“包丁が苦手だけど家で野菜をいっぱい食べたい”というニーズに応えるため、ピーラーやスライサーが数多く発売されている。各社の使い勝手はどうなのか。
生活史研究家の阿古真理さんが比較検証した――。
■進化し続けるキッチンツール
キッチンツール選びは悩ましい。その中でも最近は、調理時間を長引かせる「切る」作業をラクにするツールが充実し、台所の担い手を迷わせている。
キッチンツールは使い手の経験や器用さ、ライフスタイルなどによって、使いやすさの感覚が違う。テレビやウェブマガジンなどで使い勝手を検証する企画は多いが、「○○さんがいいと言っていたのに、使えない!」「○○でダメと書いていたけれど、自分は使いやすい」と思う台所の担い手はいる。今回もそうした企画の一つだが、私自身が不器用なこともあり、公平さを期したつもりでも判断が偏る可能性があることはご了承いただきたい。
さて、私はここ30年ほどオールステンレスで長さ10センチあまり、ジャガイモの芽取りがついたピーラーを、近所のスーパーで購入し使ってきた。だいたい数年で切れ味が悪くなるので買い替えている。
実家では、戦中生まれの母が子どもの頃に干し柿作りで重宝したと愛用していた、柄が木製で刃の幅が広い「皮むき器」を使っていた。しかし、野菜の皮が分厚く剥け過ぎるように感じていたので、私は実家を出てから見つけた、皮が薄く剥けるオールステンレス製を愛用してきた。しかし、ピーラーは進化を続け、今はさまざまなタイプが市場に投入されている。
ここ数年は、回転式ストレート刃のパール金属の製品を使っている。
他の製品はより使いやすいのか、それとも使いにくいのか。検証に当たり、タイプの異なる製品を選んでみた。
■各社のピーラーはどこが違うのか
まず、ニトリで売られていた同社製「3WAYピーラー」、キッチン用品専門店で見つけた、ドリームファーム社製、縦型ピーラーで砥石を内蔵する「Sharple」。こちらは人気のレストラン「sio」オーナー、鳥羽周作シェフとコラボした製品。それから、アマゾンで見つけた、「本格的な調理」ができると謳う下村工業製の「プログレード 快速ピーラー」だ。下村工業は、プロが愛用する製品を扱う刃物メーカーである。
ニトリは、宣伝文句通り「お値段以上」の生活用品が多いので、新生活を始めるにあたり、一通り買い揃える人も多そうだ。皮剥き用のほか、千切り用の刃、薄皮剥きの刃と3枚刃の製品だが、残り2組の刃が視界に入るため、皮を剥こうとする野菜が見えづらい。切れ味は可もなく不可もなくといった手応えで、最初にこれを使う人は、それなりに満足しそうだ。
薄皮剥き用の刃でトマトの皮を剥く写真、千切り用でキャベツを切る写真がパッケージにあるが、肝心の刃の部分が見えづらい。トマトを細かいギザギザの刃で剥くと、1センチほどでピーラーが滑った。ギザギザが大きい刃は、皮の表面をなでるだけだ。

ペンのような形のSharpleは、包丁と持ち方が似ている。砥石つきは一生ものと言えるかもしれない。使いこなせば、パッケージに掲載された鳥羽シェフの「実はこのペンシル型は使いやすいんですよね」「根菜の皮剥きに便利」といった言葉に共感できるのだろうか。しかし、切れ味はすでに数年使ってきたパール金属製と同じか若干劣る。
※参考価格を記載しています
■ピーラーの使いやすさの順位は
最後は、私が使い慣れたタイプでもある下村工業製。パール金属製との違いは、形状。刃がまっすぐではなく緩やかにカーブしているところと、持ち手の形が違う。皮を剥いたのは、ジャガイモ(たまたま入手したデストロイヤー)、若干古くなり皮が硬いズッキーニ。軽く、抵抗なくスーッと剥ける。考えてみれば、ピーラーで皮を剝きたい野菜は丸い形をしている。ジャガイモはもちろん、ニンジンや大根も曲面。素材に合わせた刃の形は、理に適う。

下村工業製を軽く感じるのは、持ち手が尻すぼみの形のパール金属製と逆で、持ち手の真ん中が膨らんでいるからか。握る手の形に合い余計な力が要らない。一方、パール金属製は手に力が入る。重さを測ったところ、下村工業製は約48グラムで、パール金属製は約42グラム。実は下村工業製のほうが重かった。
その後もそれぞれ、いくつかの野菜の皮を剥いた結果出した、使いやすさの順位は1位が下村工業、2位がパール金属、3位がSharple、4位がニトリだった。
ピーラーは、不器用な人でも安定的に薄く野菜の皮を剥ける点が便利だ。しかし、切れ味はバラつきがあることが今回わかった。持ちやすさも大事だが、パッケージに入ったピーラーは、店頭で試しに持って確かめることができないのは残念だ。
ただ、使い慣れているかそうでないかが、使い勝手に影響した可能性がある。そこで、初めて使うスライサーでも比較してみた。不器用な初心者にとって、どのメーカーのスライサーが使いやすいのか検証してみたい。

■スライサーの扱いやすさは
スライサーについては、各社形状はほぼ同じ。まず、ピーラーで1位になった下村工業製の「プログレード 厚み調整機能付スライサー」。約1ミリ幅に切れる「薄」、約1.5ミリの「中」、約2ミリの「厚」の3段階をダイヤルで調節できる。指先を守り収納時は刃のカバーになるホルダーつき。黒い本体がかっこいい。
それからニトリで、下村工業と同じく3段階の厚さが選べるもの。ホルダーつき。特に刃の性能はパッケージで謳っていない。3つ目に選んだのは、キッチン用品専門店おすすめの京セラ製「セラミックスライサー」。本体はオフホワイト。こちらも3段階調節が可能だが、約0.5ミリ、約1.3ミリ、約2ミリの設定になっている。刃の摩耗が少なく、金気を食材に移さないことが売り。
ホルダーもついている。
私はふだん、包丁でキャベツの千切りをしているが、3~4ミリ幅と分厚くなりがちだ。そこでまず、キャベツのスライスに挑戦した。3品とも厚さは一番薄い幅に設定した。それぞれ、ボウルの端にスライサーの端を引っ掛けつつ作業する。
まず下村工業製。できる千切りは、とんかつ店で出されるように細い。しかし慣れないせいか、外側の葉がどんどん広がってしまう。そして、切れ端が調理台に飛び散る。また、丸いキャベツの背にホルダーを当てづらいので、素手で最後まで切ろうとして、薬指を切ってしまった。全治1週間。刃物は、正しく使わなければならないことを学習した。
うまく切れなかった部分は、包丁で切ることにした。
他のスライサーも、手応えをあまり感じないせいか、切れ味の違いはそれほど明確に出なかった。何度か使ううち、キュウリやウリ、大根の薄切りは、特に下村工業製がスピーディで扱いやすいことに気がついた。包丁で切るより作業も速く手の負担が少ない。
※参考価格を記載しています
■違いが出たのは「厚さ調節」のしやすさだった
スライサーで切った野菜で、夕食を整えた。ウリと大根が入ったスープと、キャベツの千切り・キュウリのスライスを添えた豚のショウガ焼き。
切れ味の1位は下村工業、2位京セラ、3位ニトリ。しかし、使い手の好みや技術により順位が変動しそうなほど、わずかな違いだった。また、刃の摩耗が少ないセラミック製である京セラ製は、他の製品より長期間使える可能性はある。
使い勝手の違いがはっきり出たのは、厚さ調節の方法だった。下村工業製は本体が黒で側面の調整用のダイヤルが赤く見えやすいうえ、動作が少なくて済む。しかしダイヤルは固い。京セラ製は裏についたバーを回すが、本体との隙間が狭いうえ固くて操作しにくい。ニトリ製は裏側についたつまみを上下させる形で矢印と数字が読みやすい。調節しやすさは、1位ニトリ、2位下村工業、3位京セラ。
スライサーは細かい隙間が多く、刃物部分も大きく鋭いため、お手入れに手間がかかる。厚さ調節のパーツも凹凸や隙間を増やす。またケガをしたくないので水で勢いよく流して野菜くずを落としたが、切れっ端は残りがちだ。食洗機があればきれいに落とせるのだろうか。
あるいは亀の子たわしが便利かもしれない。金だわしは、凸凹に引っ掛かるだろう。お手入れしやすさを求めるなら、厚さの選択肢はないほうがよさそうだ。切れ端がボウルの外に飛び散るので、ケース付きの製品を選んだほうがよいかもしれない。
■「薄切り野菜の食感」を楽しみたい人におススメ
スライサーの最大の魅力は、力を入れなくても素早く野菜を切れること。将来、握力が弱ってきたときに重宝しそうに思う。そのとき、よりラクに使える道具を選ぶとよいだろう。厚さ調節をあまりしないなら、下村工業製が一番使いやすかった。
最後に、ズッキーニをリボン状に切ることに挑戦。以前、パール金属のピーラーで作ろうとしたが、プツプツ切れるので断念していた。下村工業のピーラーではスライスできたが、やはり途中で切れ、ズッキーニのお尻部分が分厚めに残る。
また、半分ほど切ると使いづらくなったので、下村工業のスライサーに切り替えると、少し厚いが安定した仕上がりになった。できたスライスに塩を振ってしばらく置き、絞って水分を出してから、ワインビネガーとディルを散らし、ズッキーニのリボンサラダにする。初めて憧れのサラダを作れて、性能がよいキッチンツールの便利さを知った。
スライサーを合わせて使ったことで、刃の切れ味に加え、道具を使う動作をよく研究していると思われる点で、下村工業製はひと味違うことが分かった。「プログレード」のブランド名は、料理をひんぱんにする人が快適に使い続けられる、という意味を込めているのかもしれない。
刃物の便利グッズは、時短が目的で購入されている側面もあるが、今回試したツールのいずれも、後始末まで考慮すると時短になるかは微妙だ。おすすめしたい相手は、薄く切った野菜の食感を楽しみたい人だ。料理の味は意外と素材の形状に左右される。そこがもしかすると、「料理上手な人にこそ」のポイントかもしれない。
結局のところ、道具選びのポイントは料理に何を求めるかに尽きる。あなたはどんな料理を作りたいですか?

----------

阿古 真理(あこ・まり)

生活史研究家

1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

----------

(生活史研究家 阿古 真理)
編集部おすすめ