■業務改善の基本は「他社の真似」ではない
業務が非効率なまま低迷している会社や、仕事のできない社員にはさまざまな特徴があります。一方で、社員はほとんど残業していないのに業績が好調な会社や、一見すると暇そうに見えるのに、誰よりも業務量をこなしている「暇そうなのに仕事がデキる人」もいます。
両者にはどのような違いがあるのでしょうか?
私は業務改善コンサルタントとして多くの企業を見てきましたが、改善されていない状況で危機意識を持っている社員は少数派です。大多数の職場では「自分たちはうまくやっている」と思い込んでいるのが現実です。
一方で、経営層や管理職の方々からは「本当にこれでいいんだろうか」と、漠然とした違和感を持っているというご相談をいただくことが多々あります。具体的に「ここが悪い」「ここを直すべき」という明確な課題があるわけではなく、なんとなく不安感があるという状態ですね。
ただ、この状態で多くの企業が陥ってしまうのが、他社の「先行事例」を真似てしまうことです。「いまは上手くいっていないけど、あの会社みたいにやれば上手くいく」というアプローチから始めると、うまくいかないケースが圧倒的に多いんです。
例えば、打ち合わせの際に経営層から「先週のカンブリア宮殿で見た会社のようになりたい」みたいなことを言われることもありますが、その場合は遠回しに「いったん落ち着きましょう」というメッセージを伝えます。
なぜなら、業界や事業の性質、従業員や売り上げの規模、会社の成り立ちなどが似ていなければ、その「先行事例」を真似ても意味がないからです。総合的に考えて環境的に似ても似つかない場合は、無理だということをはっきりとお伝えします。
これは体形管理に例えるとわかりやすいかもしれません。つまり、体脂肪率が40%を超えている人が、急にボディビルダーの写真を持ってきて「3カ月でこれにしてくれ」と言っても無理な話です。まずはご飯の大盛りをやめる、夜9時以降の食事をやめる、そういう基本的なところから始めないと実体が伴いません。
■「頑張る人」ほど非効率になる理由
会社という単位だけでなく、会社員個人の場合でも無意味に「先行事例」を参考にしすぎてしまうことがあります。
たとえば、それまで見てきた先輩たちの働く姿や、「24時間働けますか?」の時代に慣れすぎて、無駄なことをしないよりも「とにかくたくさん手を動かすことが大切」という発想を持っている方は少なくありません。そういう方々に対して急に「その働き方は非効率的ですよ」と指導しても、なかなかすぐには変われないものです。
そこで、まずは人に働きかけるのではなく制度を変えていきます。具体的には業務を改善することで、その人の評価にどうプラスになるかを明確にします。簡単に言えば、「業務改善が進めば給料があがる」という仕組みを導入します。「頑張れば報われる」ということが明確になることが、業務改善の第一歩です。
■「定例ミーティング」は無駄の象徴
その次に進めるのが、「やめるリスト」を作ることです。
仕事というものは基本的にどんどん増えていくものです。
具体的には、その方が何をやっているのかをタスクレベルまで洗い出して、「これは必要」「これは不要」という仕分け作業を行います。そこで私がまず徹底的に行うのは、現状がどうなっているかの「蓋開け」作業です。
現場の定例会に顔を出したり、時には商談に同席させてもらったりしながら、良いところ悪いところを見つけていきます。バックオフィス業務の場合は、実際に請求書の発行から管理会計まで、一連のフローを自分でやってみることもあります。
よくある無駄として挙げられるのが、形骸化してしまった定例ミーティングです。悪い意味でルーチン化してしまっている会議は、まず切り落とす対象として検討します。
■「即レス=仕事がデキる」は本当か
「仕事がデキる人は、メールに即レスする」という話をよく聞きますが、これも「先行事例」として注意が必要です。緊急度と重要度という観点と、自分の立場や権限を照らし合わせて考える必要があります。
緊急度が高いものは当然即レスするべきです。また、簡単に答えられるものも返したほうがいいでしょう。
例えば、メールを即レスしていることを公言している堀江貴文さんは(*1)、ワンクリックで大きな金額を動かせる決裁権を持っています。逆に言えば細かいタスクは他の人がやってくれる。自分もそういうポジションであれば即レスは有効ですが、細かい業務やタスクを抱えている一般的なポジションの人の場合、即レスばかりしていると、レスだけで時間が過ぎてしまい、本来の作業ができなくなってしまいます。
まず自分のミッションをしっかりと把握することが大切です。もし「社内の問い合わせを円滑にするために即時対応することがあなたのミッションです」と就業規則に明記されているなら、即レスは正解です。しかし、ほとんどの方はそうではないはずです。
自分の地位や給与を向上させ、思い描く働き方を実現するために、会社から与えられたミッションを100点でこなすことが第一だと考えたとき、メールの即レスがそのミッションにどれぐらい寄与するのかを冷静に判断する必要があります。
(*1)「堀江貴文氏が実践した1日5000通のメール処理術。億を稼ぐ人に共通する「即レスの法則」とは」
■メールは「スケジュール化」で対応すべき
私が推奨するのは、即レスするのでもなく、後からまとめて処理するのでもない、その中間にあたる「スケジュール化対応」です。1日に3回程度、メール対応の時間をスケジューリングして、その枠内で処理するのです。
まとめて処理しようとすると、脈絡のないやり取りにも注力してしまい、生産性のないターンが発生しがちです。
私はメール対応の時間をカレンダーに毎朝入れて、対外的にも「相談系の対応はこの時間に行います」と宣言し、自分としてもその枠をしっかり確保して作業時間として活用しています。
■「余裕」を生むことが効率化の目的
ここまで業務効率の改善について書いてきましたが、そもそもの大前提として、なぜ業務を効率化する必要があるのでしょうか。もちろん、効率化が進めば業務をより少ない時間で終わらせられますし、ほかの業務に手を付ける時間が生まれるかもしれません。
それよりも、私が重要だと思っているのは、業務中に「余裕」が生まれることです。
クリエイティブな業務やマネジメント業務においても、がむしゃらにやるだけでは成果はほとんど出ません。できる限り自分の仕事に「余裕」を持っておいたほうが、新しい仕事も入りやすくなりますし、思考もクリアになります。
毎朝やっていることは、この「余裕」を確保するための時間管理です。メール対応の時間を事前に確保し、重要なタスクに集中できる環境を整える。これが「暇そうなのに仕事がデキる人」の実態なのです。
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谷川 輝(たにかわ・ひかる)
業務改善コンサルタント
株式会社BitBiz代表。起業家だった父の影響もあり、1日の行動をすべて付箋に書き出すなど、幼少期から「サボ力」につながる思考・行動力を養う。
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(業務改善コンサルタント 谷川 輝 構成=ライター・いからしひろき)