仕事のデキる営業マンはどんな工夫をしているのか。営業セミナー講師の乾哲也さんは「一流のマンは、顧客から『商品やサービスが高い』と言われても的確に対応できる。
ダメな営業マンは顧客に寄り添って共感してしまうが、一流の営業マンからすればやるべきことはたったひとつしかない」という――。(第2回)
※本稿は、乾哲也『できる営業マンのすごい言語化 「なんとなく」を納得に変える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「値下げ」は最後の奥の手
営業マンとして商談している際に、お客さまから「高い」と言われたらどうしますか?
最初に思い浮かぶのは「値下げ」ですね。けれども私は、「営業にとって、値下げは最後の奥の手だよ」と常々お伝えしています。デジタルマーケティングがさらに進めば、もはや価格競争自体が無意味になります。
すぐにコモディティ化してしまうモノやサービスの「だいたいの金額」は、簡単に分かりますし、少々の値下げでは差別化は難しくなって行きます。今はまだ、商材によっては「奥の手」になり得る「値下げ」は、やがてお客さまからも求められなくなる日が来るでしょう。そうであれば、そもそも「値下げ」に頼らないモノやサービスの売り方を身につける努力が、これからの営業マンにとって急務の課題です。
そもそも、何をもってお客さまは「高い」という印象を持つのでしょうか?
お客さまの持つ印象は、天秤のようなバランスで量られた結果です。「高い」とは、商材が軽く、お金=価格が重いというイメージです。もちろん「値下げ」をして価格を軽くすれば、「高い」は払拭できます。
けれども一貫性に従っているお客さまからすれば、商材自体の価格に対する「高い」のイメージ、つまり「商材にお金を払いたくない」=「商品価値の低さ」は変わりません。
私は、お客さまから「高いね」と言われた時には、基本的に「価値の上乗せ」を切り口にした「切り返し」を考えます。
■まずは「驚く→謝る」の流れを作る
その手法には次の2つがあります。いずれも比較話法を用います。
・他社との比較

・実際の商品価値での比較
この2つに共通している絶対のルールがあります。お客さまに「高い」と言われた時だけは、切り返しの大前提だった「共感」は絶対にしてはダメだというルールです。これは厳守すべきです
「高いね。考えさせて」

「ええ、そうですよね。高いですよね」
これでは、値下げ以外の手はないですし、その値下げが有効打になるとは思えません。ですから、お客さまの「高い」には、絶対、共感してはダメなのです。お客さまに「高い」と言われたなら、やるべきことはただ1つ。「謝る」ことです。
これまでお会いしてきたトップセールスの方々に、この「高い」の難題についてどう「切り返す」のかをたずねると、ほぼ全員が「絶対に謝る」と答えてくださいました。
つまり、それ以外に手はないということです。
では、その理由を言語化して行きましょう。
お客さまの言う「高い」は、一度言った以上は一貫性を持ちます。それを言い換えるには、実は「高くない」という視点の移動です。お客さまから「高い」と聞いたら、少し大げさに驚いてから、次のように謝ってください。
「え? あっ! 高いですか。ああ、そうでしたか。あの、お客さま、高いと思わせてしまって、申し訳ございません。もう本当に、私の伝え方が悪かっただけなのです」
最初の驚きから、謝罪までがスムーズだと、とても効果的です。
■「他社と比較したら安い」と思ってもらう
「高い」わけではないのです。お客さまが「高い」と勝手に思ったわけでもない。こちらの伝え方が悪かったから「高いと思わせてしまった」。
そのことを、まず謝ります。
「他社比較」のAREA(Assertion・Reason・Example・Assertion/主張・理由・具体例・再主張)を見て行きましょう。こちらから「本当は安い」と言うのはいやらしいので、第三者話法を用いています。また、今回は、「具体例(E)」はなくてもいいでしょう。
◆主張(A)

「もう本当に、私の伝え方が悪かっただけなのです。皆さんから、安いっておっしゃっていただいているものですから」
◆理由(R) …… 他社との比較。

「これは事実として、決して悪口言うわけじゃないですけど。他社さんですと、この価格では、やっぱり仕様的にもそこそこのものなんですね。それが、うちでしたら、仕様がそれより格段に良いものですから」
◆再主張(A)

「ですから、皆さんが、これは安いって言って喜んでいただいているのです」
◆訴求

「やはりですね、皆さん、何でもお金がかかりますから、喜んでくださいます(うんうんうん)。ですから、社長、ご決断ください!」
これでお客さまの「高い」の印象は払拭されます。
■否定や説得はせずに、謝罪で納得してもらう
「高くはない」でも決断には至らないでしょうから、購入いただけた場合は、社長の「購買意欲」が「欲求」にまで高まった結果の証しです。「安いから買った」のではなく、「欲しいから買った」と言えます。

「価値の上乗せ」は他社比較においても「高いか」「安いか」ではありません。実は、2つの「主張(A)」が存在します。1つは「伝え方が悪かった」。もう1つは「他社と比べて皆さんが言っている」です。これにより、お客さまの側からすると、「いや。勝手に高いとか言ってしまって申し訳ない」という恐縮した反応が返ってきます。
これは、こちらが「いえ。高くはないです」と返せば、「いや。高い」がまた返ってきます。これは「返報性の法則」と言って、人は受け取ったものをお返ししたい」と考えるからです。ですから、お客さまの否定的な言葉に、否定で返すのは絶対にしてはいけません。
「高いよ」

「高かったですか! 私の伝え方が悪かったのです。
すみません」

「あ。いや。こちらも理解が足りずに申し訳ない」
このように返報性の法則に則って、お客さまに納得していただけるのです。お客さまの内心では納得していなくても、やり取りとして、双方が謝って収めることができました。
■「切り返し」は最低でも3回は必要
そして、次の訴求にも進むことができるのです。
他社比較と基本同じですが、商材自身の価値が理由になります。
◆主張(A)

「皆さん、安いとおっしゃいます」
◆理由(R) …… 価値の比較

「皆さん、これの導入で経費が削減できたからなのですね」
◆再主張(A)

「だから、皆さん、安いとおっしゃいます」
◆訴求

「たとえばですよ、社長、これで経費がこれだけ削減できたらご気分いかがですか? ぜひ決断しましょう」
こうした「切り返し」を3回から5回すれば、「そこまで言うなら」と売れるようになるのは、必然なのです。

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乾 哲也(いぬい・てつや)

営業セミナー講師

1985年生まれ。大阪府出身。「購買意欲」の概念を取り入れた即決メソッドは、これまでに300社以上の企業研修、1,000人を超える営業職への個別コンサルティングに導入され、いずれも高い評価を得ている。著書に『できる営業マンのすごい言語化 「なんとなく」を納得に変える』(KADOKAWA)がある。TikTok:@eigyou.inui

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(営業セミナー講師 乾 哲也)
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