品や店舗などの簡易的な企画を立案してもらうことがあります。そこで多くの受講者が触れない項目があります。それは「価格」や「利益」です。ビジネスの企画なのですから、「いくらで売るか、どれくらい儲かるか」は極めて重要なポイントです。
ところが多くの受講者は、商品や店舗のコンセプトなど目に見えるわかりやすい部分に夢中になってしまい、価格や利益構造などのお金に関する部分が抜け落ちているのです。私は「社長に提案するつもりで企画を考えてください」と指示しているにもかかわらず、企画書に想定価格すら書かれていなかったら、その企画は採用されるはずがありません。
■自社の数値を把握していなければ信頼を失う
ビジネスは「いくらで売るか」「いくら儲かるか」からは切り離せません。
価格に触れていない時点で、売上や利益に関する感覚が鈍く軽視している=数字に弱い=管理職や責任ある仕事は任せられない、と判断されてもやむを得ません。あなたが現状よりワンランク上の仕事を任され、周囲からの評判を獲得するためには、数字に強くなること、すなわち「かぞえる」ことを習慣化しなければなりません。
ビジネスパーソンにとって「考える」は「数値化=かぞえる」とセットである、と言っても過言ではありません。「かぞえる」こと、つまり数値化が習慣になっていないと、目の前のことを「こなす」ことはできても、管理職や経営幹部レベルの責任ある業務を行うことはできません。
特に自社や取り扱う商品・サービスについて、売上・予算(目標)、価格などの基本的な数値は把握しておきましょう。「それらの数値はデータとして保管されている、覚えておく必要はない」と思うかもしれません。しかし、それらの数値を覚えておけば、商談や打ち合わせでも「100万円か、じゃあ今期の売上目標の△%だな」「この商品の利益率は□%だ、だから○○円までなら値下げしてもいいな」と瞬時に判断でき、仕事の精度が高まります。
反対に基本的な数値を把握していないと、周囲からの信頼を失いかねません。あなたが車を購入するとして、車の販売スタッフがいくら車に詳しくても、価格をまったく把握していなかったら不安に感じるのではないでしょうか。
数字を「使う」ためには基本的な数値を把握しておきましょう。
■「○倍」「○人」の数字だけに惑わされない
「今年の退職者は100人だった」
これだけを見ると、退職者が大量に発生しているブラックな会社か、と思ってしまいます。
しかし、もしこの会社の社員が1万人であれば、離職率はわずか1%と極めて低いことがわかります。
「10年前に比べて売上が2万倍!」とだけ聞くとものすごい伸びのように感じますが、実際には10年前はテスト販売の500円だけであれば、それを2万倍しても1000万円です。
このように、数値化する際はその絶対値だけではなく、割合や比率にも注意する必要があります。会議の資料などは、絶対値と比率の両方を明記すると相手の理解は深まり、あなたへの信頼も高まることでしょう。
■数値は誰にとっても解釈が同じ
さらに、平均や標準の数値も併記してあげると、相手の理解はより深まります。
たとえば「この象の体重は1トン」という情報は、確かに数値化された事実です。しかしこの情報だけでは1トンという事実がわかるだけで、象として重いのかどうかなどの「意味」はわかりません。
ここで「象の平均体重は6トン」と平均の数値についての情報を加えることで「1トンということは子象かな」と新たに「意味」が加わります。
数値はそれ単独では意味を持たないことがほとんどです。「比率・割合で見る」「平均・標準と比べる」ことが数値化のコツです。
ビジネスでは多様な背景や考え方を持つ人が関わります。「広い家」「大きい声」「たくさんの乗客」などの表現は、人によって解釈が異なります。それによってこちらの伝えたいことが正確に伝わらないなど、コミュニケーションミスが起きかねません。
場合によっては製品の不具合など、重大なミスにもつながります。
それに対して「部品の重さは1キログラム」「不良率は3%」といった数値は誰にとっても解釈が同じで、判断がブレることがありません。1キログラムは誰にとっても1キログラムであり、数字はある意味ではビジネスの「共通言語」です。
■「8割終わりました」ならちゃんと伝わる
売上金額や営業件数は数値化が容易です。しかしそれだけでなく、普段あまり数値化しないものや、数値化できないと思っているものこそ、数値化が力を発揮します。
あなたが上司に「○○の仕事、どのくらい進んでいる?」と聞かれたとします。そのときあなたは「だいたい終わりました」などと感覚で答えるはずです。しかし、この「だいたい」は人によって解釈の幅が異なる恐れがあります。
そこでこのような場合は、数字を使い「8割終わりました」と言うようにしてはどうでしょう。これならば、あなたと上司の間で食い違いが起こる危険性は少なくなります。
もちろん、仕事の進み具合は本来であれば厳密にパーセンテージで表現できるものではありません。しかしここで「だいたい」ではなく「8割」と表現することで、イメージがより具体的になり、意思疎通が円滑になります。

他にも仕事の大変さを「いつもの倍大変でした」と表現するなど、普通であれば数値化しない・できないことを数値で表現すると、あなたの話の説得力は大きく高まります。
数字を効果的に使い、相手が容易に想像できるような表現を用いると、あなたのコミュニケーション能力は格段にアップします。

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幸本 陽平(こうもと・ようへい)

経営コンサルタント

一橋大学商学部卒。2002年、日本ロレアル入社。高級ブランドのEC立ち上げやメンバーシッププログラムなどのマーケティングを担当。その後、カネボウ化粧品、ポーラ・オルビスHDの子会社にて百貨店向け化粧品ブランドのマーケティング、経営企画などに携わる。2010年、幸本陽平事務所(現・東風社)設立。著書に『「あっ、欲しい!」のつくり方』(日本経済新聞出版社)、『脱!残念な考え方』(自由国民社)など。

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(経営コンサルタント 幸本 陽平)
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