子どもが反抗期になったら、親はどうすればいいのか。精神科医さわさんは「反抗期は、子どもが自己主張を始める自然な発達プロセスだ。
親にとっては、子育ての思い込みを見直す絶好の機会でもある」という――。
■「親が正しいわけじゃない」という気づき
ウザい、うるさいと言われる。話しかけても無視されたり、睨みつけられたりする……。
子どもが小学校高学年から中学生ぐらいになると、こんなふうに態度が変化して「どうしていいかわからない……」と悩まれている親御さんも多いと思います。毎日、バトルになっているご家庭もあるかもしれません。
いわゆる「反抗期」ですが、私は悪いものだとは思っていません。小学校の低学年ごろまでの子どもにとってプライオリティが高いのは、やはり親や家族の存在です。親と一緒にいたいと思い、親の言っていることが正しいと信じています。
ところが成長によって家族以外の人との関わりが増えていくと、「あれ、うちの親の言っていることが、正しいわけではないのかな?」と感じるようになっていきます。そうやって自分なりの考えや意見を持つようになったり、「親に甘えたくない」という自立心も芽生えてきたりします。
そこに思春期特有のホルモンバランスの変化が重なり、情動不安定になりやすい時期です。そのために感情が揺れやすくなり、コントロールが難しくなります。

つまりこの時期に起こっていることは、思春期の葛藤であり、子どもが自己主張を始めるごく自然な発達プロセスです。私はそもそも「反抗」という言葉は適切ではないと思っています。
■子育ての「~すべき」を疑うチャンス
見方を変えれば、反抗期とは「子どもが親に反抗する時期」なのではなく、「親が子どもをコントロールしようと思ってもできなくなる時期」なのではないでしょうか。
反抗されたと思うから、親も苦しくなってしまう面もあると思います。
これは反抗期に限らず、子育て期を通して言えることですが、親が子どもに対してイラッとしたり、難しさを感じたりする時、親自身が抱えている「こうすべき」という理想や固定観念にとらわれている可能性があります。
もし、親御さんが「子どもが反抗して困っている」と感じるなら、無意識に「子どもは親に従うべき」「自分の思い通りの子になってほしい」という価値観を押し付けようとしていないか考えてみてほしいのです。
「なぜ、この子は私の言うことを聞かないのか?」という問いを、「なぜ、自分は反抗されたと感じたのか?」「どうして、それをダメだと思うのか」と変えていくことで、自身の子育てを見つめ直すチャンスになります。
■親子関係にヒビが入っても、自然と直る
私が診察で出会った親御さんたちも、思春期のお子さんとの関係に悩んでおられる方はとても多いです。例えば「一緒に食事をするのを嫌がられる」「ちょっとした言葉にも反発される」といった場面に強いショックを受けて、どう接してよいかわからなくなってしまうケースです。
ある親御さんは「こんな言い方をされた」「こんなこともできない」とくり返し話していました。私は「理想とする態度ではなかったんですね」と気持ちを受け止めながらも、「どうしてそれをひどい言い方だと感じたのでしょう?」「なぜできないことを良くないと思ったのでしょう?」と問いかけを続けていきました。
後にその方が、私の書籍に書いた「反抗という言葉は適切ではない」「反抗期は親が押し付けている価値観を見直す機会」という内容を読んでくださり、「初めてこれまでの関わり方を振り返ることができました」と話してくれました。

そこから少しずつ「~すべき」を手放し、お子さんの行動を見守れるようになった時、親子関係が自然に改善していったのです。
■児童精神科医の至言「親はすっこんでろ」
そうはいってもわが子にひどい言葉を投げかけられたり、無視されたりするのはいたたまれないでしょう。「この時期、親はどう過ごせばいいですか?」というご質問もよく寄せられます。
これについては、私が尊敬する信州大学医学部教授であり、児童精神科医の本田秀夫先生の言葉「親はすっこんでろ」が最も的確だと思います。何かしらコントロールしようとすると、関係が悪化することになりかねないからです。
こう言うと「このまま勉強せずに、高校に行けなくなったら困ります」と心配する親御さんもいます。もちろん進学や学業は大切ですが、それ以上に大事なのは子ども自身の選択や意欲です。でも、なぜ高校に行けなくなると困るのでしょうか。
実は「勉強しないと困る」と考えている親自身が、「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」という後悔を子どもに重ねているというケースもあります。
反抗期につき合う友達が変わって、「問題行動の多いグループとつき合うようになったらどうするのか」と言われることもあります。どうして問題行動の多いグループとつき合うと心配で、優秀な友達とつき合っていれば安心なのか。すべて自分の問いに変えてみてほしいのです。

■会話ができる時に、親の気持ちを伝える
結局、親は見守るしかありません。ただし、見守るのと見放すのは違います。そして、すべて許すということでもありません。もし、親に暴力をふるうなどの行為があった場合は、毅然とした態度で警察や児童相談所など、適切な機関に相談することも大切でしょう。家庭内で隠したことで、結果的に状況が悪化するケースは多いです。
ただ、激しく反抗しながらも、実は親に対して申し訳ないと思っている子も少なくありません。365日、24時間全く親と口をきかないわけではないと思うので、たまに話ができた時に「お母さん、久しぶりにあなたとしゃべれてうれしかったな」と言葉にしていくのは大事だと思います。
また、どんなに強がっていても、思春期は人間関係が複雑だったり、実は学校でのトラブルを抱えていたりということもあります。「何か困っていることがあったら言ってね」という言葉は常に伝えてほしいです。
■反抗したくてもできない子に残る“傷”
児童精神科の立場から見ると、子どもが反抗できる背景にあるのは、親は離れていかないという絶対的な安心感があるというケースが多いです。つまり、反抗できる背景には、安心感や信頼関係があることが多いのです。
これを聞いて「うちの子は反抗期がない」と心配する必要はありません。
最近は反抗期がない子も多いと言われていますが、反抗期に関してはかなり個人差があります。
ただ、親によって感情が抑圧されていたり、自由に感情が出せなかったりする環境ゆえに、本当は反抗したくてもできないのであれば、それは心配すべきケースです。私が心に悩みを抱えた大人の診察の際に、反抗期があったかを聞くのもそのためです。
■「あなたはどうしたい?」と問いかける
親にとって反抗期は、子どもをコントロールしたい気持ちと、子どもを信じようとする勇気とのせめぎ合いですが、信じることを選べば成長の糧となるはずです。先が見えないように感じられるかもしれませんが、いつか終わりが来ることがほとんどです。
また、親自身の更年期と子どもの反抗期が重なってつらいという訴えも聞きます。まずは自分を労ってほしいです。そして、つらい時は1人で抱えずに助けを求めてください。スクールカウンセラーでもいいですし、児童相談所などの公的機関に相談するのもいいでしょう。
私がいつも診察室でお伝えしていることがあります。子育てで本当に大切なのは、子どもが生きたいように生きるのをサポートすることです。では、その答えはどこにあるのかというと、親御さんが考えていることが必ずしも正解ではないですし、私のような専門家の中にもその答えはありません。
答えは子ども自身の中にしかないのです。
だから、日頃から子どもの心の声に耳を傾けること、そして「あなたはどうしたい?」という問いかけをしていくことがとても大事です。

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精神科医さわ(せいしんかいさわ)

精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師

医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ5万人以上の診察に携わっている。著書に発行部数6万部の『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)と2万部の『「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)がある。

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(精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師 精神科医さわ)
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