■年収1600万円でも貯金80万円で自転車操業
今回は、月の手取りが89万円(年収にして約1600万円)もありながら、毎月約7万円の赤字で、自転車操業状態に追い込まれている神奈川県在住の3人家族の家計改善例をご紹介します。後述するように、数年前に購入した1億円近い自宅(タワマン)の住宅ローン(月21万円)を筆頭に、支出額が多く、貯金は80万円しかありません。
家族構成は夫・妻・小5の長男の3人。一家の大黒柱は、夫の笠谷テツヤさん(仮名・42歳・出版社勤務)で、契約社員として出版社に勤務しながら、時間に余裕があればフリーで編集などの仕事も請け負っています。契約社員としての固定給は手取りで月70万円、副業収入は0円~20万円程度と月によって大きな波があるのが特徴です。
妻のサナエさん(仮名・43歳)は専業主婦です。長男が有名私立大学付属小学校にいる間に家事や学校の保護者活動を済ませ、放課後や休日は、ゴルフや英語などの習い事に通う長男の送迎や宿題などのサポートに追われて、てんてこまいな日々。
今回相談に来られたのは、家計管理を一任されている妻のサナエさんです。初回の面談時、深刻な面持ちでこう明かしました。
「息子が私立の小学校に進学してから4年間、ずっと赤字が続いています。これまで、夫の収入が低い時はクレカで支払い、その利用分の請求は、収入が多い時に一括支払をすることで、なんとか乗り切っていました。
毎月の保険料も8万円で、高いとは思っているのですが、息子のサポートなどで毎日慌ただしくて、見直しができていません。家計管理するためにがんばってレシートを溜めて、食費の項目も一品ずつ家計表につけようとしているのですが、レシートの枚数が多すぎていつも頓挫。もはや何から手をつけていいのか分かりません」(サナエさん)
確かに支出が多すぎると、家計簿を細かくつけるのは至難の業です。がんばってもがんばっても管理できず、最後の砦として私共に相談に来てくださったようです。
まずサナエさんにお願いしたのは、ざっくりと「費目ごとに」家計表をつけてもらう作業です。レシートの中身を1品ずつ細かく転記する作業は続きませんから。
後日、サナエさんは3カ月かけて作ったという家計表を持参してくれました。「こちらに伺う前に、夫にも見せたら、うちはこんな家計だったのかと呆然としていました。私も、まさかここまでとは……」と、言い添えて。拝見し、ヒアリングを進めていくと、以下の問題点が見えてきました。
・波のある副業収入の最高収入時に帳尻が合う家計
・教育費と、習い事の送迎に伴う「時間つぶし」費用が青天井
・銀行口座とクレジットカードが多すぎて管理不能状態
・保障の重複などムダな保険だらけ
それぞれ、問題点とその改善策を掘り下げていきます。
■変動収入ありきの家計設計に
まず、収入について。
にもかかわらず、支出は、好調時の副業収入でトントンになっていました。サナエさんは「収入の変動が激しいので、どう管理したらよいか分からないんです」と話します。
理想は、固定給の中でやりくりをすること。テツヤさんは、てっきり妻もそのセオリーに従って家計管理していると思い込んでいたため、自分の働き方で家計がそれほど振り回されているとはつゆ知らず。もし夫がこの状況を知っていれば、貯蓄のためにもっと副業をがんばっていたのかもしれません。
しかし、サナエさんはクレジットカードの支払い額が多くなる月に限って、たまたま夫の副業収入が高く、運よく払えることが多かったため危機感が薄かった。また、自分の家計管理の至らなさを指摘されることを恐れ、多忙を理由に打ち明けられなかったそうです。
■教育費はそのまま、小遣いは2万円アップ
さて、支出の中でも突出して多かった費目は、教育費の20万5000円で、それに次ぐのが食費14万円、生命保険料8万円、小遣い8万円、テツヤさんの副業経費6万円です。
長男の教育費20万円超の内訳は、小学校の学費8万円程度に加え、父のテツヤさんに影響を受けたゴルフレッスン代や、将来のためのマンツーマンの英語教室、学校の授業についていくための補習塾などの複数の習い事で計12万円程度。
「教育費をかけすぎているのは分かっているんです。でも、息子が未就学児から楽しく続けている習い事をやめさせるのは忍びなくて。ただ、付属の中学校に進学して部活に入れば習い事も減るかもしれませんよね。それまでは、教育費は削らない方針でがんばりたいです」(サナエさん)
そこで、教育費の代わりに別の費目を削る作戦に。サナエさんは、長男を習い事先まで車で送った後、習い事が終わるまでの時間に付近のカフェで雑誌などを読んでほっと一息つく習慣がありました。割安なファミレスならいいのですが、近隣にはそれなりのカフェばかりで、料金もそれなり。結果、飲み物とスイーツで税込み2000円近くということも普通に起きてしまうのです。
その「時間つぶし」費が膨れ上がっていたので、上限をつけることにしたのです。家計改善前は、カフェ代は食費に、雑誌代は娯楽費に入っており、習い事送迎に伴う支出の実態が不透明になっていました。ここがあいまいになると、支出は青天井化します。
対策として、テツヤさんの小遣い8万円のほか、あえてサナエさんの小遣いを3万円確保。習い事の送迎にともなう飲食費や雑誌などの娯楽費は、3万円という予算を設けることで、メリハリを持たせました。
すると、小遣いは3万円増えたものの、食費と娯楽費の合計が3万円減り、プラスマイナスはゼロという結果に。あえてトントンになるように3万円に設定したわけですが、その他の月は3万円以上の節約効果があり、手ごたえを感じました。
■保障の重複分や貯蓄型保険を解約し、保険代は5万3000円をカット
生命保険料は夫婦合算して8万円。このうち、5万3000円をカットして2万7000円にしてもらいました。
まず医療保険に2本、がん保険に2本入っているなど、保障の重複が多かったので、最低限の医療保険に1本化。サナエさんは長男の出産時に保険の見直し相談に行った際、営業マンに勧められるまま、新たな商品に加入。その時点で、すでに入っていた保険は解約するように提案されたものの、忙しさにかまけて10年以上放置していたそう。多忙な人、ズボラな人は、「あとで解約すればいい」を前提に、新たに商品を契約するのは厳禁です。「あとで」はやってこず、延々、ムダな支出が続きます。
他にも、説明は受けたもののよく分からず焦って入った貯蓄型生命保険も解約へ。貯蓄が80万円しかないのですから、まずは保険より急な出費に備え、現金で貯めることが先です。目安は、生活費の7.5カ月分。
■休眠口座を解約しクレカも整理
ほったらかしといえば、休眠口座。これを持っている家庭は少なくないですが、これもおすすめしません。机の上がモノであふれ、大事なモノが見つからないのと同じように、保有口座やカードが多ければ多いほど、家計管理がブラックボックス化します。そこで、まず休眠口座を解約。
残した銀行口座は、①夫の給与振り込み用、兼、支払いの引き落とし用口座、②生活防衛資金を貯める口座の2つだけです。①に入金されたら、②に黒字になった5万円をすぐに入れ、天引き貯金します。
銀行口座が2つしかなければ、①の口座を見れば引き落としが足りるかどうかが一目瞭然。②の口座を見れば貯金残高を即答できます。
クレカは、「この店で買うならこのカードを使うとお得」と勧められるままに作ったものを全て解約し、本当に使うカード数枚に絞ってもらいました。その上で、例えば食費や日用品などの流動費はAカード、固定費の引き落としはBカード、夫の経費はCカードで決済、などと3枚のクレカを使い分けることに。
■細かく家計管理しなくても黒字になる
かくして、ザルだった家計を8万8000円もカットでき、月6万9100円の赤字だった家計が、1万8900円の黒字になりました。
とはいえ、支出は固定給の70万円を大きく超えた87万1100円。テツヤさんの副業が難航すると、瞬時に赤字に転落します。
それでも、サナエさんは、改善後の家計表を見て安堵の表情を浮かべていました。数字が大きく変わったことはもちろん、「細かくレシート管理しなくても、支出は減る」ことに気づいたからです。
「これまで、多忙にもかかわらず、肉や野菜など1品1品、レシートを見て細かく記録していました。それが大変過ぎて、結局は全体まで手が回らず、家計が破綻していました。
それが今は、3枚のクレカの明細を見れば、簡単に固定費や流動費を把握できる。もうレシートを取っておいたり、家計簿に転記したりしなくていいのかと思うと、すごく気が楽になったんです」
気持ちに余裕ができたサナエさん。「もっと早くこうしていれば、重複していた生命保険を解約できていたかもしれませんね」と苦笑する。
サナエさんに限らず、人は用事が多すぎると家計管理まで手が回らず、ザル家計になりやすい。「いかにムダな作業を減らすか」も、家計の黒字化には重要なファクターなのです。
サナエさんは、長男の手が離れたら、パートで働くことも視野に入れています。そうすると習い事の合間のカフェ代も減るでしょう。このままいくと老後資金はおろか、長男の中学、高校、大学と続く学費捻出も危うい。仕組みを整え、黒字化できた成功体験をもとに、貯蓄を増やしていってもらいたいものです。
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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。
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桜田 容子
ライター
明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)