■ルンバより1万円安い中国製の実力は…
最近のロボット掃除機は高価格化が進んでおり、新製品発表で紹介される上位モデルは20万円を超える機種も珍しくなく、購入のハードルは年々高くなっている。その一方で、特に話題にはならないものの、5万円以下で購入できるエントリーモデルも各社から毎年登場している。10年前の同価格帯と比べると性能は大幅に向上し、機能も充実してきた。
今回は、ロボット掃除機の代名詞ともいえるアイロボットの「Roomba 105 Combo」(公式オンラインストア価格 3万9800円、以下ルンバ)と、中国メーカーAnkerの「Auto-Empty C10」(同2万9980円、以下アンカー)を実際に使って比較した。
どちらも5万円以下で購入できるエントリーモデルで、大きく異なる点は「水拭きの有無」と「自動ゴミ収集ステーションの有無」だ。
■ルンバとアンカー、異なる2つのポイント
アンカーは、自動ゴミ収集ステーションがあり、水拭きはできない。ルンバは自動ごみ収集ステーションがなく、水拭きはできる。
自動ゴミ収集機能とは、ロボット掃除機が掃除を終えると、本体に入っているゴミを吸い出して、充電ステーションに溜めておける機能だ。ゴミは毎回捨てることがないのでお手入れがラクになる。
ルンバに搭載されている水拭き機能は、水タンクが装備されており、モップパッドの着脱ができる。吸引だけでなく、水拭き掃除もできることが特徴だ。なお、同モデルは吸引のみ、水拭きのみ、吸引+水拭きから選択可能。
どちらも疑似ゴミを使ってテストした。部屋の隅に黒い微細な砂と少し大きいペット用のトイレ砂、テーブル下の脚まわりにも同様の疑似ゴミ、カーペットには人毛とペット用のトイレ砂を置いておいた。
■暗い場所でも、障害物を避けながら清掃する
最初にスマートフォンとロボット掃除機を連携してマップ作成を行う。スマートフォンの指示通りに設定するだけなので簡単だ。ルンバは、高性能なセンサー「ClearView LiDAR」が部屋のマップをすばやく作成し、暗い場所でも、障害物を避けながら清掃できる。
メインブラシは、エントリーモデルということもあり、毛とゴム製のシングルアクションブラシを採用している。上位モデルでは、独自のゴム製デュアルアクションブラシを採用しており、吸引力と髪の毛の絡みにくさで定評があるが、このあたりはコストを抑えているところだろう。今回比較したアンカーとよく似ている形状だが、幅は1.5センチほど大きいので、一度に掃除できる範囲は広い。
ルンバにはマイクロファイバーモップパッドが搭載されており、水タンクも備えている。掃除機がけのみ、水拭き掃除のみ、または、掃除機がけ+水拭き掃除の設定から選択できる。水拭き掃除をする際は、このタンクに水を入れてスタートする。拭きながら、モップパッドに水を自動で補充していく。
■実際にカーペットとフローリングを掃除した
なお、濡れたモップパッドを装着したままカーペットなどに乗り上げてしまうと、カーペットが濡れたり、汚れたりすることがあるが、このモデルはその問題を回避できる。自動カーペット検知機能が搭載されているので、拭き掃除中はカーペットの位置を確認して、モップが乗り上がるのを防止するのだ。
ただし、水拭き機能を使用した場合、カーペット部分は掃除せずにそのまま終了する仕様となっているので、カーペットも掃除したい場合は別に吸引だけの掃除を行う。
実際に使用してみると、部屋の隅から、テーブルやイスの脚まわりまで、丁寧に掃除していることがわかる。障害物の認識にも優れており、テーブルの細い脚にぶつかることはほぼなかった。
部屋の隅に置いた疑似ゴミは、ほぼ取りきれている。テーブルの細い脚があるあたりも、回転しながらきちんと掃除していた。
次に掃除機がけ(吸引のみ)にしたところ、水拭きモードでは回避していたカーペットもきちんと掃除。このあたりの賢さをエントリークラスにもさりげなく反映しているのはさすがだった。
■醤油のような液体は掃除できるのか
醤油をたらして水拭き+吸引モードにして掃除したところ、よく見るとうっすら筋が残っている程度で、ほとんど見えない程度に拭き取れている。
ただ、水拭きをしながら掃除をすると、液体も吸引してメインブラシやサイドブラシが汚れてしまう。掃除後にメインブラシを外してみたところ、本体側が汚れていた。
全体を水拭き掃除したいのであれば、基本的には最初に掃除機がけをしてから、次に水拭きをすれば完璧にキレイになる。先に掃除機がけだけにするとカーペットの上もきちんと掃除でき、水分とホコリが混ざって残ることもなくなる。
■アンカーは吸引のみで、スピーディに動く
アンカーは水拭きができないので、構造はシンプルだ。水拭き用のモップや水タンクなどはなく、吸引のみとなる。
大きな特徴は、自動ゴミ収集ステーションがあることだ。本体にゴミが溜まると詰まってしまい、吸引力が落ちてしまうが、常に空の状態にしておける。そのため、吸引力が落ちにくく、ゴミを捨てる手間も減らせる。約2カ月分のゴミを溜めておけるのだ。数年前までは高額なハイエンドモデルにしかなかった機能が、3万円を切る価格で販売していることに驚いた。
独自のiPathレーザー・ナビゲーション技術を搭載し、マップも問題なく作成できていた。水拭き機能がないので、カーペットがあってもどんどん登っていく。
約7.2センチの薄型ボディも特徴だ。低い場所の手に届きにくい場所まで入り込んでいけるので、奥まった場所も清潔に保つことができる。ルンバは入れなかった、高さ8センチしかない家具の隙間にも、難なく入って奥まで掃除できている。
■ルンバは19分、アンカーは31分で「終了」
隅はゴミが取れているが、手前が少し残っている。3本脚のテーブルでは2本の脚は丁寧に掃除をしたものの、奥の脚まわりは掃除をすることなく終わってしまった。ただ、カーペットは髪の毛もペット用の砂もキレイに取りきっていた。
12畳のリビング+4畳のキッチン合計で、ルンバは水拭き+掃除機がけで19分、アンカーは31分の掃除時間で、後者のほうが長かった。移動が早いものの、途中でグルグルと回転し、迷っている時間もあった。
今回は大量の髪の毛を吸い込んだが、サイドブラシにほとんどからんでいなかったのはアンカーだ。どちらもメインブラシはきれいなままで、ロボット掃除機本体のお手入れはラクだった。
自動ゴミ収集ステーションがあるタイプでも、ロボット掃除機本体のフィルターは、たまにチェックしてほしい。ホコリなどが目詰まりする場所だからだ。ここが詰まってしまうと、吸引力に影響する。掃除後にアンカーのフィルターを確認すると、やはり少々付着していた。
■ルンバにも欠かせない“お手入れ”がある
ルンバは、掃除後にロボット掃除機からゴミを捨てる必要がある。また、水拭きをした後は、モップパッドを手洗いし、乾かしておかなければならない。ここを怠ると雑菌が繁殖するので、こまめにお手入れはしておきたい。
ハイエンドモデルになると、このモップを自動で洗浄し、乾燥まで行ってくれるが、モップパッドの手洗いはそれほど大変ではなく、サッと洗えるのでそれほど苦ではなかった。自分の目で汚れが落ちたことを確認したいという人は、手洗いのほうが安心かもしれない。
テストの結果、ルンバは疑似ゴミの残りが少なく、掃除性能で他機種よりも優れていた。さらに障害物の回避性能も高く、スムーズに部屋を走行できる点が特徴的だ。価格はやや高めではあるものの、総合的な完成度ではルンバが一歩リードしている印象を受けた。
今回のテストでは、一般的なホコリよりもやや重い砂を用いて検証したが、全体的な結果は優秀であった。もちろん、上位モデルと比べるとやや弱さは残るものの、日常的なホコリや髪の毛程度であれば十分に対応できる。
機能面では、アンカーはゴミ捨ての手間を省ける点が強みであり、ルンバは水拭きまで任せられる点が魅力だ。賢さという観点では、掃除機がけと水拭きの両方を行えるルンバに軍配が上がるが、フローリングや毛足の短いカーペットの掃除機がけが中心であれば、アンカーでも十分に満足できるだろう。
ロボット掃除機の選択肢は年々広がっており、それぞれに「できること」と「できないこと」がある。自宅の環境やライフスタイルを踏まえて、最適な一台を見極めたい。
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石井 和美(いしい・かずみ)
家電プロレビュアー
1972年生まれ。出版社の編集者を経てフリーランスに。日用品や家電のレビューを行うライターとして活動を始め、家電レビュー歴は15年以上。一戸建ての「家電ラボ」を開設し大型白物家電をはじめ生活家電の性能や使いやすさをテストしている。
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(家電プロレビュアー 石井 和美)