※本稿は、中野ジェームズ修一『成功も挫折も人格がすべて 痩せる!パーソナリティトレーニング』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■トレーニングを成功させる2つの条件
さて、本書の「はじめに」のなかでトレーニング成功の条件は
1 自分の体質・体型に合った運動を行う
2 人格やライフスタイルを加味した運動を行う
ことである、とお話ししました。2については本書でパーソナリティ別に、トレーニングの進め方やトレーニング方法を食事の摂(と)り方と併せて解説していきますが、その前に1について少しお話ししましょう。
自分の今の体を知ると、トレーニングの優先順位が自ずと決まります。その大前提にあるのは、「すべての人が目指すべき理想は筋肉量の多い体」であるという考えです。これはボディコンテストに出るとかスポーツのパフォーマンスを上げたい人に限りません。「痩せたい」という人にも、我々トレーナーは「まずは筋肉をつけましょう」と提案します。
■筋肉は多くのエネルギーを消費してくれる
筋肉は、多くのエネルギーを消費してくれる組織です。そのため、筋肉量が多い人のほうが基礎代謝が高くなります。基礎代謝とは呼吸、心拍、体温維持など生命活動維持に必要なエネルギーで、1日の総消費エネルギーの約60~70%を占めます。
筋肉は代謝が活発な組織であり、脂肪組織よりも多くのエネルギーを消費します。
例えば、筋肉が1kg増えると、毎日13~15kcal程度の基礎代謝が上がるとされています。数値は微量ですが、筋肉がつくと体が軽くなるなど動きやすくなるため、活動量も自然と上がります。つまり、通勤・通学や掃除・洗濯といった家事など運動以外の日常生活のあらゆる活動によって消費されるエネルギーが向上。これをNEAT(非運動性熱産生Non-Exercise Activity Thermogenesis)と言います。
NEATは1日の総エネルギー消費量の15~30%を占めるとされており、人により有酸素運動以上にカロリーを消費することもあります。特に運動が苦手な人にとって、NEATを意識的に高めるだけで消費カロリーを増やせることは大きなメリットです。
■身体づくりの前提は筋肉量を増やすこと
以上を踏まえたうえで、図表1の3つのグラフを見てください。ダイエットをする場合、「筋肉量も体脂肪量も過多」のグラフAのパターンなのか、「筋肉量は過少で体脂肪量が過多」のグラフBのパターンかによって、優先すべき運動は異なります。そして、目指したいのはグラフCのような、「筋肉量が多く体脂肪量が少ない」三角形を描く体です。今の皆さんはAとB、どちらの状態に近いでしょうか?
よく「自分は筋トレと有酸素運動、どちらを優先したほうがいいですか?」という質問を受けますが、「筋肉量は過少で体脂肪量が過多」のパターンBだった場合、優先すべきは筋肉量を増やす運動です。「体脂肪を減らしたいから」と有酸素運動を優先したくなりますが、体づくりの大前提は筋肉量を増やすことです。筋肉が増えるまでに最低でも2~3カ月はかかると言われているため、その間は無酸素運動をメインに取り組みます。
■やみくもに食事量を減らす必要はない
逆に筋肉量が少ないまま有酸素運動を増やしても、体脂肪を落とすのに時間がかかるうえ、NEATの向上も期待できず、見た目にも“引き締まった感”や“メリハリ”が得られません。また、最初こそ緩やかに落ちた体重もそのうち落ちなくなり、結果、「毎日2時間歩いているのに、腹もお尻もぷよぷよのままだよ……」という残念な結果に終わります。
食事に関しては、Bパターンの人は、食べている量よりも内容に問題がある、いわゆる「バランスの悪い食事」になっていると考えられます。例えば脂質の多い食べ物、甘い飲み物や間食、アルコールの量が多くなってはいないでしょうか? その場合、何を食べているのかを見直し、整えることで体が変わってきます。やみくもに食事量を減らす必要はありません。
■「デブマッチョ」体型になる生活
次に「筋肉量も体脂肪量も過多」のパターンAの場合です。筋肉量が十分あるので、動けば脂肪がどんどん燃える力は備わっています。有酸素運動を優先しましょう。ただ、体脂肪率が非常に高い原因は恐らく、十分な筋肉量をもってしても消費しきれないほど、摂取エネルギーが多いためと考えられます。
Aタイプに多いのが、学生時代はスポーツをやっていた、という人です。運動でたくさんエネルギーを消費していた当時と変わらず、量をたくさん食べる習慣から抜けられない。
運動は経験があるので頑張れるのですが、元々ある体脂肪はそのままで、筋肉がのってしまう。結果、いわゆる「デブマッチョ」体型になります。Aタイプの人は、食事を根本から見直さない限り、ダイエット成功は難しい。ですから、有酸素運動と食事量のコントロールの2本柱で体づくりを進めましょう。
■「食事制限&長時間の有酸素運動だけ」は最悪
A、B問わず最悪なのは、食事量を極端に制限し、長時間の有酸素運動ばかりを続けて、筋肉量を落としてしまうパターンです。もちろん、食事量が減れば体に入ってくるカサが減りますし、食事から得ていた水分も減るため、一時的に体重はストンと落ちるでしょう。しかし、食事量を制限すれば筋肉の材料になる栄養素も入ってきません。
長期的に見ると、エネルギーが不足し、運動どころか日常生活でも「体を動かそう」という意欲を失います。そのうえ、筋肉量が少ないためエネルギー消費の効率も悪いままです。ゲッソリ痩せることはあっても、いわゆる健康的に引き締まったイイ体からは遠のいていく一方です。
このことをしっかり心に刻み、自分に合ったトレーニングや食事法を見つけていきましょう。
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中野 ジェームズ 修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
フィジカルトレーナー
1971年生まれ。フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。アディダス契約アドバイザリー。日本では数少ない、メンタルとフィジカルの両面を指導できるスポーツトレーナー。トップアスリートや一般の個人契約者の、やる気を高めながら肉体改造を行うパーソナルトレーナーとして数多くのクライアントを持つ。現在は大学駅伝チームのトレーナーも務めつつ、講演会なども全国で精力的に行っている。おもな著書に、『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(だいわ文庫)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)などがある。
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(フィジカルトレーナー 中野 ジェームズ 修一)